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 私の配属先は、洗濯場と薬草園の兼任だった。
 これがまた、笑えるほどにハードワーク。

「ねえ! 東宮様の寝具、汚れが落ちてないわよ!」

「すみませーん!(……いや、これ絶対におねしょじゃん。十歳だもんね、仕方ないね)」

 洗濯板で指先を真っ赤にしながら、私はひたすら布を洗う。

 この国の洗濯事情は原始的だ。
 洗剤代わりの灰を使い、腕の力で汚れを落とす。
 後宮の下女たちは、古株の意地悪なオバサンか、将来の成り上がりを夢見る若い娘たちに二分されている。
 私のように無心で汚れを落とすのがストレス解消というタイプは珍しいらしく、意外と重宝された。

 そんな日々の合間、唯一の癒やしが薬草園の手入れだ。
 ここは洗濯場ほど監視が厳しくない。

「よし、今日のノルマ終了」

 私は誰もいない薬草園の隅で、ふう、と息を吐いた。
 懐から取り出したのは、自作のメモ帳。
 下っ端なので紙は貴重品だが、厨房からくすねた竹簡や端切れに、私は日本語で記録をつけていた。

 尚食局の在庫に計算ミスあり。
 洗濯場、洗剤の配合を変えれば効率二倍。
 後宮の予算無駄遣い多め

 前世で経理事務をやっていた癖で、どうしても数字の辻褄が合わないのが気になってしまう。

 客観的に見て、この後宮はガタガタだ。
 頂点に立つ皇后と、その実家である丞相一族が甘い汁を吸いすぎて、末端の首がしまっている。

「……ま、私が心配することじゃないけど。いつクビになってもいいように、逃走資金だけは計算しておこう」

 私は漢字とひらがなが混じった、この世界の人間には暗号にしか見えない文字をさらさらと書き連ねる。
 その時、頭上の木々がササッと揺れた気がした。

「……気のせい?」

 周囲を見回すが、そこには手入れの行き届いていない薔薇の茂みと、初夏の生ぬるい風があるだけ。

 しかし、私は気づいていなかった。
 その茂みの向こう、月宵宮へと続く小道の影から、この世の終わりほど美しいと形容される冷徹な瞳が、じっと私の手元を見つめていたことに。

「……妙な文字だな」

 低く、けれど鈴を転がすような、男とも女ともつかぬ艶やかな声。
 それが私の運命を、洗濯桶の中から引きずり出すことになるのだが——。

 私はなんとなく嫌な予感を覚えて、急いでメモを懐に隠した。