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 腐敗した庭園のティータイム
 皇后主催のお茶会は、後宮で最も絢爛豪華な庭園で開かれていた。
 咲き乱れる牡丹、人工的に作られた池、そして目も眩むような衣装を纏った高貴な女性たち。
 けれど、その場の空気は、夏の湿気と混じり合って、息が詰まるほど淀んでいた。

(……うわぁ。これが権力者の巣窟。空気清浄機置きたい)

 私は月宵宮の侍女として、主である薔薇姫(莉鷹)様の後ろに控えていた。
 上座には、この国の実質的な支配者である三十五歳の皇后。その隣には、居心地が悪そうに眉を寄せている十二歳の東宮妃の凛星様。

 薔薇姫様の今日の装いは、目の覚めるような深紅の異国風の衣。
 完璧に施された化粧、計算し尽くされた角度で挿された簪。その顔面凶器っぷりは、この場にいる全ての女性を、嫉妬すら通り越して絶望させるほどの輝きを放っていた。

「……あら、薔薇姫。今日はまた一段と派手な装いね。後宮の責務を全うしない事実を、その美貌で誤魔化そうという魂胆かしら?」

 開口一番、皇后が扇で口元を隠しながら毒を吐いた。
 周囲の妃たちが、クスクスと追従笑いをもらす。
 
 その瞬間。
 私は背筋が凍るのを感じた。
 
 莉鷹様が、ほんの少しだけ肩を震わせたのだ。
 
「……皇后陛下。そのような、手厳しいことを仰らないでくださいませ」
 
 発された声は、鈴を転がすような、か弱く、守ってあげたくなるような女の声。
 莉鷹様は伏し目がちに、長い睫毛を震わせた。その仕草一つで、周囲の空気が、いじめる皇后対可哀想な薔薇姫の構図へと変わる。
 
(すごい……完璧だ。完璧すぎて、怖い)
 
 私は知っている。この美しいドレスの下にあるのが、鋼のように鍛え上げられた男の肉体であることを。
 この嫋やかな仕草の裏で、彼が冷徹にこの場の力関係を計算していることを。
 
 これは演技ではない。己の肉体と声を素材に使った、完璧な擬態だ。

 源内さんが言っていた「獲物を仕留めるためなら指を切り落とす」という覚悟。
 彼は今、男としての自分を切り落とし、薔薇姫という器を模り、最強の武器になりきっているのだ。