完璧美貌な女装公子は、夜だけ猛獣へと豹変する~顔面凶器な女装公子の秘密を握ったら、知恵も身も心もまるごとお買い上げされました~

「……地獄、ですか」

 私は、今やお守り代わりとなっているメモ帳を懐の上から押さえた。
 源内さんが、私の反応を伺うように目を細める。

「……怖くなったか?」

「いえ。むしろ、清々しいです。ブラック企業で使い潰されるより、地獄まで連れて行ってくれるほど執着してくれる上司の方が、まだやりがいがありますから」

 私の答えに、琥珀さんと源内さんは顔を見合わせ、同時に吹き出した。

「なるほど! 莉鷹様が惚れ込むわけだ。君、本当に変わってるね」

「……図太いな。まあ、道具としては最高だ」

 二人の空気から、私を新入りの使い捨て駒ではなく、同じ泥舟に乗る仲間として認めたような気配が漂う。

「さあ、そろそろお茶会の時間だ。皇后様の嫌がらせは、莉鷹様が一番嫌う『汚れた盤面』。櫻花、君のその異質な知恵で、あの方の盤面を綺麗に掃除してあげてよ」

「……承知しました。残業代は、たっぷり上乗せしてもらうつもりですから」

 私は木盆を受け取り直し、凛とした足取りで、きらびやかで醜悪な社交の戦場へと歩き出した。

 背後で、琥珀さんが「いいかい、あの方をあまり焦らしちゃダメだよ」と、不敵な笑みで茶化す声が聞こえた気がしたが、私はわざと無視することにした。