お茶会の準備で慌ただしい月宵宮の裏庭。
私は、重い茶器を運びながら、護衛の琥珀さんと、無口な方の武官源内さんに捕まっていた。
「櫻花、ちょっといいかな?」
琥珀さんが、いつものゆるふわな笑みを浮かべながら、私の手から茶器の木盆をひょいと取り上げた。
「あ、琥珀さん。ありがとうございます。……どうかしました?」
「いや、昨夜さ。莉鷹様にかな~り深く、喰われた? みたいだから、一応忠告しておこうと思って」
「く、喰われてないです!」
琥珀さんの言葉に、私は思わず自分の首筋を隠した。
昨夜のあの、逃げ場のない熱を思い出し、耳たぶが熱くなる。
すると、それまで空気のように存在感を消していた源内さんが、地を這うような低い声で言った。
「……莉鷹様がお前に正体を明かしたのならば、お前も知っておいた方が良い。あの方は、ただの綺麗な顔をした野心家ではない。必要とあらば自分の指を切り落としてでも獲物を仕留める御方だ」
「……源内さん?」
いつになくシリアスな二人の空気に、私は背筋を正す。
「莉鷹様が女装してまでこの後宮に居座っているのは、単に東宮様のためだけじゃないんだよ」
琥珀さんが、木陰で声を潜める。
「あの方は、自分を裏切った者、あるいは自分の盤面を汚した者には、死よりも残酷な絶望を与える。かつて、賢帝の誉れ高い前帝の葬儀の裏で、あの方を侮辱した高官がどうなったか知ってる?」
「……いえ」
「一晩で、その家門の全財産と地位、そして家族の命まで、すべて合法的に奪い去った。あの方は、一度、懐に取り込むと決めたものには執着するけれど、それを損なう者には、慈悲の欠片もない」
琥珀さんの目が、一瞬だけ、笑っていない本職のそれに変わった。
「櫻花。君は今、あの方の『お気に入り』で『所有物』となった。それは、この後宮で最も安全な特等席であると同時に、一歩間違えれば、あの方と一緒に地獄まで心中する片道切符なんだよ」
私は、重い茶器を運びながら、護衛の琥珀さんと、無口な方の武官源内さんに捕まっていた。
「櫻花、ちょっといいかな?」
琥珀さんが、いつものゆるふわな笑みを浮かべながら、私の手から茶器の木盆をひょいと取り上げた。
「あ、琥珀さん。ありがとうございます。……どうかしました?」
「いや、昨夜さ。莉鷹様にかな~り深く、喰われた? みたいだから、一応忠告しておこうと思って」
「く、喰われてないです!」
琥珀さんの言葉に、私は思わず自分の首筋を隠した。
昨夜のあの、逃げ場のない熱を思い出し、耳たぶが熱くなる。
すると、それまで空気のように存在感を消していた源内さんが、地を這うような低い声で言った。
「……莉鷹様がお前に正体を明かしたのならば、お前も知っておいた方が良い。あの方は、ただの綺麗な顔をした野心家ではない。必要とあらば自分の指を切り落としてでも獲物を仕留める御方だ」
「……源内さん?」
いつになくシリアスな二人の空気に、私は背筋を正す。
「莉鷹様が女装してまでこの後宮に居座っているのは、単に東宮様のためだけじゃないんだよ」
琥珀さんが、木陰で声を潜める。
「あの方は、自分を裏切った者、あるいは自分の盤面を汚した者には、死よりも残酷な絶望を与える。かつて、賢帝の誉れ高い前帝の葬儀の裏で、あの方を侮辱した高官がどうなったか知ってる?」
「……いえ」
「一晩で、その家門の全財産と地位、そして家族の命まで、すべて合法的に奪い去った。あの方は、一度、懐に取り込むと決めたものには執着するけれど、それを損なう者には、慈悲の欠片もない」
琥珀さんの目が、一瞬だけ、笑っていない本職のそれに変わった。
「櫻花。君は今、あの方の『お気に入り』で『所有物』となった。それは、この後宮で最も安全な特等席であると同時に、一歩間違えれば、あの方と一緒に地獄まで心中する片道切符なんだよ」

