私は、人生で一番と言っていいほど重い体を引きずって、月宵宮の主寝室へと向かっていた。
鏡の前では、すでにこの宮の主である『薔薇姫』としての仮面を被り始めた莉鷹様が、老女官たちに髪を整えさせている。
(……昨夜のあれは、夢じゃなかったんだよね。間違いなく、男の人の腕だったし、男の人の声だったし)
私の首筋には、昨夜彼がわざと残した指の跡が薄く残っている気がして、襟元をこれでもかと正す。
「遅いな、櫻花」
鏡越しに、昨夜の猛獣と同じ瞳が私を射抜いた。
声は、また少しだけ涼やかな鈴の音に戻っている。
けれど、その瞳の奥には私だけに向けられた所有権の主張が見え隠れしていた。
「申し訳ありません。昨夜は……『残業』が長引いたもので」
「ふん。お前を『侍女』に格上げしたのだから、喜べ。これからは私の身の回りの世話、それから……そうだな」
莉鷹様は、老女官たちに席を外すよう手で合図した。
部屋に二人きりになった瞬間、彼はふっと表情を崩し、低い男の声で囁く。
「まずは毒味だ。私の口に入るものすべて、お前が先に確認しろ」
鏡の前では、すでにこの宮の主である『薔薇姫』としての仮面を被り始めた莉鷹様が、老女官たちに髪を整えさせている。
(……昨夜のあれは、夢じゃなかったんだよね。間違いなく、男の人の腕だったし、男の人の声だったし)
私の首筋には、昨夜彼がわざと残した指の跡が薄く残っている気がして、襟元をこれでもかと正す。
「遅いな、櫻花」
鏡越しに、昨夜の猛獣と同じ瞳が私を射抜いた。
声は、また少しだけ涼やかな鈴の音に戻っている。
けれど、その瞳の奥には私だけに向けられた所有権の主張が見え隠れしていた。
「申し訳ありません。昨夜は……『残業』が長引いたもので」
「ふん。お前を『侍女』に格上げしたのだから、喜べ。これからは私の身の回りの世話、それから……そうだな」
莉鷹様は、老女官たちに席を外すよう手で合図した。
部屋に二人きりになった瞬間、彼はふっと表情を崩し、低い男の声で囁く。
「まずは毒味だ。私の口に入るものすべて、お前が先に確認しろ」

