完璧美貌な女装公子は、夜だけ猛獣へと豹変する~顔面凶器な女装公子の秘密を握ったら、知恵も身も心もまるごとお買い上げされました~

 その後、調子に乗って主に軽口を叩いてしまった私は、特別報酬という名の追加労働である、過去三年の宮中支出の整合性チェックという処罰を受けていた。

「……ふぁ。もう丑三つ時じゃん。ブラック企業でもここまで働かさなかったよ」

 伸びを一つして、私は冷めたお茶を飲み干そうとしたが、急に喉の渇きを覚えた。
 宮の台所へ向かおうと廊下に出た時、薔薇姫様の寝所から、微かな音が聞こえてきた。

 ——重いものが擦れるような、あるいは、何かが床を叩くような音。

(……泥棒? いや、この宮に限ってそれはない。護衛の琥珀さんたちがいるし)

 不審に思った私は、そっと寝所の扉に近づいた。
 普段なら絶対に近づかない。
 けれど、今日は昼間の間諜ごっとのせいで、少しだけ感覚が麻痺していたのかもしれない。

 僅かに開いた隙間から、中を覗き込む。
 そこには、銀月の光を背に受け、上半身を剥き出しにした誰か、がいた。

(……えっ?)

 そこにあるはずの、豊かな胸の膨らみはない。
 代わりにあったのは、硬く、しなやかに鍛え上げられた男の背中だった。
 背骨に沿って走る美しい筋肉のライン。肩から腕にかけての、女性のものとは明らかに違う骨格の逞しさ。

「……っ」

 思わず息を呑んだ音が、静寂の中で大きく響いた。