完璧美貌な女装公子は、夜だけ猛獣へと豹変する~顔面凶器な女装公子の秘密を握ったら、知恵も身も心もまるごとお買い上げされました~

 手紙を受け取った凛星様は、その場で封を切った。
 中を読み進めるうちに、彼女の幼い顔立ちが、ふっと公人のそれに変わる。

「……そう。薔薇姫は、こう仰っているのね」

「何か、お返事はございますか?」

「いいえ。でも……お前、帰り道には気をつけなさい。今の後宮は、壁に耳あり、障子にメアリーよ」

「……え、メアリー?」

 思わず聞き返したが、凛星様はフンと鼻を鳴らして背を向けた。
 どうやら彼女なりの警告らしい。
 というか、ダジャレっぽい響きがちょっと気になる。
 もしかして私と同じ転生者とか?
 ないないない。

  帰り道。私はわざと遠回りをして、人目の少ない薬草園の脇を通りかかった。
 すると案の定、物陰から数人の女官たちが私の様子を伺っているのに気づく。

(もしかして今の私、皇后派の人間から『月宵宮と木蓮宮が結託している証拠』を運ぶ間諜とか、疑われていたり)

 普通の下女なら、ここで震え上がるだろう。
 けれど私は、現代っ子のドライな思考で計算する。

(捕まって拷問されるのは勘弁だけど、もしここで私が『無能なふり』をして、情報をわざと間違えて流せば……あの顔面凶器の主人は、もっと面白がるかな?)

 私はわざとらしく、空の懐を大切そうに押さえ、キョロキョロと不審な動きをしながら歩き始めた。
 いわゆる、下手くそなスパイの演技である。

 月宵宮に戻り、主である薔薇姫にそのことを報告すると、彼女は鏡の前で口角を吊り上げた。

「お前、本当に図太いな。皇后の飼い犬どもを、あえて翻弄してきたというわけか」

「おかげで、帰りに美味しそうな果物をくすねる隙もありませんでしたし、庭師のおじいさんにも会えませんでした」

「……ふっ、あはははは!」

 薔薇姫が、これまで見せたことのないような低い、けれど爽快な声で笑った。

「櫻花。お前が白か黒か、そんなことはもうどうでもいい。お前は、私がこれまで出会った中で最も『使い勝手のいい道具』だよ」

 ……道具。
 その言葉に少しだけカチンときた私は、ニコリと笑って言い返した。

「道具には適切な保全管理が必要ですよ。具体的には、特別報酬とか、美味しいお茶菓子とか、借金の肩代わりとか」