地下室の件がきっかけで、僕はどこか生きた心地がせずにいた。一度自宅に返すというてもあったが、それでは逆効果で怪奇現象に苛まれやすいと、暫くの間は菊山家にお邪魔することが決まっている。
お父さんも深刻さに気付き、有名な霊媒師に連絡を取ってみると模索し始めたのだ。それくらい、地下室には強力な呪いを持つ人形が集結している。
恐らく彼らは、僕の弱った心に漬け込んで悪魔のように囁いたのだ。
これには千歳さんも小椿くんも異変に明らかに気付いたようで、二人とも険しい顔をしていたのは忘れない。
しかし、人形の声が聞こえる事ぐらいしか分からない僕は、彼らが一体何を感じ取っているのかは上手く想像ができずにいた。
そして、この件以来信永くんは僕がやることなす事を逐一報告しろとまで命令してきたくらいだ。
「なぁ、音羽くん。菊山一体どうしちゃったの……? いつも以上に警戒心が強くない? 今にも唸りそうな感じなんだけれど」
「あはは……。そ、そうかな?」
真白くんたちは、信永くんの更なる鋭い眼光に萎縮するまでになっていた。今回は彼だけではなく色んな人が、深刻にするため、僕も大人しく従おう。
そして、放課後へと突入し、僕たちは菊山家へと帰宅する。いつも通り子守係の仕事を済ませ、夕食の準備を敦くんとしていると、二階から降りてきた信永くんが玄関へと向かった。
僕は何となく気になり、彼の方へと駆け寄る。
「ど、どこに行くの?」
「ん? あぁ、ちょっと用事があってな。すぐに戻って来るから」よく見ると、外出するのかパーカーとズボンに着替え、肩に下げる鞄を持っている。
僕は、靴紐を結ぶ信永くんを見下ろして「そっか」と声が出た。
信永くんは俯く僕に、
「何辛気臭い顔してんだよ」と苦笑する。
「だって……僕のせいでみんなが……」
「だから、そうやった自分を責めんなって。どうせいずれ立ち向かわなければならない事だったんだよ。今回は遂にそれが来ただけだよ。面倒事は早めに終わらせた方が良いだろ?」
自論を語られ、僕は頷かざるを得なくなる。無理して僕を元気付けようとしなくて良いんだよ。なんて、言う資格はない。
「信永くん、死なないでね……」
「……分かってるよ。お前を置いて死ぬわけねーから」
その言葉だけで、今の沈んだ心も救われるような気がした。しかし信永くんはその日の夜、菊山家に帰ってくることはなかった。
◇
クラス内では珍しく辺りが騒然としている。その理由の先には、人気のない席。本日も信永くんは欠席だ。
彼が行方不明になってから二日目。信永くんの噂は瞬く間に広がり、心配の声があちこちから聞こえる。
僕は小椿くんと共に、信永くんへの連絡を試みた。ツーツーという着信が切れたのか、小椿くんは諦めたように首を振る。
「駄目だ。やっぱり、連絡も付かない」
「そんな……」何となく分かってはいたが、結果が見えると更に落胆してしまう。
「一回、椿坂さんに聞いてみようと思う。何だか凄く、嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感……?」
「まぁ、信永は人一倍警戒心が強い奴だからそう簡単には死なないと思うけれどね」
あくまでも予想と付け加える彼に、僕は内心不安でいっぱいだった。だけど、小椿くんは「言っておくけど、これは音羽くんも気を付けなければいけない事だからね」と釘を刺される。
「え?」
「呪いが進行している以上、いつ何が起きてもおかしくはないって思っておいた方がいいよ。臭いがまた強くなってるんだから」
小椿くんは目を逸らしながら忠告してくれる。以前までは、会話どころか目も合わせてくれなかったのに、僕の事を思って念をこませてくれる。
お昼休み、僕はいつもの購買足を運んでいた。信永くんが居る時は一緒に付き添ってくれたが、一人となると少し落ち着かない。
そんな中、目の前に最も会いたくない人物を見つけて歩が止まる。彼は僕の顔を見るなり、満面の笑みで向かってきた。
「あれ、音羽くんじゃないか。先日ぶりだね」
「椿坂さん……」
穏やかな視線が向けられるが、心臓を鷲掴みされたような違和感が止まらない。心なしかキラリと光る丸眼鏡は僕を捕えているように思えた。
「お互い違う場所に居るから話す機会が作れないって思ってたんだけれど、会えてよかったよ」
ひらりと振られた手に、思わず後退りしてしまう。僕はその好意に答えず、唐突に問いかけた。
「信永くんは、どこに居るんですか?」
「んん〜?」
「し、知ってるんですよね。信永くんの居場所……」
大和さんたちや小椿くんでも知らないなら、彼こそ知っている。僕の中で謎の確証が芽生えた。椿坂さんは態とらしいお惚けで、「何のかな」と呟いた。
「ご、誤魔化さないでください」話を逸らされる前に出る釘を打つ。
すると、何か思いついたような椿坂さんが「そうだぁ」と声を上げた。
「ねぇ、音羽くんってさぁ。お人形好きだったりするかい?」
「っへ? に、人形ですか……」
「うん、そう。お人形」
至って平然な様子、寧ろどこか嬉しそうな声色が耳を撫でる。そして、僕は目の前で禁断の誘いを受けてしまった。
「今日の放課後、僕の家に来ないかい? 素敵な物を見せてあげるよ」
◇
お父さんも深刻さに気付き、有名な霊媒師に連絡を取ってみると模索し始めたのだ。それくらい、地下室には強力な呪いを持つ人形が集結している。
恐らく彼らは、僕の弱った心に漬け込んで悪魔のように囁いたのだ。
これには千歳さんも小椿くんも異変に明らかに気付いたようで、二人とも険しい顔をしていたのは忘れない。
しかし、人形の声が聞こえる事ぐらいしか分からない僕は、彼らが一体何を感じ取っているのかは上手く想像ができずにいた。
そして、この件以来信永くんは僕がやることなす事を逐一報告しろとまで命令してきたくらいだ。
「なぁ、音羽くん。菊山一体どうしちゃったの……? いつも以上に警戒心が強くない? 今にも唸りそうな感じなんだけれど」
「あはは……。そ、そうかな?」
真白くんたちは、信永くんの更なる鋭い眼光に萎縮するまでになっていた。今回は彼だけではなく色んな人が、深刻にするため、僕も大人しく従おう。
そして、放課後へと突入し、僕たちは菊山家へと帰宅する。いつも通り子守係の仕事を済ませ、夕食の準備を敦くんとしていると、二階から降りてきた信永くんが玄関へと向かった。
僕は何となく気になり、彼の方へと駆け寄る。
「ど、どこに行くの?」
「ん? あぁ、ちょっと用事があってな。すぐに戻って来るから」よく見ると、外出するのかパーカーとズボンに着替え、肩に下げる鞄を持っている。
僕は、靴紐を結ぶ信永くんを見下ろして「そっか」と声が出た。
信永くんは俯く僕に、
「何辛気臭い顔してんだよ」と苦笑する。
「だって……僕のせいでみんなが……」
「だから、そうやった自分を責めんなって。どうせいずれ立ち向かわなければならない事だったんだよ。今回は遂にそれが来ただけだよ。面倒事は早めに終わらせた方が良いだろ?」
自論を語られ、僕は頷かざるを得なくなる。無理して僕を元気付けようとしなくて良いんだよ。なんて、言う資格はない。
「信永くん、死なないでね……」
「……分かってるよ。お前を置いて死ぬわけねーから」
その言葉だけで、今の沈んだ心も救われるような気がした。しかし信永くんはその日の夜、菊山家に帰ってくることはなかった。
◇
クラス内では珍しく辺りが騒然としている。その理由の先には、人気のない席。本日も信永くんは欠席だ。
彼が行方不明になってから二日目。信永くんの噂は瞬く間に広がり、心配の声があちこちから聞こえる。
僕は小椿くんと共に、信永くんへの連絡を試みた。ツーツーという着信が切れたのか、小椿くんは諦めたように首を振る。
「駄目だ。やっぱり、連絡も付かない」
「そんな……」何となく分かってはいたが、結果が見えると更に落胆してしまう。
「一回、椿坂さんに聞いてみようと思う。何だか凄く、嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感……?」
「まぁ、信永は人一倍警戒心が強い奴だからそう簡単には死なないと思うけれどね」
あくまでも予想と付け加える彼に、僕は内心不安でいっぱいだった。だけど、小椿くんは「言っておくけど、これは音羽くんも気を付けなければいけない事だからね」と釘を刺される。
「え?」
「呪いが進行している以上、いつ何が起きてもおかしくはないって思っておいた方がいいよ。臭いがまた強くなってるんだから」
小椿くんは目を逸らしながら忠告してくれる。以前までは、会話どころか目も合わせてくれなかったのに、僕の事を思って念をこませてくれる。
お昼休み、僕はいつもの購買足を運んでいた。信永くんが居る時は一緒に付き添ってくれたが、一人となると少し落ち着かない。
そんな中、目の前に最も会いたくない人物を見つけて歩が止まる。彼は僕の顔を見るなり、満面の笑みで向かってきた。
「あれ、音羽くんじゃないか。先日ぶりだね」
「椿坂さん……」
穏やかな視線が向けられるが、心臓を鷲掴みされたような違和感が止まらない。心なしかキラリと光る丸眼鏡は僕を捕えているように思えた。
「お互い違う場所に居るから話す機会が作れないって思ってたんだけれど、会えてよかったよ」
ひらりと振られた手に、思わず後退りしてしまう。僕はその好意に答えず、唐突に問いかけた。
「信永くんは、どこに居るんですか?」
「んん〜?」
「し、知ってるんですよね。信永くんの居場所……」
大和さんたちや小椿くんでも知らないなら、彼こそ知っている。僕の中で謎の確証が芽生えた。椿坂さんは態とらしいお惚けで、「何のかな」と呟いた。
「ご、誤魔化さないでください」話を逸らされる前に出る釘を打つ。
すると、何か思いついたような椿坂さんが「そうだぁ」と声を上げた。
「ねぇ、音羽くんってさぁ。お人形好きだったりするかい?」
「っへ? に、人形ですか……」
「うん、そう。お人形」
至って平然な様子、寧ろどこか嬉しそうな声色が耳を撫でる。そして、僕は目の前で禁断の誘いを受けてしまった。
「今日の放課後、僕の家に来ないかい? 素敵な物を見せてあげるよ」
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