「お兄ちゃんは思ったことは顔に出やすいタイプで、何をするにもムスッとしてるからみんな怖がっちゃうんだ。でも、元々目付きが悪いからっていうのもあるんだろうけれど、いつもあんな偉そうな態度でいられると流石に疲れちゃうっていうか……」
「敦さんもそう思うんだ」
「勿論ですよ。てか、思わない人なんていないですよ。だから友達も少ないんです」
敦さんは口を窄めて、「もう少し優しく接すればよかったのに」と独り言ちる。
彼からの愚痴を聞いて何故か分からないが心底安心した。
敦さんは信永くんとは正反対で、性格も良くて周りから頼られる存在。勉強も運動も成績優秀で優等生なんだそう。
そんな非の打ち所がない人も不満や愚痴を言うんだって分かると、やっぱり同じ考えだったとほっとすることができた。
「でも」敦さんは顔を上げて僕を見つめた。
「お兄ちゃんのこと誤解しないで欲しいの。本当は根が良い方なんだ、性格は悪いけど。聞こえはいいけれど本当に不器用なの。だから、いつも尖った口調で相手を傷付けちゃうから」
敦さんはずっと思い悩んでいたようだ。心のどこかで、自分が支えになれなかったことを悔やんでいる。
彼の目尻に涙が溜まっていた。
そこで僕はとあることに気が付く。
きっと信永くんは僕との接し方が分からなかったんだ。
もしかしたら、僕が死んじゃうと恐れて上手く会話ができなかった。
口調が荒いが気付いたら傍にいることが多いのも、心配による表れによるものだ。
全部僕への気遣いだった。
僕、本当に勘違いしちゃってたんだなぁ。
敦さんは涙をそっと拭い、「ごめんなさい」と一言告げる。
いつの間にか彼の片方の腕を掴んでいた。
敦さんの肩が跳ねたが、それを押し切る形で返した。
「僕、敦さんのことも、信永くんのことも信じるよ」
「……本当に?」敦さんの弱弱しい声が聞こえる。
僕は勿論だと強く頷いた。
更に「ありがとう」と噛み締めながら手を握り返された。
言いたいことが言えると、同時に副作用で心臓がバクバクと鳴りやまない。
誰かに思っていることを言うのはこんなにも緊張するんだと実感した。
敦さんは涙を拭い、鼻をすすりながら微笑んだ。
「ありがとう、音羽さん。てか、敦さんって「さん」付けで呼ばなくて大丈夫ですよ。そっちの方が年上じゃないですか」
「え? いいの? それなら、僕のことも下の名前で呼んで欲しい」
「じゃあ、僕も暖くんって呼ぶね」
「う、うん! そう呼んでくれたら嬉しい……かな」
僕も慎重になって返すと、また更ににこりと笑ってくれた。
菊山家に来て、初めて彼と仲良くなった気がする。お互いの呼び方が昇格したからかな。
僕と敦くんは同時に顔を見合わせて、笑いあった。
――良かったね。暖くん。
ビオラちゃんがその様子に言葉をくれる。
「うん。ビオラちゃんたちのお陰だよ」と彼女に聞こえる程度で返した。
幸い、敦くんは気持ちが晴れ、その余韻に浸っていた。
「後で真白さんにお礼を言わなきゃ。暖くんを連れてきてくれてありがとうって」
「どうして真白くんに?」僕は純粋な疑問を敦くんに抱く。
「子守係のこと、暖くんに頼んで良かったなぁって心から思ってるんだ。今までにも暖くんみたいにアルバイト生を募集してたんだけれど、どうしてもお兄ちゃんとかと衝突しちゃうから……」
「でも、暖くんなら大丈夫そうだね」敦くんはいたずらな笑みで付け加える。
その瞬間晴れ晴れとした気持ちが一気に不安へと変わる。行き場のない思いに胸元を摩った。
「僕にできるかなぁ」
「そう焦らなくて大丈夫ですよ。僕たち出会ってまだ間もないですし、少しずつで良いんだよ」
敦くんの言葉にそれもそうだねと腑に落ちる。菊山家で働き始め少し経つが、未だ人間関係で不安なことはある。
それでも敦くんとの距離感は少しずつ縮まってきたんじゃないか。
「これからもよろしくお願いします。暖くん」
「よろしくね。敦くん」
まだ、人形のことで困惑することはあるけれど、ここで働いて良かったと初めて実感した。
いつか、信永くんとも仲良くなれたらいいなぁ。
僕は密かな感情に胸を躍らせていた。
◇
次の日の朝。
僕はいつも通り、制服に着替えて荷物を纏める。
最初は昨日の着替えなどが入っており、登下校が大変だったがそれにも慣れてきた。
身支度が整え終わると、僕は急いで居間へと向かう。
障子の襖を開けると、既に敦くんと大和さんが朝食の準備をしていた。
「おはよう。暖くん」
「敦くん、おはよう」
「大和さんもおはようございます」
「よ! おはよ」
「ちょっと大和さん、つまみ食いはしないでと言ってるじゃないですか。箸を置いてください」
「ちょっとぐらいいいじゃねーか」
大和さんは「ケチケチすんなよ~」と宥めつつ、沢庵をつまむ箸が止まらない。
「暖くんの分がなくなったらどうするんです」敦さんも負けじと言い返す。そして、次に伸びてくる手の甲を叩いた。
「僕も何か手伝うよ」
敦くんの機嫌取りも兼ねて告げれば、「暖くんは座ってて大丈夫ですよ。あ、僕がご飯をよそいますね」と逆に気を使わせてしまった。
それどころか、茶碗を持つ手に何だかウキウキしている様子だ。
「暖くんどのくらい食べます?」
「あ、えっと、少なめで良いよ」
「いつも思っているんですが、それで足りるんですか? 絶対お腹空いちゃいますよ」
「あ、朝はあまりお腹空いてなくて……。お腹に何か入れられればなんでもいいんだ」
「じゃあ、授業中に小腹が空いても大丈夫なようにゼリーあげますね」
「あ、ありがとう……」
何だか、一気に距離感が近くなった気がするのは気のせいだよね?
襖が勢いよく開かれる。
中から信永くんが現れ眠たそうに瞼を擦っていた。
「おう、おはよ。信……」突然、大和さんの動きがピタリと止まる。
敦くんも「大和さん?」と視線を横に向けた。
僕も二人に倣って彼の方を見る。しかし、注目すべきなのは彼の服装だった。
僕は思わず、持っていた箸を落としてしまいそうになった。
「信永くん、その服って制服!?」
信永くんは僕と同じ制服を着ていた。しかも、綺麗なスクールバックを手に持ち今にも学校に行きそうな恰好だ。
「あ? だからなんだよ。俺が着たら悪いのか?」
僕の驚きようが変だったのか、信永くんはきまり悪そうに反抗する。
いや、別にそう言う事じゃないんだけれど……。
「信!? お前、なんだよその恰好は」
僕がそう返す前に、大和さんの驚愕した声が部屋中にこだました。
「だから制服だって言ってんだろ。全く、朝っぱらからうるせぇな」
「いやそんなことは知ってるんだが、学校に行くのか!? お前が!? いつもなら俺に無理矢理着させられて駄々をこねる奴が?」
まるで夢を見ているかのようだと、大和さんは瞼を何度も瞬かせた。そして挙句の果てには、これは夢なんじゃないかと頬を抓りだした。
信永くんは急に顔を赤らめて、「そんな変な事を暖の前で言うな」と睨み付けた。
逆に、敦くんは笑いを堪えるべく口元を抑えていた。信永くんは「お前、笑ってんじゃねーぞ」と嚙みついた。
それどころか、敦くんの笑い声は大きくなるばかりでケラケラと口を開いて笑いだした。
「ふふ、お兄ちゃんって結構チョロいんだなぁって」
「は? 何のことだよ」
「昨日、僕と暖くんが話しているの盗み聞きしてたでしょ? ずっと、廊下から様子を見てたの知ってるんだから。ばれないとでも思った?」
「え!?」今度は僕が大声を上げる羽目になった。
しかし、敦くんの言っていることは本当らしくきまり悪そうに下に視線を向く彼に更に驚く。
開いた口が塞がらず、ただ黙って信永くんを凝視した。
でも、そんな気配全くなかったし全然気が付かなかった。
だとしたら、物凄く恥ずかしい。あの会話が聞かれてたってことだし、変な言葉を口走ってないと良いんだけれど。
「失礼だな。そろそろ単位がまずいから仕方なく行くだけだし」それでも信永くんは開き直り、僕の隣にどんと座る。
僕は彼の邪魔にならないようにと鞄を別の方に移動させる。
それにしても、制服姿の信永くんは本当にカッコイイ。いつものラフな格好とは違って、ちゃんとした清楚な服も様になっている。
あとは、横顔が凄く綺麗。近くで見るとモデルの雑誌を眺めている感覚に陥る。
「何ジロジロ見てんだよ。ぼーっとしてると、お前の卵焼き食うぞ」
「え、そ、それは嫌だ」
「なら、早く食えよ」
僕も負けじとお米を口に放り込んだ。
「暖。ありがとな」
「え?」
いつの間にか、信永くんは僕の方を向いている。また気まずそうな表情で、何かを言おうとしていた。
「その……あの時は悪かった。つい、カッとなって一人で任せちゃって……」
「そ、そんなことないよ。僕の方こそデリカシーのないこと言っちゃってごめんね」
信永くんを傷付けちゃったのは事実だし、僕も本当に言葉には気を付けようと心に決めた。
「僕、信永くんのこと信じるよ。何があっても、僕は信永くんの味方だから」
やっと言いたいことが言えたと安堵していると、信永くんは面食らった顔で暫くの間固まっていた。
その後、何故か今度は顔を赤らめて「そんな恥ずかしい事言うんじゃねーよ」と目を逸らされた。
「え、ごめん」僕は咄嗟に謝るも、次第に顔が綻んでゆく。
隣に信永くんがいるということだけで緊張が凄いのに、今日はどうしても嬉しさが勝った。
自分から言いたいことが言えたからかな。
それとも、信永くんと仲直りができたから?
どっちにしろ、僕にとっては嬉しい事には変わりはない。
何だか今日はいつもよりいい一日になりそう。
そう思いながら、朝食を食べるといつもより美味しく感じた。
「敦さんもそう思うんだ」
「勿論ですよ。てか、思わない人なんていないですよ。だから友達も少ないんです」
敦さんは口を窄めて、「もう少し優しく接すればよかったのに」と独り言ちる。
彼からの愚痴を聞いて何故か分からないが心底安心した。
敦さんは信永くんとは正反対で、性格も良くて周りから頼られる存在。勉強も運動も成績優秀で優等生なんだそう。
そんな非の打ち所がない人も不満や愚痴を言うんだって分かると、やっぱり同じ考えだったとほっとすることができた。
「でも」敦さんは顔を上げて僕を見つめた。
「お兄ちゃんのこと誤解しないで欲しいの。本当は根が良い方なんだ、性格は悪いけど。聞こえはいいけれど本当に不器用なの。だから、いつも尖った口調で相手を傷付けちゃうから」
敦さんはずっと思い悩んでいたようだ。心のどこかで、自分が支えになれなかったことを悔やんでいる。
彼の目尻に涙が溜まっていた。
そこで僕はとあることに気が付く。
きっと信永くんは僕との接し方が分からなかったんだ。
もしかしたら、僕が死んじゃうと恐れて上手く会話ができなかった。
口調が荒いが気付いたら傍にいることが多いのも、心配による表れによるものだ。
全部僕への気遣いだった。
僕、本当に勘違いしちゃってたんだなぁ。
敦さんは涙をそっと拭い、「ごめんなさい」と一言告げる。
いつの間にか彼の片方の腕を掴んでいた。
敦さんの肩が跳ねたが、それを押し切る形で返した。
「僕、敦さんのことも、信永くんのことも信じるよ」
「……本当に?」敦さんの弱弱しい声が聞こえる。
僕は勿論だと強く頷いた。
更に「ありがとう」と噛み締めながら手を握り返された。
言いたいことが言えると、同時に副作用で心臓がバクバクと鳴りやまない。
誰かに思っていることを言うのはこんなにも緊張するんだと実感した。
敦さんは涙を拭い、鼻をすすりながら微笑んだ。
「ありがとう、音羽さん。てか、敦さんって「さん」付けで呼ばなくて大丈夫ですよ。そっちの方が年上じゃないですか」
「え? いいの? それなら、僕のことも下の名前で呼んで欲しい」
「じゃあ、僕も暖くんって呼ぶね」
「う、うん! そう呼んでくれたら嬉しい……かな」
僕も慎重になって返すと、また更ににこりと笑ってくれた。
菊山家に来て、初めて彼と仲良くなった気がする。お互いの呼び方が昇格したからかな。
僕と敦くんは同時に顔を見合わせて、笑いあった。
――良かったね。暖くん。
ビオラちゃんがその様子に言葉をくれる。
「うん。ビオラちゃんたちのお陰だよ」と彼女に聞こえる程度で返した。
幸い、敦くんは気持ちが晴れ、その余韻に浸っていた。
「後で真白さんにお礼を言わなきゃ。暖くんを連れてきてくれてありがとうって」
「どうして真白くんに?」僕は純粋な疑問を敦くんに抱く。
「子守係のこと、暖くんに頼んで良かったなぁって心から思ってるんだ。今までにも暖くんみたいにアルバイト生を募集してたんだけれど、どうしてもお兄ちゃんとかと衝突しちゃうから……」
「でも、暖くんなら大丈夫そうだね」敦くんはいたずらな笑みで付け加える。
その瞬間晴れ晴れとした気持ちが一気に不安へと変わる。行き場のない思いに胸元を摩った。
「僕にできるかなぁ」
「そう焦らなくて大丈夫ですよ。僕たち出会ってまだ間もないですし、少しずつで良いんだよ」
敦くんの言葉にそれもそうだねと腑に落ちる。菊山家で働き始め少し経つが、未だ人間関係で不安なことはある。
それでも敦くんとの距離感は少しずつ縮まってきたんじゃないか。
「これからもよろしくお願いします。暖くん」
「よろしくね。敦くん」
まだ、人形のことで困惑することはあるけれど、ここで働いて良かったと初めて実感した。
いつか、信永くんとも仲良くなれたらいいなぁ。
僕は密かな感情に胸を躍らせていた。
◇
次の日の朝。
僕はいつも通り、制服に着替えて荷物を纏める。
最初は昨日の着替えなどが入っており、登下校が大変だったがそれにも慣れてきた。
身支度が整え終わると、僕は急いで居間へと向かう。
障子の襖を開けると、既に敦くんと大和さんが朝食の準備をしていた。
「おはよう。暖くん」
「敦くん、おはよう」
「大和さんもおはようございます」
「よ! おはよ」
「ちょっと大和さん、つまみ食いはしないでと言ってるじゃないですか。箸を置いてください」
「ちょっとぐらいいいじゃねーか」
大和さんは「ケチケチすんなよ~」と宥めつつ、沢庵をつまむ箸が止まらない。
「暖くんの分がなくなったらどうするんです」敦さんも負けじと言い返す。そして、次に伸びてくる手の甲を叩いた。
「僕も何か手伝うよ」
敦くんの機嫌取りも兼ねて告げれば、「暖くんは座ってて大丈夫ですよ。あ、僕がご飯をよそいますね」と逆に気を使わせてしまった。
それどころか、茶碗を持つ手に何だかウキウキしている様子だ。
「暖くんどのくらい食べます?」
「あ、えっと、少なめで良いよ」
「いつも思っているんですが、それで足りるんですか? 絶対お腹空いちゃいますよ」
「あ、朝はあまりお腹空いてなくて……。お腹に何か入れられればなんでもいいんだ」
「じゃあ、授業中に小腹が空いても大丈夫なようにゼリーあげますね」
「あ、ありがとう……」
何だか、一気に距離感が近くなった気がするのは気のせいだよね?
襖が勢いよく開かれる。
中から信永くんが現れ眠たそうに瞼を擦っていた。
「おう、おはよ。信……」突然、大和さんの動きがピタリと止まる。
敦くんも「大和さん?」と視線を横に向けた。
僕も二人に倣って彼の方を見る。しかし、注目すべきなのは彼の服装だった。
僕は思わず、持っていた箸を落としてしまいそうになった。
「信永くん、その服って制服!?」
信永くんは僕と同じ制服を着ていた。しかも、綺麗なスクールバックを手に持ち今にも学校に行きそうな恰好だ。
「あ? だからなんだよ。俺が着たら悪いのか?」
僕の驚きようが変だったのか、信永くんはきまり悪そうに反抗する。
いや、別にそう言う事じゃないんだけれど……。
「信!? お前、なんだよその恰好は」
僕がそう返す前に、大和さんの驚愕した声が部屋中にこだました。
「だから制服だって言ってんだろ。全く、朝っぱらからうるせぇな」
「いやそんなことは知ってるんだが、学校に行くのか!? お前が!? いつもなら俺に無理矢理着させられて駄々をこねる奴が?」
まるで夢を見ているかのようだと、大和さんは瞼を何度も瞬かせた。そして挙句の果てには、これは夢なんじゃないかと頬を抓りだした。
信永くんは急に顔を赤らめて、「そんな変な事を暖の前で言うな」と睨み付けた。
逆に、敦くんは笑いを堪えるべく口元を抑えていた。信永くんは「お前、笑ってんじゃねーぞ」と嚙みついた。
それどころか、敦くんの笑い声は大きくなるばかりでケラケラと口を開いて笑いだした。
「ふふ、お兄ちゃんって結構チョロいんだなぁって」
「は? 何のことだよ」
「昨日、僕と暖くんが話しているの盗み聞きしてたでしょ? ずっと、廊下から様子を見てたの知ってるんだから。ばれないとでも思った?」
「え!?」今度は僕が大声を上げる羽目になった。
しかし、敦くんの言っていることは本当らしくきまり悪そうに下に視線を向く彼に更に驚く。
開いた口が塞がらず、ただ黙って信永くんを凝視した。
でも、そんな気配全くなかったし全然気が付かなかった。
だとしたら、物凄く恥ずかしい。あの会話が聞かれてたってことだし、変な言葉を口走ってないと良いんだけれど。
「失礼だな。そろそろ単位がまずいから仕方なく行くだけだし」それでも信永くんは開き直り、僕の隣にどんと座る。
僕は彼の邪魔にならないようにと鞄を別の方に移動させる。
それにしても、制服姿の信永くんは本当にカッコイイ。いつものラフな格好とは違って、ちゃんとした清楚な服も様になっている。
あとは、横顔が凄く綺麗。近くで見るとモデルの雑誌を眺めている感覚に陥る。
「何ジロジロ見てんだよ。ぼーっとしてると、お前の卵焼き食うぞ」
「え、そ、それは嫌だ」
「なら、早く食えよ」
僕も負けじとお米を口に放り込んだ。
「暖。ありがとな」
「え?」
いつの間にか、信永くんは僕の方を向いている。また気まずそうな表情で、何かを言おうとしていた。
「その……あの時は悪かった。つい、カッとなって一人で任せちゃって……」
「そ、そんなことないよ。僕の方こそデリカシーのないこと言っちゃってごめんね」
信永くんを傷付けちゃったのは事実だし、僕も本当に言葉には気を付けようと心に決めた。
「僕、信永くんのこと信じるよ。何があっても、僕は信永くんの味方だから」
やっと言いたいことが言えたと安堵していると、信永くんは面食らった顔で暫くの間固まっていた。
その後、何故か今度は顔を赤らめて「そんな恥ずかしい事言うんじゃねーよ」と目を逸らされた。
「え、ごめん」僕は咄嗟に謝るも、次第に顔が綻んでゆく。
隣に信永くんがいるということだけで緊張が凄いのに、今日はどうしても嬉しさが勝った。
自分から言いたいことが言えたからかな。
それとも、信永くんと仲直りができたから?
どっちにしろ、僕にとっては嬉しい事には変わりはない。
何だか今日はいつもよりいい一日になりそう。
そう思いながら、朝食を食べるといつもより美味しく感じた。

