亥井乃結香の物語

亥井乃結香という人間は、水泳が嫌いである。
九年という長い期間、水泳教室に通っていた。それは三歳の時である。父親と「六年生まで続ける」という約束をした。それが水泳が嫌いになるきっかけとも知らず、無邪気な幼子は好奇心の赴くままに約束を誓った。けれど十二歳となった現在、三歳の時の記憶など覚えてはいない。それもそうだろう。十二歳で三歳の記憶を持っているものは約三割。しかも三割程度でもかろうじて特別な記憶を覚えている程度なのだ。
しかも、三歳から十二歳という九年はかなり大きい。十二歳はもうすでに思春期というものに片足を突っ込んでいる。亥井乃結香もその例外に漏れず思春期に片足を突っ込んでいた。そして、彼女自身他よりも発育が良いということにも気づいていた。
思春期というものは、それだけでいともたやすく水泳を止めたいと思わせた。そして十二歳になると当然毛も生えてくる。大抵の人間は嫌だと思うだろう。
彼女は自身の父親にやめたいと訴えた。
さて、彼女の人生のお話は一度ここで止めにして、今日の彼女についてお話をしましょう。

おこしてMEのアプリで彼女は起きる。そのアプリにはウェイクアップミッションというものがある。彼女毎朝、そのミッションである数学問題を解く。掛け算と足し算が組み合わさった計算だ。しかし彼女は頭の回転が早い。寝起きの頭でも三十秒ほどで三門を解き、二度寝をぶちかますのだ。今日も例外に漏れず二度寝をし、朝勉強をあきらめ六時に起きた。
彼女は自分の朝ごはんをつくり、食べる。食パンの上に目玉焼きとハムを乗せた豪勢な食事である。
彼女は食事を終えるとすぐに二階にある自分の部屋へと入る。ベッドの上でスマホを弄り、洗顔をほったらかしている。時計が八時程度を指した時、彼女は重い腰を上げ、洗顔をした。そして彼女は昨日の夜思い立った部屋の掃除をする。
机の上にある勉強書などをしっかりと棚に戻し、貯金箱に被った埃を拭く。そんな事をしていたら一時間後、母親に呼び出され、家族五人で食事を食べに行った。
今日はなかなかいかない駅の方まで出かけるそうだ。
車の中で、弟二人と食事の話をする。何を食べるかについてだ。明宏はマッヌが良いといい宏斗は寿司がいいと話した。正直、どちらも最近食べたし、いつでも行ける範囲だ。彼女はハンバーグがいいと話した。ビックリドヌキーがいいと言った。
マッヌはいつでも行けるじゃんと母親が言った。彼女もそれに概ね同意であった。
なんやかんやあり、母親が話した。肉か麺どちらがいい? と弟二人はどちらでもいいと拗ねたように話した。父親は
「なんでこいつらの意見が無視されてるんだ。これじゃあどうせ無駄だと話さなくなるだろ」
と怒鳴り気味に言った。正直、彼女はなぜ怒るのか理解できなかった。いつでも行けるマッヌや寿司よりも、なかなかいけないビックリドヌキーでいいではないか。と、そんなに行きたいなら最後まで意見を突き通せばいいのに。と心のなかで悪態をついていた。
結局はご飯どころでカキフライと洋風プレートを食べた。
母親は、
「また連れて行ってあげるから」
と言ってくれた。
今日のお話はこれでおしまい。
亥井乃結香という人間は、酷いのか、優しいのか。このお話を聞いて、貴方はどう思ったでしょうか?


父親が優しいと思いましたか?
それは貴方の主観ですね。これからのお話でもその主観をお大事に。
母親が優しいと思いましたか?
それも貴方の主観です。これからのお話でもその主観を持っていて。
父親が酷いと思いましたか?
そうですね、水泳の話に関しては私もそう思います。主観が一致しましたね。
母親が酷いと思いましたか?
私とは主観が違いますね、どこかで一緒になるかもしれないと楽しみにしています。