留学生が俺の癖




「てか、アスタリアはここでなにしてたん?」
「……」

すっ、と透き通った紫色の目が逸らされる。

「……まあ、サボろうかと思ってな」
「…………え?さぼっ、アスタリアが??」
「悪いか」
「いや、悪くは、……ないか?」

悪くはないけど。
たしかし、それで良しとしてもいいものか。
人のことを言える立場ではないが、いや、だってアスタリアだし。

「なんか、すごい、意外だわ」
「……そうか」

意外などと言えるほどの関係にまでは至っていないが、第一印象から得られた偏見からすると、意外だった。

と、何かを考えているのか、長いまつ毛で隠れ気味の紫、そうアメジスト、アメジストが揺れている。

……こいつ顔良いなあ、と半ば思考の止まった頭が考えた。
上を向いて蛍光灯に照らされたアメジストと目が合って、一瞬息が止まりそうになる。

「エルシャは、何をしていたんだ」
「……うーーーん?……鬼ごっこ、とか?」
「どういうことだ」

回答に不満があったのか、眉間にシワが寄っている。
やっぱ意外にも表情はくるくる変わるし、そのくせ顔は変わらず良いから面白くて、苦笑しながら違う言い方を探してみる。
が、結局見当たらなくて、

「俺がサボりまくってるのが母上にバレて、強制的に連れてこられたんだよ。それも婚約者付き。……ああ、婚約者ってさっきの子ね、あの子。そんで授業に出たくなくて、逃げてたってわけ」
「……なるほど」
「んふっ、眉間にシワが寄ってるぞ〜、アスタリア?」

自覚があるのかないのか、手の甲でぐりぐり、と眉間を揉んでいる。
やはり顔がいいから、何をしていても面白い。

「まあ、アスタリアもいるならせっかくだしここでサボろっかな?」

そう言うと、きょとんと丸まったアメジストで見つめられた。

「?……いつもはどこで過ごしているんだ?」
「あー、花街」
「……ハナマチ」

視線が合っているのか合っていないのか。
おそらく言葉を咀嚼していて、次第に驚愕の色が浮かび上がってくる。

「おま、えっ、は!?」
「にゃは、アスタリアってまじで“男色王子”の噂知らないの?」
「……なんの冗談だ」

これでもかと目を開いていたのに、今度は目を細めてそう問いかけられた。
あ、また眉間にシワがよっている、がまあ今じゃないか。

「……冗談じゃないよ。いや、ごめん、忘れて。……舞い上がってミスった」
「…………」

思わず顔を手で覆う。
前髪が邪魔で掻き上げる。

……あー、禿げちゃう、やめなきゃ、やめなきゃ。

「ねえ、ごめんアスタリア」
「……それは何に対しての謝罪だ。少なくとも私は、謝られるようなことはされていない」

えー……、なんだそれ、いい子過ぎる。

まっすぐと俺を見透かすかのようなアメジスト。
綺麗な、むら、さき……。

アスタリアはそう言って、俺の言葉を待つかのようにこちらを見ていた。

「……ごめん、ちょっと今日はこれで。……また今度、一緒にサボろ」
「ッ、……そうか」

悲しみに、ではないかもしれない。
驚き、かな。

丸まったアメジストは、一瞬でもとに戻った。

「うん、じゃあね」
「……ああ」

ごめんねアスタリア。
言わなくて良いことを言ってしまった。
……でも、そうでなくとも、たぶん、お前は、俺なんかと一緒にいないほうが良い。