いつものように喫茶店に着くと意外にもお客さんがいた。その人はいつも僕が座る席の隣に座っていた。
いつもと違う席に座りたかったがマスターと目が合ってしまった。ここで違う席に座ると変に意識してるみたいで嫌だったのでいつもの席に座ることにした。席につくなりマスターがコップを拭いていた手を止め、僕に声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。いつもので大丈夫ですかね?」
「あ、はい。いつものでお願いします。」
「かしこまりました。」
マスターはいつものようにコーヒーを作り始めた。僕もいつものようにコーヒーを待ちながら鞄からノートと教科書と筆箱を取り出した。
僕の隣に座っている女性は一言も喋らず、ずっと手を顎に、肘を机に立て、外をぼんやりと眺めたいた。何も頼んでいる形跡がなく、少し机の上には何も置かれていない。初対面の人に失礼だと思ったが、正直少し不気味ささえあった。
その女性の年齢は僕と同じくらいか、もしくはそれより少し下か。白色のワンピースを見に纏っており、髪は肩にかかるくらいで、腕とか耳とか首などにアクセサリーはなにも身につけていない。特徴としてはそれくらいだった。
あまり女性をジロジロ見るのは良くないと思い、勉強に集中することにした。
集中しすぎたせいかマスターがコーヒーを作り終え、僕の席に置いてくれたことに気が付かなかった。
気づいたのは隣の席の女性が人差し指で僕の勉強中のノートにトントンとやって教えてくれたからだった。
「あ、ありがとうございます。すみません、気が付かなくって」
僕はコーヒーの到着を教えてくれた女性とマスターの両方にお礼を言った。
「いえいえ、とても集中してなさったので」
マスターは微笑んでそう言ってくれた。ふと隣の席の女性の方に目をやるとなにも言わずに微笑んでいた。初めて顔を見れたが、どこか胡蝶さんに似ている気がしたがそれはきっと気のせいだろう。
「ちょっと私は外の掃除をしてくるのでゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます。」
マスターは僕に軽く会釈をし、箒を持って外に出ていった。この店内に僕とちょっと変な女性の二人きりになった。
そんなこと気にせず勉強に集中することにする。はずだった。僕が集中できなかった理由は隣の変な女性が僕の勉強しているところをまじまじと見られてたからである。
「あの、僕に何かご用でしょうか…」
流石の僕でもこんな状態で集中なんてできないので、恐る恐る声をかけた。
「あ、ごめん。邪魔するつもりなかったんだけど」
初めて声を発した。その事実に少し驚きつつ話の続きを聞こうと思った。
「久しぶりに会ったら君がとっても成長してたから」
「え、久しぶり?」
「うん、私のこと覚えてない?」
僕が知っている女性などこの世で胡蝶さん以外で一人だけだった。
「もしかして、かおりちゃん?」
僕は初めてできた友達の名前を口にした。そうであって欲しいという願望も込めて。
「やっと思い出した?そう、かおりだよ。久しぶりだね。つっくん」
“つっくん”それは僕が当時、彼女に呼ばれていた安直すぎるあだ名たった。
「うん、久しぶり。でも、なんでここにいるの?」
「ちょっと用事があってね。久しぶりに帰ってきたんだよ。この街はなんも変わらないね。そんなことより元気にしてた?」
「そりゃ見ての通り元気だよ。」
精神的に元気かどうかは置いておいて、体に関しては衣食住をしっかりしているので元気なので、嘘はついていない。
それより、僕は彼女に会ったら真っ先にしたかったことを思い出した。
「あのさ、ありがとね。あの時、僕のこと助けてくれて。」
「随分と急だね。こちらこそ仲良くしてくれてありがとう。つっくんと二人で遊ぶのが唯一の当時の楽しみだった。」
「僕もそうだったよ。かおりちゃんと遊んでいる時間が一番楽しかった。なにも言わずに引っ越しちゃうからびっくりしちゃったよ」
「え?引っ越し?あー、ごめんごめん。急なことだったからさ。」
「でも、また会えて嬉しい。」
僕は思わず、本音を口にしてしまった。十年ぶりくらいに旧友に再会したんだ。それくらいは許してほしい。
「私も会えて嬉しい。」
満面の笑みを僕に向けてくれた。
それから僕は勉強のことなどすっかり忘れ、彼女との昔話に夢中になってしまった。
「そういえば、私以外に友達できた?ずっと心配だったんだ。私がいなくても生きていけるのかなって」
「僕そんな過保護に思われていたのか。まぁ友達なら…。」
できてない、と言おうとした矢先、胡蝶さんに罰ゲームで友達になったことを思い出した。正確には僕はまだ彼女に返事をしていないから友達(仮)といった所だけど、かおりちゃんを心配させたくないからいると言おう。というか、返事をしていないだけで、僕は彼女と友達になる予定なので嘘ではないんだけど。って誰に言い訳しているんだ僕は。
「いるよ。一人だけどね。」
「へー、私以外に友達作っちゃうんだ。」
かおりちゃんがなぜかジト目でこちらを見ているが、心配してくれていたのではなかったのか。
「そりゃ僕にも友達くらいできるよ」
僕は冷え切ったコーヒーを一口飲んだ。
マスターはすごいな。この冷え切ったコーヒーでも美味いと感じてしまう。
「で、一人だけなの?十年も経つのに?」
「悪かったな、一人だけで。そもそも僕は一人でいるのが好きなんだよ。一人できただけでも褒めて欲しいくらいだよ。」
「で、どんな子なの?その君のお友達は」
どんな子かと聞かれると、僕はあまりその子に関して知らない。私のことを知って欲しい。胡蝶さんにはそう言われているからこれから知っていく予定だ。
僕以外の人間からの彼女の評価を言おうとしたが、なんとなくそれは胡蝶さんを裏切ることになる気がしたのでやめておいた。
「どんな子かって聞かれるとわからないな」
友達になったばかりなんだ。仕方がなくそう答えたが、子の二日間で知った僕なりの彼女のことについて語ろうとも思った。
「強いていうなら、僕とは違ってまっすぐな子かな。周りに流されないというか。他人の評価を気にしないで自分がしたいと思ったらする。したくないと思ったらしない。みたいな子かな」
「ふーん、なんか私の妹に似てるかも」
「え、かおりちゃんって妹いたの?」
驚いた。勝手に一人っ子だと思い込んでいた。一年くらいしか会ってなかったとはいえ、妹の話なんて一回も聞いたことがなかった。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「うん、初耳だよ。」
「まぁ私の妹ちょっと体が弱くてね。当時はあんまり外に出る子じゃなかったからね」
本が好きで、とかそういう理由だろうか。今の僕みたいだな。
「かおりちゃんの妹なのに?」
ちょっと小馬鹿にするみたいに言ってしまったが、素でそんなことを思ってしまった。
「ちょっとそれそういう意味ー」
僕の頬をツンツンしながら口を尖らせるかおりちゃんが少し可愛らしいと思ってしまった。それと同時に昔のかおりちゃんの顔と今のかおりちゃんと重なった。本当にかおりちゃんなのだと改めて確認できた気がした。
「それより勉強しなくていいの?」
「あ、うん。今日はもういいかな」
正直、勉強とかなんかどうでも良くなってきてしまった。十年ぶりの友人との再会の方が僕にとって重要だった。
「来週テストじゃないの?」
「え、なんで知ってるの?もしかして、妹さんも僕と同じ学校だったりする?」
かおりちゃんが僕の学校の事情を知っているとなるとそれしか考えられなかった。僕が通っている学校にかおりちゃんがいないから。
「うーん、まぁそんな感じかな」
「なにそれ」
僕は思わず笑ってしまった。今の会話に笑う要素などないのかもしれないが、昔も何度かかおりちゃんとはたまに会話にならないことがあったからそれを思い出して笑ってしまった。
「でも、勉強はしっかりしないとダメだぞ〜。そろそろ私、帰るね」
「え、でもまだ六時だよ?まさか僕に気を使ってる?」
勉強が目的でここにきていると思っているかおりちゃんに変な気を遣わせたのではないか。とう思ってしまった。
「違う違う。今日は用事があんのー」
僕は帰ろうとする彼女の袖を思わず掴んでいた。
「どうしたの?寂しいの?」
この手離してしまったら、あの時みたいに会えなくなってしまうのではないかと思ってしまった。
「いや、また会えるよね?」
「会えるよ。だから大丈夫。そんなに心配しないで。」
彼女は僕の頭を撫でながらそう言った。いつまで子供扱いしてくるんだ。
僕はその言葉を信じ、袖から指を離した。
「じゃあ、またね」
かおりちゃんはそのまま手をひらひらさせて店を出て行ってしまった。
僕は彼女が見えなくなるまで彼女の後を目で追っていた。無意識に
僕は残ったカップに残った一気にコーヒーを飲み干した。ずっと探していた友人にやっと出会えたのだ。でも、いざ会ってみるとなんか達成感というより緊張が勝ってしまった。とても会話に集中なんてできていなかったと思う。ほとんど感覚で話してした気さえする。
「あ、連絡先交換しとけば良かったな」
次に会った時にでも聞こう。連絡先の追加の仕方は今度“友達”にでも聞こうと思った。
僕は閉じていたノートと教科書を開き直して勉強再会させた。
「コーヒーのおかわりいるかい?」
勉強を始めて数分くらい経った頃、いつの間にかマスターは外の掃除を終え、カウンターに立っていた。一度集中してしまうと周りが見えなくなるこの癖というかなんというか。いいことなんだろうけどいい加減治したいとは思っている。
「え?あ、お願いします。」
「同じのでいいかな?」
「同じので大丈夫です」
僕がいつも飲んでいるのは一番最初にここにきてマスターからおすすめされたもので、この味が好きというより、このコーヒーの味しか知らない。でも、新しい味に挑戦してみようとは思えない。本当は他の味も飲んでみたいとは思っているのだが、今飲んでいるこのコーヒーが美味しいからそれでいいのだと、そう思うようにしてる。決して、別の味のコーヒーを頼むのが恥ずかしいからとかそういうわけではない。
チラっと時計を確認すると時刻は十九時を少し過ぎていた。このコーヒーを飲み終えたら帰ろう、そう思った。
「はい、どうぞ。」
今度はきちんと出来立てのコーヒーを飲むべく作り終えるのを待っていた。ここのコーヒーは少し冷めていても美味しいのだが、出来立てのコーヒーには敵わない。それに、二回も冷めたコーヒーを飲むのは流石にマスターに失礼だと思った。
「ありがとうございます。」
コーヒーを受け取り、一口飲んだ。やはり出来立てはうまい。ホロ苦さ、後からくるちょっとしたフルーツの香り、これを舌でじっくり味わうのがいいのだ。
「コーヒーの味、わかるようになってきたかい?」
マスターは僕の顔を見て嬉しそうにしていた。
「はい。最初は大人の人はこれを眠気覚ましか何かに飲んでるものだと思ってたんですけど、コーヒーってこんなにも美味しかったんだなって恥ずかしながら最近気づきまして…」
僕は恥ずかしさをかき消すようにコーヒーをスプーンで軽くかき混ぜながらマスターの質問に答えた。
「筒治くんがここに通い始めて3年くらいになるのか。時が経つのは早いね。」
「そうですかね?自分はとても長く感じました。」
毎日が退屈で、毎日同じような日々を過ごして、自分が何のために生きてるのかわからなくて、死のうとしても怖くて一歩が前に踏み出せなくて。本当に自分は毎日何してんだろうか。
「それはまだ君が若いからだろうね。この歳になるとね、一年があっという間に過ぎていくんだよ。」
マスターがいつにもなく話をしてる気がするが、嫌な気は全くしない。むしろ今は誰かと話していたかった。
「そういうものなんですかね。」
「君もいつかそう感じる時がくると思うよ。」
「くる…でしょうか」
「ああ、きっとくるさ。」
それから僕のコーヒーの二杯目が飲み終わるまでの間、開いていたノートを閉じ、マスターと世間話をした。マスターには「邪魔してごめんね」と謝られたが、今勉強しているよりよっぽど勉強になった気がした。
世間話の内容は、マスターが何で喫茶店をやろうとしたのかとか、最近あったニュースのことなど。
ちなみにマスターが喫茶店をやろうとした理由は十年ほど前に亡くなったマスターの奥さんが営んでいたこの喫茶店を潰したくなかったとのことだった。それまでは普通に会社員をしていたらしい。
指輪をしていなかったからてっきり未婚だと思っていたが、仕事中だから外しているとのことだ。
「今日はお代はいらないよ。」
二杯目が飲み終わり、帰ろうとして財布を出した時、そう言われた。
「え、でも…。」
「久々に人と話して楽しかったし、勉強の邪魔しちゃったからそのお詫びだよ。」
「こちらこそ話してて楽しかったです。ありがとうございます。」
ここはマスターの善意に甘えよう、そう思った。
「それと、これお土産に。勉強のお供にでも食べて。」
マスターは僕と話しながら何かを作ってしたのだが、明日の仕込みでもしているのだと思ったが、まさか僕のために作ってくれていたとは流石に思っていなかった。
「え、いいんですか。」
僕は今まで、この店ではコーヒー以外頼んだことがなかった。それに、わざわざ僕のために作ってくれたのだから貰わない訳にはいかなかった。
袋を受け取り中をみると、コーヒーゼリーが二つ入っていた。
「口に合わなかったらごめんね。」
「本当に何から何までありがとうございます。おいしくいただきます。」
僕は深くお辞儀をした。このコーヒーゼリーだけじゃない。僕が家にいたくない理由は知らずとも、僕に居場所を作ってくれている。客が少なく、営業が困難なのは高校生の僕でもわかる。本当に大変なことなのだろう。死ぬ前に絶対に恩返しをしよう。そう思った。
すると、頭の上から「顔をあげてくれないか」という声が聞こえた。言われた通りに顔を上げた。優しい顔をしているマスターがそこにはいた。
「感謝するのはこっちだよ。本当にいつもありがとう。ここ数年でお客さんが減ってきてしまったてね。そろそろ店を畳もうと思っていたんだよ。でも、君みたいに毎日のように来てくれるお客様が数人いるだけでやりがいがあるんだ。本当にありがとう。」
「これからもできる限り毎日来ます。絶対。」
バイトがあるから毎日は難しいだろうけど、バイトがない日はこれまで通りここに通おう。そう改めて心に誓った。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ。」
「はい!明日も来ます!」
店の外に出ると、快晴の夜空に綺麗な満月が見え、とても綺麗だと思った。
いつもと違う席に座りたかったがマスターと目が合ってしまった。ここで違う席に座ると変に意識してるみたいで嫌だったのでいつもの席に座ることにした。席につくなりマスターがコップを拭いていた手を止め、僕に声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。いつもので大丈夫ですかね?」
「あ、はい。いつものでお願いします。」
「かしこまりました。」
マスターはいつものようにコーヒーを作り始めた。僕もいつものようにコーヒーを待ちながら鞄からノートと教科書と筆箱を取り出した。
僕の隣に座っている女性は一言も喋らず、ずっと手を顎に、肘を机に立て、外をぼんやりと眺めたいた。何も頼んでいる形跡がなく、少し机の上には何も置かれていない。初対面の人に失礼だと思ったが、正直少し不気味ささえあった。
その女性の年齢は僕と同じくらいか、もしくはそれより少し下か。白色のワンピースを見に纏っており、髪は肩にかかるくらいで、腕とか耳とか首などにアクセサリーはなにも身につけていない。特徴としてはそれくらいだった。
あまり女性をジロジロ見るのは良くないと思い、勉強に集中することにした。
集中しすぎたせいかマスターがコーヒーを作り終え、僕の席に置いてくれたことに気が付かなかった。
気づいたのは隣の席の女性が人差し指で僕の勉強中のノートにトントンとやって教えてくれたからだった。
「あ、ありがとうございます。すみません、気が付かなくって」
僕はコーヒーの到着を教えてくれた女性とマスターの両方にお礼を言った。
「いえいえ、とても集中してなさったので」
マスターは微笑んでそう言ってくれた。ふと隣の席の女性の方に目をやるとなにも言わずに微笑んでいた。初めて顔を見れたが、どこか胡蝶さんに似ている気がしたがそれはきっと気のせいだろう。
「ちょっと私は外の掃除をしてくるのでゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます。」
マスターは僕に軽く会釈をし、箒を持って外に出ていった。この店内に僕とちょっと変な女性の二人きりになった。
そんなこと気にせず勉強に集中することにする。はずだった。僕が集中できなかった理由は隣の変な女性が僕の勉強しているところをまじまじと見られてたからである。
「あの、僕に何かご用でしょうか…」
流石の僕でもこんな状態で集中なんてできないので、恐る恐る声をかけた。
「あ、ごめん。邪魔するつもりなかったんだけど」
初めて声を発した。その事実に少し驚きつつ話の続きを聞こうと思った。
「久しぶりに会ったら君がとっても成長してたから」
「え、久しぶり?」
「うん、私のこと覚えてない?」
僕が知っている女性などこの世で胡蝶さん以外で一人だけだった。
「もしかして、かおりちゃん?」
僕は初めてできた友達の名前を口にした。そうであって欲しいという願望も込めて。
「やっと思い出した?そう、かおりだよ。久しぶりだね。つっくん」
“つっくん”それは僕が当時、彼女に呼ばれていた安直すぎるあだ名たった。
「うん、久しぶり。でも、なんでここにいるの?」
「ちょっと用事があってね。久しぶりに帰ってきたんだよ。この街はなんも変わらないね。そんなことより元気にしてた?」
「そりゃ見ての通り元気だよ。」
精神的に元気かどうかは置いておいて、体に関しては衣食住をしっかりしているので元気なので、嘘はついていない。
それより、僕は彼女に会ったら真っ先にしたかったことを思い出した。
「あのさ、ありがとね。あの時、僕のこと助けてくれて。」
「随分と急だね。こちらこそ仲良くしてくれてありがとう。つっくんと二人で遊ぶのが唯一の当時の楽しみだった。」
「僕もそうだったよ。かおりちゃんと遊んでいる時間が一番楽しかった。なにも言わずに引っ越しちゃうからびっくりしちゃったよ」
「え?引っ越し?あー、ごめんごめん。急なことだったからさ。」
「でも、また会えて嬉しい。」
僕は思わず、本音を口にしてしまった。十年ぶりくらいに旧友に再会したんだ。それくらいは許してほしい。
「私も会えて嬉しい。」
満面の笑みを僕に向けてくれた。
それから僕は勉強のことなどすっかり忘れ、彼女との昔話に夢中になってしまった。
「そういえば、私以外に友達できた?ずっと心配だったんだ。私がいなくても生きていけるのかなって」
「僕そんな過保護に思われていたのか。まぁ友達なら…。」
できてない、と言おうとした矢先、胡蝶さんに罰ゲームで友達になったことを思い出した。正確には僕はまだ彼女に返事をしていないから友達(仮)といった所だけど、かおりちゃんを心配させたくないからいると言おう。というか、返事をしていないだけで、僕は彼女と友達になる予定なので嘘ではないんだけど。って誰に言い訳しているんだ僕は。
「いるよ。一人だけどね。」
「へー、私以外に友達作っちゃうんだ。」
かおりちゃんがなぜかジト目でこちらを見ているが、心配してくれていたのではなかったのか。
「そりゃ僕にも友達くらいできるよ」
僕は冷え切ったコーヒーを一口飲んだ。
マスターはすごいな。この冷え切ったコーヒーでも美味いと感じてしまう。
「で、一人だけなの?十年も経つのに?」
「悪かったな、一人だけで。そもそも僕は一人でいるのが好きなんだよ。一人できただけでも褒めて欲しいくらいだよ。」
「で、どんな子なの?その君のお友達は」
どんな子かと聞かれると、僕はあまりその子に関して知らない。私のことを知って欲しい。胡蝶さんにはそう言われているからこれから知っていく予定だ。
僕以外の人間からの彼女の評価を言おうとしたが、なんとなくそれは胡蝶さんを裏切ることになる気がしたのでやめておいた。
「どんな子かって聞かれるとわからないな」
友達になったばかりなんだ。仕方がなくそう答えたが、子の二日間で知った僕なりの彼女のことについて語ろうとも思った。
「強いていうなら、僕とは違ってまっすぐな子かな。周りに流されないというか。他人の評価を気にしないで自分がしたいと思ったらする。したくないと思ったらしない。みたいな子かな」
「ふーん、なんか私の妹に似てるかも」
「え、かおりちゃんって妹いたの?」
驚いた。勝手に一人っ子だと思い込んでいた。一年くらいしか会ってなかったとはいえ、妹の話なんて一回も聞いたことがなかった。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「うん、初耳だよ。」
「まぁ私の妹ちょっと体が弱くてね。当時はあんまり外に出る子じゃなかったからね」
本が好きで、とかそういう理由だろうか。今の僕みたいだな。
「かおりちゃんの妹なのに?」
ちょっと小馬鹿にするみたいに言ってしまったが、素でそんなことを思ってしまった。
「ちょっとそれそういう意味ー」
僕の頬をツンツンしながら口を尖らせるかおりちゃんが少し可愛らしいと思ってしまった。それと同時に昔のかおりちゃんの顔と今のかおりちゃんと重なった。本当にかおりちゃんなのだと改めて確認できた気がした。
「それより勉強しなくていいの?」
「あ、うん。今日はもういいかな」
正直、勉強とかなんかどうでも良くなってきてしまった。十年ぶりの友人との再会の方が僕にとって重要だった。
「来週テストじゃないの?」
「え、なんで知ってるの?もしかして、妹さんも僕と同じ学校だったりする?」
かおりちゃんが僕の学校の事情を知っているとなるとそれしか考えられなかった。僕が通っている学校にかおりちゃんがいないから。
「うーん、まぁそんな感じかな」
「なにそれ」
僕は思わず笑ってしまった。今の会話に笑う要素などないのかもしれないが、昔も何度かかおりちゃんとはたまに会話にならないことがあったからそれを思い出して笑ってしまった。
「でも、勉強はしっかりしないとダメだぞ〜。そろそろ私、帰るね」
「え、でもまだ六時だよ?まさか僕に気を使ってる?」
勉強が目的でここにきていると思っているかおりちゃんに変な気を遣わせたのではないか。とう思ってしまった。
「違う違う。今日は用事があんのー」
僕は帰ろうとする彼女の袖を思わず掴んでいた。
「どうしたの?寂しいの?」
この手離してしまったら、あの時みたいに会えなくなってしまうのではないかと思ってしまった。
「いや、また会えるよね?」
「会えるよ。だから大丈夫。そんなに心配しないで。」
彼女は僕の頭を撫でながらそう言った。いつまで子供扱いしてくるんだ。
僕はその言葉を信じ、袖から指を離した。
「じゃあ、またね」
かおりちゃんはそのまま手をひらひらさせて店を出て行ってしまった。
僕は彼女が見えなくなるまで彼女の後を目で追っていた。無意識に
僕は残ったカップに残った一気にコーヒーを飲み干した。ずっと探していた友人にやっと出会えたのだ。でも、いざ会ってみるとなんか達成感というより緊張が勝ってしまった。とても会話に集中なんてできていなかったと思う。ほとんど感覚で話してした気さえする。
「あ、連絡先交換しとけば良かったな」
次に会った時にでも聞こう。連絡先の追加の仕方は今度“友達”にでも聞こうと思った。
僕は閉じていたノートと教科書を開き直して勉強再会させた。
「コーヒーのおかわりいるかい?」
勉強を始めて数分くらい経った頃、いつの間にかマスターは外の掃除を終え、カウンターに立っていた。一度集中してしまうと周りが見えなくなるこの癖というかなんというか。いいことなんだろうけどいい加減治したいとは思っている。
「え?あ、お願いします。」
「同じのでいいかな?」
「同じので大丈夫です」
僕がいつも飲んでいるのは一番最初にここにきてマスターからおすすめされたもので、この味が好きというより、このコーヒーの味しか知らない。でも、新しい味に挑戦してみようとは思えない。本当は他の味も飲んでみたいとは思っているのだが、今飲んでいるこのコーヒーが美味しいからそれでいいのだと、そう思うようにしてる。決して、別の味のコーヒーを頼むのが恥ずかしいからとかそういうわけではない。
チラっと時計を確認すると時刻は十九時を少し過ぎていた。このコーヒーを飲み終えたら帰ろう、そう思った。
「はい、どうぞ。」
今度はきちんと出来立てのコーヒーを飲むべく作り終えるのを待っていた。ここのコーヒーは少し冷めていても美味しいのだが、出来立てのコーヒーには敵わない。それに、二回も冷めたコーヒーを飲むのは流石にマスターに失礼だと思った。
「ありがとうございます。」
コーヒーを受け取り、一口飲んだ。やはり出来立てはうまい。ホロ苦さ、後からくるちょっとしたフルーツの香り、これを舌でじっくり味わうのがいいのだ。
「コーヒーの味、わかるようになってきたかい?」
マスターは僕の顔を見て嬉しそうにしていた。
「はい。最初は大人の人はこれを眠気覚ましか何かに飲んでるものだと思ってたんですけど、コーヒーってこんなにも美味しかったんだなって恥ずかしながら最近気づきまして…」
僕は恥ずかしさをかき消すようにコーヒーをスプーンで軽くかき混ぜながらマスターの質問に答えた。
「筒治くんがここに通い始めて3年くらいになるのか。時が経つのは早いね。」
「そうですかね?自分はとても長く感じました。」
毎日が退屈で、毎日同じような日々を過ごして、自分が何のために生きてるのかわからなくて、死のうとしても怖くて一歩が前に踏み出せなくて。本当に自分は毎日何してんだろうか。
「それはまだ君が若いからだろうね。この歳になるとね、一年があっという間に過ぎていくんだよ。」
マスターがいつにもなく話をしてる気がするが、嫌な気は全くしない。むしろ今は誰かと話していたかった。
「そういうものなんですかね。」
「君もいつかそう感じる時がくると思うよ。」
「くる…でしょうか」
「ああ、きっとくるさ。」
それから僕のコーヒーの二杯目が飲み終わるまでの間、開いていたノートを閉じ、マスターと世間話をした。マスターには「邪魔してごめんね」と謝られたが、今勉強しているよりよっぽど勉強になった気がした。
世間話の内容は、マスターが何で喫茶店をやろうとしたのかとか、最近あったニュースのことなど。
ちなみにマスターが喫茶店をやろうとした理由は十年ほど前に亡くなったマスターの奥さんが営んでいたこの喫茶店を潰したくなかったとのことだった。それまでは普通に会社員をしていたらしい。
指輪をしていなかったからてっきり未婚だと思っていたが、仕事中だから外しているとのことだ。
「今日はお代はいらないよ。」
二杯目が飲み終わり、帰ろうとして財布を出した時、そう言われた。
「え、でも…。」
「久々に人と話して楽しかったし、勉強の邪魔しちゃったからそのお詫びだよ。」
「こちらこそ話してて楽しかったです。ありがとうございます。」
ここはマスターの善意に甘えよう、そう思った。
「それと、これお土産に。勉強のお供にでも食べて。」
マスターは僕と話しながら何かを作ってしたのだが、明日の仕込みでもしているのだと思ったが、まさか僕のために作ってくれていたとは流石に思っていなかった。
「え、いいんですか。」
僕は今まで、この店ではコーヒー以外頼んだことがなかった。それに、わざわざ僕のために作ってくれたのだから貰わない訳にはいかなかった。
袋を受け取り中をみると、コーヒーゼリーが二つ入っていた。
「口に合わなかったらごめんね。」
「本当に何から何までありがとうございます。おいしくいただきます。」
僕は深くお辞儀をした。このコーヒーゼリーだけじゃない。僕が家にいたくない理由は知らずとも、僕に居場所を作ってくれている。客が少なく、営業が困難なのは高校生の僕でもわかる。本当に大変なことなのだろう。死ぬ前に絶対に恩返しをしよう。そう思った。
すると、頭の上から「顔をあげてくれないか」という声が聞こえた。言われた通りに顔を上げた。優しい顔をしているマスターがそこにはいた。
「感謝するのはこっちだよ。本当にいつもありがとう。ここ数年でお客さんが減ってきてしまったてね。そろそろ店を畳もうと思っていたんだよ。でも、君みたいに毎日のように来てくれるお客様が数人いるだけでやりがいがあるんだ。本当にありがとう。」
「これからもできる限り毎日来ます。絶対。」
バイトがあるから毎日は難しいだろうけど、バイトがない日はこれまで通りここに通おう。そう改めて心に誓った。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ。」
「はい!明日も来ます!」
店の外に出ると、快晴の夜空に綺麗な満月が見え、とても綺麗だと思った。
