■客室 ―
気づけば、酒瓶は空になっていた。
三人の前に並んでいたグラスも、最後の一滴まで飲み干されている。
瀬奈がそれを見て苦笑する。
「……結局一本全部ですね」
愛華はため息をついた。
「一杯だけと言ったはずですが」
和春は普通の顔で言う。
「うまかった」
瀬奈は笑ってしまう。
酒の席の空気は少し柔らかくなっていた。
だが瀬奈の頭の中は、逆に冴えていた。
目の前にいる二人。
どう考えても普通ではない。
瀬奈が改めて聞いた。
「そういえば…」
「和春さんのコンサルって具体的にどんな感じなんですか?」
和春は少し考えてから答えた。
「普通のコンサルと違う」
瀬奈は興味を持つ。
「どう違うんですか?」
和春は指を軽く立てた。
「まず職種を限定しない」
瀬奈は頷く。
「普通は専門ありますよね。経営コンサルとか、ITコンサルとか」
和春は頷く。
「普通はそうだな。でも俺のは違う」
瀬奈は首を傾げる。
和春は淡々と言った。
「どんな現場でも対応できるのが条件」
「企業、飲食、IT、法律、教育、医療、全部対応する」
瀬奈が思わず笑う。
「それ普通無理ですよ」
和春は肩をすくめる。
「だから普通じゃない」
瀬奈は思わず納得してしまう。
そしてもう一つ。
和春は続けた。
「どんな案件でも必ず二人一組」
瀬奈が聞き返す。
「二人?」
和春は頷く。
「簡単なコンサルでも小さい案件でも必ず二人」
瀬奈は首を傾げる。
「普通コンサルって一人で行くこと多いですよね」
「むしろ小さい案件なら一人ですよね?」
和春は頷いた。
「普通はそうだな」
瀬奈は続ける。
「だって二人送り込むと会社の利益減りません? 一人を別の企業に回した方が、絶対利益上がりますよね」
これは完全に経営視点だった。
和春は少しだけ笑った。
「その通り」
瀬奈は一瞬止まる。
「え?」
和春は続ける。
「利益だけ考えるなら一人を別企業に回す方が儲かる」
瀬奈はさらに混乱する。
「じゃあなんで二人なんですか?」
愛華がそこで説明する。
「理由は二つあります」
瀬奈が真剣に聞く。
愛華は言った。
「一つ目、思考速度」
瀬奈が頷く。
愛華は続ける。
「企業の問題はリアルタイムで変化します。一人だと分析、思考、判断、決断、全部一人でやることになる。」
瀬奈は頷く。
確かに遅くなる。
愛華は言う。
「でも二人なら片方が分析、片方が戦略、同時に進む、思考速度が倍になります」
和春が補足する。
「人間の脳は並列処理が苦手だ。だから二つの頭脳使う」
瀬奈は小さく呟く。
「……なるほど」
愛華はさらに続ける。
「二つ目視点のズレです」
瀬奈が顔を上げる。
愛華は説明する。
「一人の思考は必ず偏ります。経験、性格、価値観、全部影響するします」
瀬奈は頷く。
愛華は言う。
「でも二人なら必ず思考がぶつかる」
和春が言う。
「思考がぶつかるとミスが減る」
瀬奈は少し驚く。
和春は続ける。
「コンサルの失敗の多くは視野の狭さだ。一人だとそれに気づけない」
瀬奈は納得した顔になる。
和春は最後に言う。
「だから必ず二人」
そして。
少しだけ真面目な声で続けた。
「規模が大きい案件はチーム入れる」
瀬奈が頷く。
和春は言う。
「でも必ず相棒とペア」
愛華が小さく笑う。
「どんな案件でも私と和春は同じチームです」
瀬奈は二人を見る。
そして思った。
(なるほど)
(この二人が)
一番強い理由がわかった。
■客室 ― 酒の席の続き
空になった酒瓶が机の上に転がっている。
夜はすっかり深くなっていた。
外は静かな山の夜。
虫の声がわずかに聞こえる。
三人はそのまま畳の上で話を続けていた。
瀬奈はさっきの話を頭の中で整理していた。
そしてぽつりと言う。
「でも……」
和春が見る。
瀬奈は少し苦笑した。
「それ‥‥和春さんと愛華先輩だから出来るんですよ」
愛華が少し首を傾ける。
瀬奈は続ける。
「普通はそんなに覚えられません。法律、経営、心理、IT、不動産、医療」
瀬奈は笑う。
「人間の頭ってそんなに万能じゃないです」
和春は普通の顔。
瀬奈はさらに言う。
「だから二人一組なんですね」
和春は小さく頷く。
瀬奈は考えながら言葉にする。
「でも二人一組でも普通の会社だと、同じタイプの人集めません?同じ専門、同じ教育」
和春は言う。
「それがダメ」
瀬奈が顔を上げる。
和春は続ける。
「同じ思考は同じミスする」
瀬奈は少し鳥肌が立った。
和春は説明する。
「だから違う思考のペア。違う視点。違う性格。違う分析」
瀬奈は呟く。
「……思考のチーム」
和春は頷く。
瀬奈は少し真剣な顔になる。
そして聞いた。
「じゃあ和春さん」
和春が見る。
瀬奈は少し笑った。
「私も教育してくれるんですか?」
愛華が少し驚く。
瀬奈は続ける。
「大学の講義すごくわかりやすかったんです。正直教育者に向いてると思いました」
和春は少しだけ目を細める。
そして言う。
「新人の講義はやる」
瀬奈の顔が少し明るくなる。
だが。
和春は続けた。
「でも答えは教えない」
瀬奈が止まる。
和春は静かに言う。
「答えをもらうと人は考えない」
瀬奈が少し真剣になる。
和春は続ける。
「思考を止めるからな、それが一番危ない」
部屋は静かだった。
和春の声は淡々としている。
「コンサルは答えを出す仕事じゃない。問題を見つけ、選択肢与えてる仕事だ」
瀬奈はゆっくり頷く。
和春は最後に言う。
「考えるのは自分」
その言葉は少し厳しかった。
瀬奈は少し黙る。
その時。
愛華が柔らかく言った。
「でも」
瀬奈が顔を上げる。
愛華は優しく微笑んでいた。
「考える方法は教えてくれますよ」
瀬奈が少し驚く。
愛華は続ける。
「和春は答えは教えません。でも、ヒントは必ずくれます」
瀬奈は少し安心した顔になる。
愛華は小さく笑う。
「今日もそうでしたよね」
瀬奈は思い出す。
確かにそうだった。
答えは言わなかった。
でも。
考える方向だけ示してくれた。
瀬奈は小さく笑う。
「……確かに」
和春は普通の顔だった。
愛華は肩をすくめる。
「この人説明は不親切なんです」
瀬奈が笑う。
和春は言う。
「必要ない」
愛華が言い返す。
「あります」
瀬奈は思った。
(やっぱり)
(この二人の会話)
面白い。
そして。
少しだけ思った。
(……私も)
(このチームに入りたいな)
■客室 ― 思いがけない誘い
酒瓶は空。
夜の会話はまだ続いていた。
畳の上に三人。
机の上には空のグラス。
瀬奈はさっきからずっと考えていた。
和春の話。
思考。
コンサル。
答えを教えない教育。
それが妙に面白い。
瀬奈は小さく笑った。
「……なんか」
和春が見る。
瀬奈は言った。
「コンサルって面白そうですね」
愛華が少し目を細める。
瀬奈は続ける。
「今日だけでも、めちゃくちゃ勉強になりました。経営って構造と設計なんですね」
和春は普通の顔。
瀬奈は苦笑する。
「でも私なんかができる仕事じゃないですよね」
少し肩をすくめる。
「頭のレベル違いすぎますし」
和春はその言葉を聞いていた。
そして。
少しだけ考える。
次の瞬間。
意外な言葉が出た。
「興味あるなら」
瀬奈が顔を上げる。
和春は続ける。
「うち来ればいい」
瀬奈は一瞬理解できなかった。
「……え?」
愛華も一瞬止まる。
和春は淡々と言う。
「コンサルに興味あるならうち来い」
瀬奈が完全に固まる。
「え、え?」
和春は続ける。
「お前は回転速い」
瀬奈はぽかんとする。
和春は言う。
「見込みある」
そして。
「いつでも相談してこい」
瀬奈の思考が止まった。
(……え?)
(スカウト?)
(今?)
和春はゆっくり鞄を手元に引き寄せる。
革の鞄。
中から名刺入れを取り出す。
パチン、と音がする。
そこから一枚の名刺を取り出した。
和春はそれを瀬奈に差し出す。
「これ」
瀬奈は恐る恐る受け取る。
そこには――
和春の名前。
そして。
個人携帯番号。
瀬奈が顔を上げる。
「……これ」
和春は普通の顔。
「普段出さない方」
瀬奈が驚く。
愛華が――
その瞬間。
目を見開いていた。
(……え)
愛華は思う。
(それ)
(その名刺)
和春は基本、仕事用携帯しか使わない。
外部との連絡も基本はすべて愛華が管理している。
個人携帯はほぼ誰にも渡さない。
それを。
和春は平然と瀬奈に渡している。
愛華は少しだけ驚いた。
そして思う。
(和春が)
(ここまで評価してる?)
瀬奈はまだ混乱していた。
名刺を見つめたまま言う。
「……いいんですか?」
和春は普通に答える。
「相談だけでもいい。別にすぐ来いとは言わない」
瀬奈の胸が少し熱くなる。
和春は続けた。
「でもな、考えるやつは放っておくと伸びる。そういうやつは早めに拾った方がいい」
瀬奈は笑ってしまう。
「なんか‥‥スカウトみたいですね」
和春は普通の顔。
「そうだな」
愛華が少し苦笑する。
「突然ですね」
和春は肩をすくめる。
「思っただけだ」
瀬奈は名刺をもう一度見た。
胸が少し高鳴る。
そして静かに言った。
「……ありがとうございます」
愛華は瀬奈を見ていた。
そして思う。
(この子‥‥本当に化けるかもしれない)
そしてもう一つ。
(和春がこんな評価するなんて)
少しだけ嬉しかった。
気づけば、酒瓶は空になっていた。
三人の前に並んでいたグラスも、最後の一滴まで飲み干されている。
瀬奈がそれを見て苦笑する。
「……結局一本全部ですね」
愛華はため息をついた。
「一杯だけと言ったはずですが」
和春は普通の顔で言う。
「うまかった」
瀬奈は笑ってしまう。
酒の席の空気は少し柔らかくなっていた。
だが瀬奈の頭の中は、逆に冴えていた。
目の前にいる二人。
どう考えても普通ではない。
瀬奈が改めて聞いた。
「そういえば…」
「和春さんのコンサルって具体的にどんな感じなんですか?」
和春は少し考えてから答えた。
「普通のコンサルと違う」
瀬奈は興味を持つ。
「どう違うんですか?」
和春は指を軽く立てた。
「まず職種を限定しない」
瀬奈は頷く。
「普通は専門ありますよね。経営コンサルとか、ITコンサルとか」
和春は頷く。
「普通はそうだな。でも俺のは違う」
瀬奈は首を傾げる。
和春は淡々と言った。
「どんな現場でも対応できるのが条件」
「企業、飲食、IT、法律、教育、医療、全部対応する」
瀬奈が思わず笑う。
「それ普通無理ですよ」
和春は肩をすくめる。
「だから普通じゃない」
瀬奈は思わず納得してしまう。
そしてもう一つ。
和春は続けた。
「どんな案件でも必ず二人一組」
瀬奈が聞き返す。
「二人?」
和春は頷く。
「簡単なコンサルでも小さい案件でも必ず二人」
瀬奈は首を傾げる。
「普通コンサルって一人で行くこと多いですよね」
「むしろ小さい案件なら一人ですよね?」
和春は頷いた。
「普通はそうだな」
瀬奈は続ける。
「だって二人送り込むと会社の利益減りません? 一人を別の企業に回した方が、絶対利益上がりますよね」
これは完全に経営視点だった。
和春は少しだけ笑った。
「その通り」
瀬奈は一瞬止まる。
「え?」
和春は続ける。
「利益だけ考えるなら一人を別企業に回す方が儲かる」
瀬奈はさらに混乱する。
「じゃあなんで二人なんですか?」
愛華がそこで説明する。
「理由は二つあります」
瀬奈が真剣に聞く。
愛華は言った。
「一つ目、思考速度」
瀬奈が頷く。
愛華は続ける。
「企業の問題はリアルタイムで変化します。一人だと分析、思考、判断、決断、全部一人でやることになる。」
瀬奈は頷く。
確かに遅くなる。
愛華は言う。
「でも二人なら片方が分析、片方が戦略、同時に進む、思考速度が倍になります」
和春が補足する。
「人間の脳は並列処理が苦手だ。だから二つの頭脳使う」
瀬奈は小さく呟く。
「……なるほど」
愛華はさらに続ける。
「二つ目視点のズレです」
瀬奈が顔を上げる。
愛華は説明する。
「一人の思考は必ず偏ります。経験、性格、価値観、全部影響するします」
瀬奈は頷く。
愛華は言う。
「でも二人なら必ず思考がぶつかる」
和春が言う。
「思考がぶつかるとミスが減る」
瀬奈は少し驚く。
和春は続ける。
「コンサルの失敗の多くは視野の狭さだ。一人だとそれに気づけない」
瀬奈は納得した顔になる。
和春は最後に言う。
「だから必ず二人」
そして。
少しだけ真面目な声で続けた。
「規模が大きい案件はチーム入れる」
瀬奈が頷く。
和春は言う。
「でも必ず相棒とペア」
愛華が小さく笑う。
「どんな案件でも私と和春は同じチームです」
瀬奈は二人を見る。
そして思った。
(なるほど)
(この二人が)
一番強い理由がわかった。
■客室 ― 酒の席の続き
空になった酒瓶が机の上に転がっている。
夜はすっかり深くなっていた。
外は静かな山の夜。
虫の声がわずかに聞こえる。
三人はそのまま畳の上で話を続けていた。
瀬奈はさっきの話を頭の中で整理していた。
そしてぽつりと言う。
「でも……」
和春が見る。
瀬奈は少し苦笑した。
「それ‥‥和春さんと愛華先輩だから出来るんですよ」
愛華が少し首を傾ける。
瀬奈は続ける。
「普通はそんなに覚えられません。法律、経営、心理、IT、不動産、医療」
瀬奈は笑う。
「人間の頭ってそんなに万能じゃないです」
和春は普通の顔。
瀬奈はさらに言う。
「だから二人一組なんですね」
和春は小さく頷く。
瀬奈は考えながら言葉にする。
「でも二人一組でも普通の会社だと、同じタイプの人集めません?同じ専門、同じ教育」
和春は言う。
「それがダメ」
瀬奈が顔を上げる。
和春は続ける。
「同じ思考は同じミスする」
瀬奈は少し鳥肌が立った。
和春は説明する。
「だから違う思考のペア。違う視点。違う性格。違う分析」
瀬奈は呟く。
「……思考のチーム」
和春は頷く。
瀬奈は少し真剣な顔になる。
そして聞いた。
「じゃあ和春さん」
和春が見る。
瀬奈は少し笑った。
「私も教育してくれるんですか?」
愛華が少し驚く。
瀬奈は続ける。
「大学の講義すごくわかりやすかったんです。正直教育者に向いてると思いました」
和春は少しだけ目を細める。
そして言う。
「新人の講義はやる」
瀬奈の顔が少し明るくなる。
だが。
和春は続けた。
「でも答えは教えない」
瀬奈が止まる。
和春は静かに言う。
「答えをもらうと人は考えない」
瀬奈が少し真剣になる。
和春は続ける。
「思考を止めるからな、それが一番危ない」
部屋は静かだった。
和春の声は淡々としている。
「コンサルは答えを出す仕事じゃない。問題を見つけ、選択肢与えてる仕事だ」
瀬奈はゆっくり頷く。
和春は最後に言う。
「考えるのは自分」
その言葉は少し厳しかった。
瀬奈は少し黙る。
その時。
愛華が柔らかく言った。
「でも」
瀬奈が顔を上げる。
愛華は優しく微笑んでいた。
「考える方法は教えてくれますよ」
瀬奈が少し驚く。
愛華は続ける。
「和春は答えは教えません。でも、ヒントは必ずくれます」
瀬奈は少し安心した顔になる。
愛華は小さく笑う。
「今日もそうでしたよね」
瀬奈は思い出す。
確かにそうだった。
答えは言わなかった。
でも。
考える方向だけ示してくれた。
瀬奈は小さく笑う。
「……確かに」
和春は普通の顔だった。
愛華は肩をすくめる。
「この人説明は不親切なんです」
瀬奈が笑う。
和春は言う。
「必要ない」
愛華が言い返す。
「あります」
瀬奈は思った。
(やっぱり)
(この二人の会話)
面白い。
そして。
少しだけ思った。
(……私も)
(このチームに入りたいな)
■客室 ― 思いがけない誘い
酒瓶は空。
夜の会話はまだ続いていた。
畳の上に三人。
机の上には空のグラス。
瀬奈はさっきからずっと考えていた。
和春の話。
思考。
コンサル。
答えを教えない教育。
それが妙に面白い。
瀬奈は小さく笑った。
「……なんか」
和春が見る。
瀬奈は言った。
「コンサルって面白そうですね」
愛華が少し目を細める。
瀬奈は続ける。
「今日だけでも、めちゃくちゃ勉強になりました。経営って構造と設計なんですね」
和春は普通の顔。
瀬奈は苦笑する。
「でも私なんかができる仕事じゃないですよね」
少し肩をすくめる。
「頭のレベル違いすぎますし」
和春はその言葉を聞いていた。
そして。
少しだけ考える。
次の瞬間。
意外な言葉が出た。
「興味あるなら」
瀬奈が顔を上げる。
和春は続ける。
「うち来ればいい」
瀬奈は一瞬理解できなかった。
「……え?」
愛華も一瞬止まる。
和春は淡々と言う。
「コンサルに興味あるならうち来い」
瀬奈が完全に固まる。
「え、え?」
和春は続ける。
「お前は回転速い」
瀬奈はぽかんとする。
和春は言う。
「見込みある」
そして。
「いつでも相談してこい」
瀬奈の思考が止まった。
(……え?)
(スカウト?)
(今?)
和春はゆっくり鞄を手元に引き寄せる。
革の鞄。
中から名刺入れを取り出す。
パチン、と音がする。
そこから一枚の名刺を取り出した。
和春はそれを瀬奈に差し出す。
「これ」
瀬奈は恐る恐る受け取る。
そこには――
和春の名前。
そして。
個人携帯番号。
瀬奈が顔を上げる。
「……これ」
和春は普通の顔。
「普段出さない方」
瀬奈が驚く。
愛華が――
その瞬間。
目を見開いていた。
(……え)
愛華は思う。
(それ)
(その名刺)
和春は基本、仕事用携帯しか使わない。
外部との連絡も基本はすべて愛華が管理している。
個人携帯はほぼ誰にも渡さない。
それを。
和春は平然と瀬奈に渡している。
愛華は少しだけ驚いた。
そして思う。
(和春が)
(ここまで評価してる?)
瀬奈はまだ混乱していた。
名刺を見つめたまま言う。
「……いいんですか?」
和春は普通に答える。
「相談だけでもいい。別にすぐ来いとは言わない」
瀬奈の胸が少し熱くなる。
和春は続けた。
「でもな、考えるやつは放っておくと伸びる。そういうやつは早めに拾った方がいい」
瀬奈は笑ってしまう。
「なんか‥‥スカウトみたいですね」
和春は普通の顔。
「そうだな」
愛華が少し苦笑する。
「突然ですね」
和春は肩をすくめる。
「思っただけだ」
瀬奈は名刺をもう一度見た。
胸が少し高鳴る。
そして静かに言った。
「……ありがとうございます」
愛華は瀬奈を見ていた。
そして思う。
(この子‥‥本当に化けるかもしれない)
そしてもう一つ。
(和春がこんな評価するなんて)
少しだけ嬉しかった。

