相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

■旅館の土産物通り

旅館を出たあと。

和春と愛華は、温泉街の土産物屋をゆっくり見て回っていた。

温泉街らしい石畳の道。
湯気の上がる温泉まんじゅうの店。
木の看板が並ぶ小さな土産店。

観光客も多く、賑やかな通りだった。

「温泉街ってこういう雰囲気いいですね」

愛華が店先に並ぶ工芸品を見ながら言う。

和春は特に何も買う気はなさそうだったが、
ただゆっくり歩いている。

その時。

少し先で声が上がった。

「No no…!」

店先で、外国人観光客が店員と揉めていた。

家族連れだった。

父親。
母親。
そして小さな子供。

どうやら言葉が通じていない。

店員も困っている。

観光客も焦っている。

周囲の観光客も少しざわついていた。

「どうしたんだろう…」

「言葉通じてないんじゃない?」

和春はその会話を聞いていた。

そして耳に入ってきた言葉。

フランス語。

父親が言っている。

« Nous avons déjà payé… pourquoi dites-vous que ce n’est pas payé ? »
(もう支払ったのに、なぜ未払いだと言うんだ?)

和春はため息を一つ。

そして普通の顔で歩き出す。

「ちょっといいか」

父親が振り向く。

和春はフランス語で話しかけた。

« Excusez-moi. Quel est le problème ? »
(すみません。何が問題なんですか?)

父親の目が丸くなる。

« Vous parlez français ?! »
(フランス語話せるのか!?)

和春は普通に答える。

« Oui, un peu. »
(まあ少し)

周囲がざわつく。

「え…」

「フランス語?」

「ペラペラじゃん」

「すご…」

和春は店員の話も聞き、すぐ状況を理解した。

支払いは済んでいた。

ただ――

レシートの確認がうまく伝わっていないだけだった。

和春が説明する。

« Ce n’est pas un problème de paiement.
Ils veulent juste vérifier le reçu. »
(支払いの問題ではありません。
レシートを確認したいだけです)

父親は安心した顔になる。

« Ah… je vois. Merci. »
(ああ、なるほど。ありがとう)

一方。

愛華はその間、子供の方へ歩いていた。

小さな男の子。

不安そうに母親の服を掴んでいる。

愛華は少ししゃがみ、優しく声をかける。

« Bonjour. Tu n’as pas besoin de t’inquiéter. »
(こんにちは。心配しなくて大丈夫ですよ)

男の子が少し驚く。

愛華は笑う。

« Tout va bien. »
(大丈夫ですよ)

子供は少し安心した顔になる。

その光景を見て――

周囲がさらにざわめいた。

「え?」

「彼女も?」

「フランス語?」

「このカップルすげー…」

「どっちも話せるの?」

「すごくない?」

小声の会話が聞こえる。

「隣の女性…恋人かな」

「お似合いだよな」

和春は問題を解決し、軽く頷く。

父親が握手してくる。

« Merci beaucoup. Vous nous avez vraiment aidés. »
(本当に助かりました)

和春は普通に返す。

« Bon voyage au Japon. »
(日本を楽しんでください)

家族は何度もお礼を言いながら去っていった。

そのあと。

周囲の観光客のざわめきはまだ続いていた。

「今の見た?」

「フランス語ペラペラ」

「しかも二人とも」

「すげーカップル」

愛華は立ち上がる。

そして小さく言う。

「……目立ちましたね」

和春は平然としている。

「別に」

愛華は苦笑した。

「そういうところですよ」

温泉街のざわめきは、しばらく続いていた。