相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

■客室 ― 夕食

天空風呂から戻り、部屋で少し休んでいると襖がノックされた。

「失礼します」

襖が開く。

そこに立っていたのは――

相沢瀬奈だった。

「お食事お持ちしました」

仲居服姿のまま、少し仕事モードの顔をしている。

愛華が少し驚く。

「瀬奈?」

「今日は私担当なんです」

瀬奈はそう言いながら、料理を次々とテーブルに並べていく。

刺身の盛り合わせ。
川魚の塩焼き。
山菜の天ぷら。
湯気の立つ鍋。
そして炭火の上には、これから焼く和牛。

料理はどんどん増えていく。

「……すごい量ですね」

愛華が呟く。

瀬奈が少し誇らしげに言う。

「このプラン、料理が売りなんです」

和春は料理を見て少し頷く。

「豪華だな」

瀬奈はテーブルを整え終え、最後に飲み物の確認をする。

「お飲み物はいかがなさいますか?」

和春がすぐ言った。

「酒」

愛華が横から即答する。

「ダメです」

和春が少し眉を上げる。

「温泉旅館だぞ」

「飲んだらお風呂なしです」

静かな声だった。

和春が少し考える。

「……」

「夜の露天風呂もなしです」

完全に釘を刺される。

和春は小さく息を吐いた。

「……水でいい」

瀬奈はそのやり取りを見ていた。

(あれ?)

(なんか……)

和春は完全に諦めている。

愛華は普通に指示している。

(これ……)

(和春さん、尻に敷かれてる……?)

瀬奈は思わず笑いそうになるのを堪えながら、お水を用意する。

「では、お食事ごゆっくりどうぞ」

そう言って襖を閉める。

廊下に出た瞬間、瀬奈は思う。

(やっぱりこの二人)

(付き合ってるよね……)

そして部屋の中では、

和春が少し不満そうに水を飲んでいた。


■客室 ― 夕食の時間

瀬奈が部屋を出ていき、襖が静かに閉まる。

テーブルの上には豪華な料理が並んでいた。

刺身の盛り合わせ。
川魚の塩焼き。
山菜の天ぷら。
湯気の立つ鍋。
炭火の上で焼く和牛。

温泉旅館らしい豪華な夕食だった。

和春は箸を手に取り、刺身を一口食べる。

「……うまい」

そのあと、水を飲む。

少し間を置いてまた料理を食べる。

「これもうまい」

そしてまた水。

「……」

水を飲みながら、ほんの少しだけ物足りなさそうな顔をした。

愛華はその様子を見ていた。

「……」

和春は料理を食べているだけなのに、表情が少し分かりやすい。

そしてまた水を飲む。

少しだけ不満そうな顔。

愛華は小さく笑った。

「そんなにお酒飲みたかったんですか」

和春は普通に答える。

「温泉だからな」

「お風呂があります」

「酒の方が風情ある」

「事故になります」

即答。

和春はまた水を飲む。

やっぱり少し物足りなさそうだ。

愛華はそれを見て、ふっと笑う。

「……和春」

「ん?」

「子供みたいですね」

和春がちらっと見る。

「そうか?」

「はい」

愛華は箸を動かしながら言う。

「普段、完璧な顔して仕事してる人が」

少し視線を上げる。

「お酒禁止にされたくらいで、そんな顔するなんて」

和春は少しだけ考える。

「合理的な判断だ」

「違います」

愛華は笑った。

「拗ねてます」

和春は否定もしない。

ただ料理を食べて、また水を飲む。

そしてやっぱり、少しだけ物足りなさそうな顔をする。

愛華は思う。

(……この人)

仕事では冷静で、知識も判断も完璧。

誰よりも合理的で、誰よりも頭がいい。

なのに。

こういう時だけ――

少しだけ子供みたいになる。

そのギャップが、なんだか面白くて。

愛華は、和春を見ていて飽きなかった。