■旅行準備
夕食後。
食器を片付け終えた頃、和春はリビングの床に旅行カバンを広げていた。
クローゼットから掴んできた服を、考えもせず放り込んでいく。
シャツ、パーカー、替えのズボン、靴下――
丸めて詰めるだけの作業。
「……何してるんですか」
後ろから声が落ちた。
「準備だろ」
「見れば分かります」
愛華は無言で近づき、カバンを閉じた。
「没収です」
「まだ入れてる途中だ」
「だからです」
中を開けると、案の定ひどい状態だった。
シワだらけのシャツ、裏返しの靴下、充電器と服が混在している。
「これを宿で着るつもりですか」
「問題ない」
「あります」
一つずつ取り出し、テーブルへ並べる。
「私がやるので、コーヒーでも飲んでてください」
「……信用ないな」
「信用があるなら止めません」
和春は素直にソファへ座る。
マグカップを手にするが、愛華が横目で見る。
「ブラックは一杯だけです」
「監視が厳しい」
「生活能力が壊滅的ですから」
⸻
愛華は淡々と仕分けを始める。
シャツは畳み直し、
インナーは圧縮袋へ、
充電器や小物はポーチへまとめる。
数分後――
カバンの中は隙間なく綺麗に整っていた。
「……同じ容量か?」
「余裕があります」
「さっきは入らなかった」
「入れ方の問題です」
和春が中を覗く。
「俺がやるとシワになる理由が分からない」
「丸めて押し込むからです」
「合理的だろ」
「服は書類ではありません」
淡々と返す。
「本当に生活能力が欠けてますね」
「仕事に支障はない」
「私にあります」
ファスナーを閉め、和春へ渡す。
「これで準備完了です」
和春は受け取りながら言う。
「助かる」
愛華は小さく息を吐いた。
「相方兼メイドなので」
◼️夜の寝室
寝室の灯りは少し落とされていた。
旅行前でやることは全部終わり、静かな空気だけが残っている。
和春は当たり前のようにベッドに座り、こちらを見る。
その視線に、愛華はため息をついた。
「……またですか」
「来いよ」
当然のように手を差し出す。
愛華は腕を組む。
「さっきしましたよね?」
和春は少しだけ考えたあと、平然と言った。
「さっきは休憩」
「休憩じゃありません」
「鰻も食べたし、これから本番」
「意味が分かりません」
呆れた声になる。
「どこにそんな体力があるんですか……」
「回復した」
「回復の基準がおかしいんです」
愛華は額を押さえる。
だが結局、差し出された手を見て――
少しだけ迷い、観念したように近づく。
「……ほんとにスケベですね」
和春は否定もしない。
ただ引き寄せる。
バランスを崩した愛華が胸にぶつかると、そのまま自然に腕の中へ収まった。
「寝るだけだ」
「信用できません」
「本当に寝るだけのときは言わない」
「最悪です」
思わず笑ってしまう。
怒る気力も抜け、肩を預ける。
体温が伝わると、もう抵抗する意味もないと分かってしまう。
「……明日、早いですよ」
「分かってる」
「絶対分かってません」
小さく息を吐く。
それでも――
離れようとはしなかった。
夕食後。
食器を片付け終えた頃、和春はリビングの床に旅行カバンを広げていた。
クローゼットから掴んできた服を、考えもせず放り込んでいく。
シャツ、パーカー、替えのズボン、靴下――
丸めて詰めるだけの作業。
「……何してるんですか」
後ろから声が落ちた。
「準備だろ」
「見れば分かります」
愛華は無言で近づき、カバンを閉じた。
「没収です」
「まだ入れてる途中だ」
「だからです」
中を開けると、案の定ひどい状態だった。
シワだらけのシャツ、裏返しの靴下、充電器と服が混在している。
「これを宿で着るつもりですか」
「問題ない」
「あります」
一つずつ取り出し、テーブルへ並べる。
「私がやるので、コーヒーでも飲んでてください」
「……信用ないな」
「信用があるなら止めません」
和春は素直にソファへ座る。
マグカップを手にするが、愛華が横目で見る。
「ブラックは一杯だけです」
「監視が厳しい」
「生活能力が壊滅的ですから」
⸻
愛華は淡々と仕分けを始める。
シャツは畳み直し、
インナーは圧縮袋へ、
充電器や小物はポーチへまとめる。
数分後――
カバンの中は隙間なく綺麗に整っていた。
「……同じ容量か?」
「余裕があります」
「さっきは入らなかった」
「入れ方の問題です」
和春が中を覗く。
「俺がやるとシワになる理由が分からない」
「丸めて押し込むからです」
「合理的だろ」
「服は書類ではありません」
淡々と返す。
「本当に生活能力が欠けてますね」
「仕事に支障はない」
「私にあります」
ファスナーを閉め、和春へ渡す。
「これで準備完了です」
和春は受け取りながら言う。
「助かる」
愛華は小さく息を吐いた。
「相方兼メイドなので」
◼️夜の寝室
寝室の灯りは少し落とされていた。
旅行前でやることは全部終わり、静かな空気だけが残っている。
和春は当たり前のようにベッドに座り、こちらを見る。
その視線に、愛華はため息をついた。
「……またですか」
「来いよ」
当然のように手を差し出す。
愛華は腕を組む。
「さっきしましたよね?」
和春は少しだけ考えたあと、平然と言った。
「さっきは休憩」
「休憩じゃありません」
「鰻も食べたし、これから本番」
「意味が分かりません」
呆れた声になる。
「どこにそんな体力があるんですか……」
「回復した」
「回復の基準がおかしいんです」
愛華は額を押さえる。
だが結局、差し出された手を見て――
少しだけ迷い、観念したように近づく。
「……ほんとにスケベですね」
和春は否定もしない。
ただ引き寄せる。
バランスを崩した愛華が胸にぶつかると、そのまま自然に腕の中へ収まった。
「寝るだけだ」
「信用できません」
「本当に寝るだけのときは言わない」
「最悪です」
思わず笑ってしまう。
怒る気力も抜け、肩を預ける。
体温が伝わると、もう抵抗する意味もないと分かってしまう。
「……明日、早いですよ」
「分かってる」
「絶対分かってません」
小さく息を吐く。
それでも――
離れようとはしなかった。

