如月法律事務所
ビルの自動ドアが開くと、受付が軽く頭を下げる。
二人が来ることは既に知られている様子だった。
応接室の扉を開けると、書類に目を通していた空が顔を上げる。
「来たわね、ハルくん」
「終わらせてきた」
机の上へ資料を置く。
空は手に取り、ページをめくる速度が徐々に速くなる。
途中から笑った。
「相変わらず、実務修習生用にしては完成度が高すぎるのよ」
「基礎の型だけまとめただけだ」
「これ“型”って言わないわ」
愛華が静かに補足する。
「新人の方が裁判前に迷わないよう、思考順序を整理しています。
事実認定 → 証拠評価 → 主張構成の流れを固定するだけで、負担が減ります」
空は資料を閉じる。
「……本当に弁護士資格いらないんじゃない?」
「肩書きは仕事を増やすだけだ」
「増やしてるのはあなたでしょ」
少し呆れながら、机の引き出しを開ける。
そして一冊のファイルを取り出した。
「はい、これ」
和春に差し出す。
表紙には
“Pro Bono(プロボノ)案件”
の文字。
愛華がわずかに首を傾げる。
「無償案件ですか?」
「正確には“公益目的”ね。
依頼料が取れないけど、社会的に必要な案件」
和春がページをめくる。
内容を見て、少しだけ目を細めた。
「……面倒なやつだな」
「だから回したのよ」
空は腕を組む。
「普通の弁護士は時間が取れない。
でも放置できない案件」
愛華が資料を覗き込む。
「労働問題と家庭問題が絡んでますね……」
「境界が曖昧なタイプね。法だけじゃ解決しない」
空が和春を見る。
「心理の領域が必要になる。
だから、あんたにしか頼めない」
数秒の沈黙。
和春はファイルを閉じた。
「受ける」
即答だった。
空は小さく笑う。
「知ってた」
愛華は軽く息を吐き、タブレットを取り出す。
「ではスケジュールを再構築します。
今日の午後、フリーにして正解でしたね」
「休みが消えたな」
「最初からありません」
いつもの調子で言いながら、予定を組み直していく。
新しい案件が、静かに動き始めた。
ビルの自動ドアが開くと、受付が軽く頭を下げる。
二人が来ることは既に知られている様子だった。
応接室の扉を開けると、書類に目を通していた空が顔を上げる。
「来たわね、ハルくん」
「終わらせてきた」
机の上へ資料を置く。
空は手に取り、ページをめくる速度が徐々に速くなる。
途中から笑った。
「相変わらず、実務修習生用にしては完成度が高すぎるのよ」
「基礎の型だけまとめただけだ」
「これ“型”って言わないわ」
愛華が静かに補足する。
「新人の方が裁判前に迷わないよう、思考順序を整理しています。
事実認定 → 証拠評価 → 主張構成の流れを固定するだけで、負担が減ります」
空は資料を閉じる。
「……本当に弁護士資格いらないんじゃない?」
「肩書きは仕事を増やすだけだ」
「増やしてるのはあなたでしょ」
少し呆れながら、机の引き出しを開ける。
そして一冊のファイルを取り出した。
「はい、これ」
和春に差し出す。
表紙には
“Pro Bono(プロボノ)案件”
の文字。
愛華がわずかに首を傾げる。
「無償案件ですか?」
「正確には“公益目的”ね。
依頼料が取れないけど、社会的に必要な案件」
和春がページをめくる。
内容を見て、少しだけ目を細めた。
「……面倒なやつだな」
「だから回したのよ」
空は腕を組む。
「普通の弁護士は時間が取れない。
でも放置できない案件」
愛華が資料を覗き込む。
「労働問題と家庭問題が絡んでますね……」
「境界が曖昧なタイプね。法だけじゃ解決しない」
空が和春を見る。
「心理の領域が必要になる。
だから、あんたにしか頼めない」
数秒の沈黙。
和春はファイルを閉じた。
「受ける」
即答だった。
空は小さく笑う。
「知ってた」
愛華は軽く息を吐き、タブレットを取り出す。
「ではスケジュールを再構築します。
今日の午後、フリーにして正解でしたね」
「休みが消えたな」
「最初からありません」
いつもの調子で言いながら、予定を組み直していく。
新しい案件が、静かに動き始めた。

