相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

カーテンの隙間から入る朝の光が、白いシーツの上に静かに落ちていた。

愛華はゆっくり目を覚ます。
頬に触れる温もりに気づき、視線を上げると――

和春の腕の中だった。

規則正しい呼吸。
まだ眠っている。

昨夜の余韻が、体の奥にじんわり残っている。
無意識に、少しだけ体を寄せてしまう。

「……起きたのか」

低い声。
寝ていると思っていた和春が目を開けていた。

「起きてました?」

「さっきな」

愛華は一瞬だけ視線を逸らす。
だが逃げない。昨日から、少しだけブレーキが緩んでいる。

「離れませんね」

「お前が寄ってきた」

「否定しません」

小さく笑う。

ほんの数秒、何も言わない時間が流れる。
それだけで落ち着いてしまう距離。

けれど――

愛華は名残を断つように体を起こした。


愛華はベッドから降り、クローゼットへ向かう。クローゼットからメイド服を取り、タンスからは変えの下着を出す。そしてそのまま着替え始めた。

背中に視線を感じる。

「……和春」

「なんだ」

「見てますよね」

「努力はしてる」

「どこがですか」

振り向くと、普通に見ていた。

愛華は眉を寄せる。

「目、逸らしてください」

「無理だな」

「即答しないでください」

ため息混じりに言うが、声は少しだけ柔らかい。

和春はベッドに肘をついたまま視線を外さない。

「……ほんとにえっちですね」

「朝からひどい言われようだな」

「事実です」

和春に見られながも着替え終えた愛華は髪を整えながら小さく咳払いする。

頬がほんの少しだけ赤い。

「現実に戻りますよ。仕事あります」

和春はようやく体を起こした。




◼️キッチン


コーヒーの香りが部屋に広がる。

「今日は?」

テーブルに座ったまま和春が聞く。

「午前中に残りの資料を片付けます。
 実務修習の依頼品をまとめて、午後に如月弁護士へ提出」

カップを置く。

「それで今日の仕事は終わりです」

「珍しく軽いな」

「軽くはありません。
 午後はフリーにして、明日以降のスケジュール再構築です」

タブレットを開く。
すでに予定がぎっしり詰まっている。

「あなた、来週から大学講義が三件増えました。
 あとコンサル案件が二つ重なっています」

「詰めすぎだろ」

「詰めてるのはあなたです」

即答だった。



◼️現実


昨夜の空気は、もう残っていない。
いつもの距離、いつもの会話。

だが――

コーヒーを飲もうとした和春の手を、愛華が止める。

「ブラックは二杯までです」

「一杯目だろ」

「朝の分はノーカウントではありません」

「厳しいな」

「昨夜の自己管理の甘さの代償です」

淡々と言うが、声はどこか柔らかい。

和春は小さく息を吐き、カップを置いた。

「……分かった」

そのやり取りの後、二人は自然に並んで資料を確認し始める。

肩が触れる距離。
どちらも離れない。

特別な言葉はない。
けれど、昨夜と同じ空気がほんの少しだけ残っていた。

甘さと現実が混ざった朝だった。