相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

湯上がりの湿った空気が、廊下にゆるく残っていた。

愛華が髪をタオルで押さえながら歩くと、少し前を歩いていた和春が足を止める。
振り返りもしないまま、寝室のドアを開けた。

「来いよ」

短い一言。

誘いというより、もう“当たり前”の確認に近い声音だった。

愛華は一瞬だけ視線を伏せる。
けれど迷いはない。

「……はい」

静かに頷き、そのまま部屋へ入る。

ベッドの上には、最初から用意されていたかのように枕が二つ並んでいる。
いつの間にか――ではない。
もうずっと前から、ここにある。

クローゼットの一角には、愛華の部屋着。
タンスの引き出しには、下着や着替えが収まっている。

誰も何も決めていないのに、
二人の生活は自然に重なっていた。

夜になると、隣にいるのが普通になった。
言葉を交わすより早く距離が近づく。
確かめるように、触れるように――

お互いを求めることも、もう特別なことではない。

灯りを落とすと、室内はやわらかな暗さに包まれる。

ベッドへ腰を下ろした愛華の手を、和春が取る。
強くもなく、弱くもない力。

ただ離さないだけの温度。


そして、そっと――唇が重なった。

軽く触れるだけのキス。
けれど離れない。

愛華は目を閉じ、胸の奥が静かに揺れるのを感じる。
逃げる理由はない。

むしろ――

愛華の指が和春の服を掴む。
自分から、もう一度近づく。

今度は愛華の方から口づけた。

触れるだけでは終わらない。
呼吸が重なり、互いの温度を確かめるように深くなる。
離れようとすれば、どちらからともなく引き寄せてしまう距離。

言葉はない。

ただ、互いの存在を確かめ合うように、静かに唇を重ね続ける。

舌が絡み合い、呼吸が乱れ、銀色の糸が2人の唇を繋ぐ。

和春の腕が背中を包む。
愛華は力を抜き、その胸に体を預ける。

愛華は小さく息をついた。

「……最近、毎日ですね」

「嫌か?」

「いいえ」

間を置かず答える。

むしろ、答えは決まっていた。

身体を預けると、和春が受け止める。
抱き寄せられた胸の鼓動が、静かに伝わる。

言葉はない。

けれど確かに通じている。

夜の静けさの中、二人の距離はゆっくりと消えていく。
触れる温度だけが残る。

――この時間が、好きだった。

名前はなくてもいい。
約束がなくてもいい。

ただ、ここにいられることが。

愛華は目を閉じる。
和春の腕の中で、小さく身体の力を抜いた。

それだけで、十分に満たされていた。