相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

◼️ 講義後 ― 廊下

教室を出た直後。

「愛華先輩! 和春さーん!」

相沢瀬奈が手を振りながら駆けてくる。

「今日の講義めちゃくちゃ分かりやす――」

足がもつれる。

「あっ」

前のめりに倒れる。

和春が咄嗟に手を出す。

――手に柔らかい感触。

静止。

瀬奈の顔が真っ赤になる。

「す、すみません!!」

和春が手を離す。

「悪い、反射だ」

「……瀬奈」

愛華の声は静か。

「廊下は走る場所ではありません。子供ですか‥‥」

「は、はい……」

そして視線が横へ移る。

「和春」

「……なんだ」

「助けたのは評価します」

一拍。

「ですが、なぜ毎回そこを的確に触るのですか」

「事故だ」

「あなたの“事故”は頻度が異常です」

瀬奈が首を傾げる。

「そんなにですか?」

愛華は指を折り始める。

「雨の日、滑って転びかけた人を支えたら抱き止める形」

「段差でつまずいた人を支えようとして密着姿勢」

「風で飛んでしまった帽子を取ろうとした女性と衝突して抱きしめる形になる」

「倒れかけた脚立を支えたのはいいが、結局乗ってた女性が転倒し女性が馬乗りに」

「棚から落ちた紙袋を受け止めたら中身が下着」

瀬奈の目が丸くなる。

「えっ、結構リアルに起きそうなのばっかり…」

「さらに」

愛華が続ける。

「犬に引っ張られて転んだ女性を支えたらそのまま押し倒す形」

「階段で足を滑らせた人を支えようとして抱き寄せ密着する」


「そして今回」

沈黙。

瀬奈が呟く。

「……体質ですね」

愛華は頷く。

「えっちなトラブルを引き寄せる体質です」

和春がため息。

「言い方」

「事実です」

「不可抗力だ」

「毎回言いますね」

「毎回不可抗力だからだ」

瀬奈が笑いをこらえる。

「でも多いです!普通そんな起きません!」

愛華が静かに言う。

「本人に悪気がないのが一番面倒です」

和春が肩をすくめる。

「助けない方がいいのか?」

「助け方を考えてください」

「どうやってだ」

「正面から抱き止めないことです」

少し低い声。

「距離感を学んでください」

瀬奈は確信する。

(これ、怒ってる…というか)

(完全に嫉妬だ)

愛華は気づかないまま続ける。

「次からは安全な行動を」

和春は短く答える。

「善処する」

瀬奈は思う。

(この人、またやるな)

廊下に、少しだけ笑いがこぼれた。