大学 ― 講義前
午前の書類作業を終え、二人は車で大学へ向かった。
昼前の道路は穏やかだった。
信号のリズムに合わせて街がゆっくり流れていく。
助手席の愛華はタブレットを閉じる。
「資料、最終確認終わりました」
「修正は?」
「ありません。あとは和春の話し方次第です」
「つまりいつも通りだな」
「ええ、いつも通りで問題ありません」
少し間。
「……学生相手です。理屈で殴りすぎないように」
「配慮はする」
「しない顔です」
和春は何も言わずハンドルを切った。
大学の門をくぐる。
昼休み直前のキャンパスは、学生の声で満ちていた。
雑談、笑い声、足音。
社会に出る前の、まだ軽い空気。
駐車場に車を停める。
二人は自然な動きで降り、並んで歩き出す。
メイド服の愛華に視線は集まるが――
「また来てるぞ、あの人たち」
「講義の人だよね」
「今日は何の話だろ」
好奇心はあっても、騒ぎにはならない。
この大学では、すでに見慣れた光景になっていた。
事務局へ到着。
愛華が簡潔に告げる。
「本日講義予定の神代和春です。到着しました」
職員はすぐに頷く。
「学部長がお待ちです。こちらへどうぞ」
案内され、研究棟の奥へ。
ノック。
「失礼します」
扉を開けると、学部長が顔を上げた。
「おお、来てくれたか」
視線が愛華へ向く――が、もう止まらない。
何も言わない。
ただ自然に頷くだけ。
「相変わらずだな」
「通常運転です」
「もう誰も驚かんよ」
学部長は笑う。
「この大学じゃ、君たちはセットだからな」
和春は軽く会釈する。
「今日は就職講義だな」
「ブラックとホワイトの境目の話をします」
「学生に刺さる内容を頼む」
「刺さるかは知りませんが、判断基準は渡します」
学部長は満足そうに頷いた。
「それでいい。
考えさせる講義をしてくれ」
愛華が補足する。
「感情ではなく、構造で理解させます」
「楽しみにしている」
短い挨拶を終え、二人は廊下へ出る。
教室までは少し距離がある。
歩きながら、愛華が小さく言う。
「学生、今日は多そうです」
「テーマ的にな」
「人生に直結しますから」
和春は前を見たまま答える。
「就職は能力じゃなく選択の問題だ」
「ええ」
一拍。
「間違えれば、努力が罰になります」
教室の前に着く。
すでにざわめきが聞こえていた。
扉の向こうには、将来に不安を持つ若者たち。
和春はドアノブに手をかける。
「じゃあ、始めるか」
「はい」
二人は教室へ入った。
――講義が始まる。
午前の書類作業を終え、二人は車で大学へ向かった。
昼前の道路は穏やかだった。
信号のリズムに合わせて街がゆっくり流れていく。
助手席の愛華はタブレットを閉じる。
「資料、最終確認終わりました」
「修正は?」
「ありません。あとは和春の話し方次第です」
「つまりいつも通りだな」
「ええ、いつも通りで問題ありません」
少し間。
「……学生相手です。理屈で殴りすぎないように」
「配慮はする」
「しない顔です」
和春は何も言わずハンドルを切った。
大学の門をくぐる。
昼休み直前のキャンパスは、学生の声で満ちていた。
雑談、笑い声、足音。
社会に出る前の、まだ軽い空気。
駐車場に車を停める。
二人は自然な動きで降り、並んで歩き出す。
メイド服の愛華に視線は集まるが――
「また来てるぞ、あの人たち」
「講義の人だよね」
「今日は何の話だろ」
好奇心はあっても、騒ぎにはならない。
この大学では、すでに見慣れた光景になっていた。
事務局へ到着。
愛華が簡潔に告げる。
「本日講義予定の神代和春です。到着しました」
職員はすぐに頷く。
「学部長がお待ちです。こちらへどうぞ」
案内され、研究棟の奥へ。
ノック。
「失礼します」
扉を開けると、学部長が顔を上げた。
「おお、来てくれたか」
視線が愛華へ向く――が、もう止まらない。
何も言わない。
ただ自然に頷くだけ。
「相変わらずだな」
「通常運転です」
「もう誰も驚かんよ」
学部長は笑う。
「この大学じゃ、君たちはセットだからな」
和春は軽く会釈する。
「今日は就職講義だな」
「ブラックとホワイトの境目の話をします」
「学生に刺さる内容を頼む」
「刺さるかは知りませんが、判断基準は渡します」
学部長は満足そうに頷いた。
「それでいい。
考えさせる講義をしてくれ」
愛華が補足する。
「感情ではなく、構造で理解させます」
「楽しみにしている」
短い挨拶を終え、二人は廊下へ出る。
教室までは少し距離がある。
歩きながら、愛華が小さく言う。
「学生、今日は多そうです」
「テーマ的にな」
「人生に直結しますから」
和春は前を見たまま答える。
「就職は能力じゃなく選択の問題だ」
「ええ」
一拍。
「間違えれば、努力が罰になります」
教室の前に着く。
すでにざわめきが聞こえていた。
扉の向こうには、将来に不安を持つ若者たち。
和春はドアノブに手をかける。
「じゃあ、始めるか」
「はい」
二人は教室へ入った。
――講義が始まる。
