相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

◼️ 夜 ― 22:07

風呂上がりの静かなリビング。

和春はパジャマ姿でソファに腰を下ろし、
テーブルの下へ手を伸ばす。

「……和春」

低い声。

手が止まる。

「開けてない」

「触りました」

「今日くらいいいだろ」

「本日ブラック六杯目です」

「五杯だ」

「朝含めて六杯です」

缶を奪われる。

「祝いの日だぞ」

「祝いは予定にありません」

代わりに湯のみが置かれる。

「白湯です」

「味がしない」

「それが目的です」

和春が不満げに飲んだ、その瞬間。

ピンポーン。

二人同時に時計を見る。

22:07。

「……誰だ」

和春が立ち上がる。

玄関を開ける。

「ハルくん。こんばんは」

如月空。
片手に酒瓶。

「おめでとう」

和春は眉をわずかに動かす。

「来るとは思ってなかった」

「来るに決まってるでしょ。合格祝い」

「祝う予定はない」

「だから私が来た」

勝手に靴を脱ぐ。

そのとき、廊下から愛華が現れる。

パジャマ姿。
濡れた髪を軽くまとめたまま。

空の視線が止まる。

「……あれ?」

一拍。

「なんでパジャマ?」

和春が当然のように答える。

「住んでる」

沈黙。

空の表情が止まる。

「……は?」

「一緒に生活してる」

「さらっと重大なこと言うな」

愛華が軽く会釈する。

「こんばんは、空さん」

空は二人を見比べる。

「へぇ……」



◼️リビング。

酒瓶がテーブルに置かれる。

「はい、開ける」

「一杯までです」

愛華が即座に言う。

「なにそのルール」

「本日カフェイン過多ですので」

「酒と関係ないだろ」

「自律神経に影響します」

和春がグラスを取る。

注ごうとした瞬間、愛華が瓶を軽く押さえる。

量が減る。

「おい」

「一杯分です」

空が笑う。

「完全に管理されてる」

「違う」

「違います」

同時に否定。

和春が一口飲む。

テーブルに置こうとすると、愛華が自然にコースターを寄せる。

袖が触れる。

離れない。

二人とも気づいていない。

空が腕を組む。

「……ねえ」

「なんだ」

「距離近くない?」

二人同時に首を傾げる。

「普通です」

「問題ない」

本当に分かっていない顔。

空が小さく笑う。

「自覚なしってやつね」

和春がグラスを持つと、愛華が白湯を差し出す。

「交互に」

「子供か」

「管理です」

空は酒を口にしながら呟く。

「前より甘くなってるのは確実ね」

二人は聞いていない。

夜は静かに続く。

祝う気はなかったはずなのに、
いつの間にか祝いの空気になっていた。