玄関の扉が閉まる。
靴を脱ぎ、リビングへ向かう途中――
ポストの郵便物を和春が手に取る。
白い封筒。
差出人を確認し、静かに開封する。
中の紙を一枚取り出す。
「……和春?」
荷物を置いた愛華が近づく。
差し出された紙を受け取る。
目を通す。
数秒、固まる。
「……司法試験、合格通知」
顔を上げる。
「行っていたんですか?」
「7月にな」
「聞いていません」
「必要になるまで言うつもりなかった」
「必要、ですか」
「取れる資格は先に取っとく」
当然のような口調。
愛華はしばらく無言で紙を見る。
「弁護士資格は、実務修習がありますよね」
「一年」
和春はスマホを取り出す。
コール音。
『もしもし、ハルくん?』
「空、少しいいか」
『珍しいわね』
「受かった」
『……何が?』
「司法試験」
沈黙。
『は?』
「実務修習あるだろ」
『あるわよ』
「そっちの案件、形式だけ回してくれ。修習扱いにする」
『普通は逆なのよ!?』
「要件満たせば問題ない」
長い溜め息。
『相変わらずね……分かった、調整するわ』
「助かる」
『ほんと、あんたの頭には呆れるわ』
通話が切れる。
愛華は腕を組んだまま立っている。
「……増えましたね」
「幅は広がる」
「公認会計士、公認心理師、そして弁護士」
少し呆れた視線。
「やりすぎです」
「必要な分だけだ」
小さく息を吐く。
「21歳で海外大学を飛び級卒業したと聞いた時も思いましたが」
視線を向ける。
「どこまで行くつもりなんですか」
和春はソファに腰を下ろす。
「必要なところまで」
愛華は合格通知を丁寧に封筒へ戻す。
「保管しておきます」
「任せる」
歩き出してから、止まる。
「……おめでとうございます」
静かな声。
和春は少しだけ視線を上げる。
「ありがとな」
夕方の光が部屋に落ちていた。
◼️夜 ― 食卓
湯気の立つ味噌汁。
焼き魚の香りが広がる。
向かい合って座り、箸の音だけが続く。
愛華がふと顔を上げる。
「……和春」
「ん」
「司法試験の前に、予備試験がありますよね」
「あるな」
「いつ、合格していたんですか」
一瞬の間。
和春は普通に答える。
「23の時」
箸が止まる。
「……23歳」
「だな」
数秒の沈黙。
「では、なぜ今まで弁護士資格を取らなかったんですか」
和春はご飯を一口食べる。
「空が事務所作るまで待ってた」
「如月弁護士を、ですか」
「最短で立ち上げるタイプだろ」
「……ええ」
「事務所があれば、実務修習をこっちの仕事と並行できる」
箸を置く。
「わざわざ他所に拘束されなくて済む」
愛華の目がわずかに開く。
「コンサルを優先できる、ということですか」
「そういうこと」
淡々とした声。
「だから、その間に必要な資格を取ってただけだ」
「……準備期間」
「使う場所がない資格は紙だからな」
静かな食卓。
愛華は味噌汁を一口飲む。
「待っていたんですね」
「合理的だろ」
小さく息を吐く。
「あなたらしいです」
「普通だ」
愛華は視線を落とし、少し笑う。
「その普通の基準が、世間と違います」
和春は何も言わない。
ただ、食事を続ける。
静かな夜だった。
靴を脱ぎ、リビングへ向かう途中――
ポストの郵便物を和春が手に取る。
白い封筒。
差出人を確認し、静かに開封する。
中の紙を一枚取り出す。
「……和春?」
荷物を置いた愛華が近づく。
差し出された紙を受け取る。
目を通す。
数秒、固まる。
「……司法試験、合格通知」
顔を上げる。
「行っていたんですか?」
「7月にな」
「聞いていません」
「必要になるまで言うつもりなかった」
「必要、ですか」
「取れる資格は先に取っとく」
当然のような口調。
愛華はしばらく無言で紙を見る。
「弁護士資格は、実務修習がありますよね」
「一年」
和春はスマホを取り出す。
コール音。
『もしもし、ハルくん?』
「空、少しいいか」
『珍しいわね』
「受かった」
『……何が?』
「司法試験」
沈黙。
『は?』
「実務修習あるだろ」
『あるわよ』
「そっちの案件、形式だけ回してくれ。修習扱いにする」
『普通は逆なのよ!?』
「要件満たせば問題ない」
長い溜め息。
『相変わらずね……分かった、調整するわ』
「助かる」
『ほんと、あんたの頭には呆れるわ』
通話が切れる。
愛華は腕を組んだまま立っている。
「……増えましたね」
「幅は広がる」
「公認会計士、公認心理師、そして弁護士」
少し呆れた視線。
「やりすぎです」
「必要な分だけだ」
小さく息を吐く。
「21歳で海外大学を飛び級卒業したと聞いた時も思いましたが」
視線を向ける。
「どこまで行くつもりなんですか」
和春はソファに腰を下ろす。
「必要なところまで」
愛華は合格通知を丁寧に封筒へ戻す。
「保管しておきます」
「任せる」
歩き出してから、止まる。
「……おめでとうございます」
静かな声。
和春は少しだけ視線を上げる。
「ありがとな」
夕方の光が部屋に落ちていた。
◼️夜 ― 食卓
湯気の立つ味噌汁。
焼き魚の香りが広がる。
向かい合って座り、箸の音だけが続く。
愛華がふと顔を上げる。
「……和春」
「ん」
「司法試験の前に、予備試験がありますよね」
「あるな」
「いつ、合格していたんですか」
一瞬の間。
和春は普通に答える。
「23の時」
箸が止まる。
「……23歳」
「だな」
数秒の沈黙。
「では、なぜ今まで弁護士資格を取らなかったんですか」
和春はご飯を一口食べる。
「空が事務所作るまで待ってた」
「如月弁護士を、ですか」
「最短で立ち上げるタイプだろ」
「……ええ」
「事務所があれば、実務修習をこっちの仕事と並行できる」
箸を置く。
「わざわざ他所に拘束されなくて済む」
愛華の目がわずかに開く。
「コンサルを優先できる、ということですか」
「そういうこと」
淡々とした声。
「だから、その間に必要な資格を取ってただけだ」
「……準備期間」
「使う場所がない資格は紙だからな」
静かな食卓。
愛華は味噌汁を一口飲む。
「待っていたんですね」
「合理的だろ」
小さく息を吐く。
「あなたらしいです」
「普通だ」
愛華は視線を落とし、少し笑う。
「その普通の基準が、世間と違います」
和春は何も言わない。
ただ、食事を続ける。
静かな夜だった。
