相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる



カーテンの隙間から、柔らかい光が差し込んでいた。

静かな寝室。

愛華は和春の腕の中で目を覚ます。

規則的な寝息。
まだ起きていない。

昨夜の熱が残る距離のまま、体が触れている。
逃げる理由も、離れる理由もない距離。

しばらく見つめてから――

そっと、唇を寄せる。

軽く触れるだけのキス。

起こさないように、静かに離れる。

「……」

返事はない。

愛華は静かにベッドを抜け、身支度を整える。
鏡に映る自分の表情が、少しだけ柔らかい。

キッチンへ向かう。

パンを焼く音。
スープの香り。

そして――コーヒー。

和春が自分で淹れると飲めたものではない。
だから、朝は必ず自分が用意する。

湯気が立つカップを見つめながら、小さく息を吐く。

胸が温かい。

幸せだった。

自分の気持ちに気づいてから、不安は消えなかった。
けれど昨夜、和春は拒まなかった。

求められた。
触れられた。
離されなかった。

それだけで、十分だと思える。

――なのに。

カップを持つ手が止まる。

昨日も、言葉はなかった。

好きとも。
付き合おうとも。

何も。

ただ自然に、隣にいた。

この関係は変わったはずなのに、名前は変わらない。

「……」

小さく笑う。

不安ではない。
だけど確信でもない。

それでも――

和春のコーヒーを用意する自分が、ここにいる。

リビングに朝の光が満ちていく。

まだ答えはないまま、
それでも今日が始まる。



◼️リビング

コーヒーの香りが部屋に広がる頃、寝室の扉が開く。

「……早いな」

少し掠れた声。

振り向くと、和春が寝癖のまま立っていた。
まだ覚醒しきっていない顔。

「おはようございます」

「おはよ」

愛華はカップを差し出す。

「どうぞ」

「サンキュ」

指が触れる。
離すのがわずかに遅れる。

和春はそのままソファへ座り、一口飲む。

「……飲める」

「基準が低すぎます」

「自分で淹れると事故になるからな」

「知ってます」

愛華は隣に座る。
距離が近いまま、肩が触れる。

和春は避けない。

「本日は昼から個人相談が一件です。午前は空いています」

「了解」

短いやり取り。

それで終わるはずなのに、愛華は動かない。

そっと、肩にもたれる。

和春の手がわずかに止まるが、離れない。

「……眠いのか」

「少し」

嘘。

だが否定しない。

「なら寝ろ」

「ここで?」

「落ちなければな」

許可のような言い方。

愛華は体重を預ける。

静かな時間。

「和春」

「ん」

「午前、ゆっくりできますね」

「そうだな」

それ以上言わない。

代わりに袖を軽く掴む。

無意識の仕草。

和春はそれを見て、コーヒーをテーブルに置き――背もたれへ深く体を預ける。

離れない体勢。

「……愛華」

「はい」

「コーヒー、うまい」

「知ってます」

小さく笑う。

名前はないまま、
昨日より少し近い朝だった。