◼️リビング ― 深夜
タブレットの光だけが二人を照らしている。
スクロールが止まる。
どちらからともなく、操作をやめた。
静かな時間が落ちる。
外を走る車の音が遠くに聞こえるだけ。
愛華が先に口を開く。
「……今日」
「ん」
「少し、疲れました」
「珍しいな」
「最近、仕事の種類が増えてきましたから」
仕事の話。
のはずなのに、どこか違う。
和春は画面を消さないまま言う。
「無理するな」
短い言葉。
愛華は少しだけ視線を下げる。
「していません」
「してる顔だ」
「そう見えますか」
「ああ」
間が落ちる。
愛華は指先でタブレットの縁をなぞる。
「……和春は」
「ん」
「疲れませんか」
「疲れる」
「そういうふうに見えません」
「見せてないだけだ」
淡々とした声。
愛華は小さく息を吐く。
「安心しました」
「何が」
「私だけじゃないと分かって」
沈黙。
ソファの背に身体を預ける。
その動きで肩が触れる。
今度は離れない。
「愛華」
「はい」
「距離、戻さないのか」
静かな指摘。
愛華は少しだけ笑う。
「戻した方がいいですか」
「……いや」
否定が遅れる。
愛華は視線を画面から外す。
「最近、落ち着くんです」
「何が」
「ここ」
言葉は曖昧。
だが意味は曖昧じゃない。
和春は何も言わない。
空調の音だけが続く。
愛華が少し身体を預ける。
ほんの僅か。
重さと言うほどではない、触れる程度の重み。
拒まれない。
「……愛華」
「はい」
「寝るか」
「そうですね」
けれど、どちらも立ち上がらない。
数秒。
十秒。
「……和春」
「ん」
「もう少しだけ」
それだけ言って、目を閉じる。
答えは返ってこない。
だが――離されない。
夜はそのまま、静かに過ぎていく。
リビング ― 深夜
タブレットの画面は、とっくにスリープに落ちている。
部屋に残っているのは、間接照明の淡い光と、二人の呼吸だけだった。
愛華は目を閉じたまま、和春の肩へ体重を預けている。
眠っているわけではない。
分かる。
分かるから、動けない。
「……愛華」
小さく呼ぶ。
返事はない。
だが、まつ毛がわずかに揺れた。
起きている。
逃げない。
和春は少しだけ姿勢を崩し、距離を縮める。
濡れた髪の香りが近づく。
指先で頬に触れると、ほんのりと熱い‥
和春は愛華に優しくキスをする‥
浅く、確認するように。
愛華の呼吸が止まり、すぐに小さく乱れる。
それでも目は開けない。
「……起きてるな」
かすれた声。
今度は、逃がさないように少しだけ長く口づける。
触れて、離れて、また触れる。
呼吸の間隔が揃っていく。
愛華の頭が和春の胸に寄り、距離が完全に消える。
「立てるか」
「……はい」
立とうとして、ふらつく。
支えた腕に体重が預けられる。
軽い。
だが、力は抜かれていない。
離れない重さ。
そのまま抱き上げる。
「歩けます」
「知ってる」
降ろさない。
廊下を進む間、愛華の指はずっとシャツを握っている。
布越しに伝わる体温が、さっきよりも熱い。
寝室の扉が開く。
灯りはつけない。
ベッドに下ろそうとした瞬間、袖を引かれる。
「……和春」
初めて名前が落ちる。
それだけで動きが止まる。
視線が重なる。
「戻りませんよ」
囁きに近い声。
和春は答えない。
代わりに、深く口づける。
息が混ざる距離。
逃げ場はない。
愛華の手が背に回り、ためらいが消える。
そのまま体が沈み、シーツが小さく音を立てる。
2人の距離が0になる‥
外の音はもう聞こえない。
夜だけが残る。
タブレットの光だけが二人を照らしている。
スクロールが止まる。
どちらからともなく、操作をやめた。
静かな時間が落ちる。
外を走る車の音が遠くに聞こえるだけ。
愛華が先に口を開く。
「……今日」
「ん」
「少し、疲れました」
「珍しいな」
「最近、仕事の種類が増えてきましたから」
仕事の話。
のはずなのに、どこか違う。
和春は画面を消さないまま言う。
「無理するな」
短い言葉。
愛華は少しだけ視線を下げる。
「していません」
「してる顔だ」
「そう見えますか」
「ああ」
間が落ちる。
愛華は指先でタブレットの縁をなぞる。
「……和春は」
「ん」
「疲れませんか」
「疲れる」
「そういうふうに見えません」
「見せてないだけだ」
淡々とした声。
愛華は小さく息を吐く。
「安心しました」
「何が」
「私だけじゃないと分かって」
沈黙。
ソファの背に身体を預ける。
その動きで肩が触れる。
今度は離れない。
「愛華」
「はい」
「距離、戻さないのか」
静かな指摘。
愛華は少しだけ笑う。
「戻した方がいいですか」
「……いや」
否定が遅れる。
愛華は視線を画面から外す。
「最近、落ち着くんです」
「何が」
「ここ」
言葉は曖昧。
だが意味は曖昧じゃない。
和春は何も言わない。
空調の音だけが続く。
愛華が少し身体を預ける。
ほんの僅か。
重さと言うほどではない、触れる程度の重み。
拒まれない。
「……愛華」
「はい」
「寝るか」
「そうですね」
けれど、どちらも立ち上がらない。
数秒。
十秒。
「……和春」
「ん」
「もう少しだけ」
それだけ言って、目を閉じる。
答えは返ってこない。
だが――離されない。
夜はそのまま、静かに過ぎていく。
リビング ― 深夜
タブレットの画面は、とっくにスリープに落ちている。
部屋に残っているのは、間接照明の淡い光と、二人の呼吸だけだった。
愛華は目を閉じたまま、和春の肩へ体重を預けている。
眠っているわけではない。
分かる。
分かるから、動けない。
「……愛華」
小さく呼ぶ。
返事はない。
だが、まつ毛がわずかに揺れた。
起きている。
逃げない。
和春は少しだけ姿勢を崩し、距離を縮める。
濡れた髪の香りが近づく。
指先で頬に触れると、ほんのりと熱い‥
和春は愛華に優しくキスをする‥
浅く、確認するように。
愛華の呼吸が止まり、すぐに小さく乱れる。
それでも目は開けない。
「……起きてるな」
かすれた声。
今度は、逃がさないように少しだけ長く口づける。
触れて、離れて、また触れる。
呼吸の間隔が揃っていく。
愛華の頭が和春の胸に寄り、距離が完全に消える。
「立てるか」
「……はい」
立とうとして、ふらつく。
支えた腕に体重が預けられる。
軽い。
だが、力は抜かれていない。
離れない重さ。
そのまま抱き上げる。
「歩けます」
「知ってる」
降ろさない。
廊下を進む間、愛華の指はずっとシャツを握っている。
布越しに伝わる体温が、さっきよりも熱い。
寝室の扉が開く。
灯りはつけない。
ベッドに下ろそうとした瞬間、袖を引かれる。
「……和春」
初めて名前が落ちる。
それだけで動きが止まる。
視線が重なる。
「戻りませんよ」
囁きに近い声。
和春は答えない。
代わりに、深く口づける。
息が混ざる距離。
逃げ場はない。
愛華の手が背に回り、ためらいが消える。
そのまま体が沈み、シーツが小さく音を立てる。
2人の距離が0になる‥
外の音はもう聞こえない。
夜だけが残る。
