相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

フロアの空気が落ち着き、客が帰ったあと。

オーナーは深く頭を下げた。

「……本当に助かりました」

和春は椅子に腰を下ろす。

「まだ助かってない」

「え?」

「再発する」

一瞬で背筋が伸びる。

愛華がタブレットを開いた。

「今回の問題は“客の暴走”ではありません。
店の設計不備です」

キャスト達が固まる。

「設計…?」

和春が説明を始める。



■問題の本質

「コンカフェは“距離の商売”だ」

「はい…」

「だが今の店は“距離の責任”を決めてない」

オーナーが頷く。

「確かに…」

愛華が補足する。

「恋愛を想起させる演出はしていますが、
恋愛ではないと明文化されていません」

「言葉にしてないから、客が自分の都合で解釈する」

キャストの一人が小さく呟く。

「……確かに、言い方はその場のノリでした」

和春が頷く。



■今後のルール(スタッフ教育)

和春は紙を一枚置く。

「今日から禁止ワードを作れ」

ざわつく。

「禁止ワード…?」

愛華が読み上げる。



使ってはいけない言葉

・「あなただけ」
・「特別」
・「好き(個人宛)」
・「彼氏みたい」
・「今度2人で」



キャストが青ざめる。

「ほぼ言ってます…」

「だから揉める」

和春は続ける。



代替ワード(安全な表現)

・「この時間楽しいですね」
・「今日来てくれて嬉しいです」
・「みんなといるの好きです」
・「またお店で待ってます」



愛華が補足する。

「“個人関係”ではなく“来店体験”へ意味を戻す言葉です」

キャスト達が何度も頷く。



■システム改善

和春
「あとキャストドリンクの説明文を変えろ」

オーナーがメモを取る。

「どう書けば…?」

愛華
「“会話延長サービス”と明記します。
好意の対価ではないと分かるように」

和春
「イベント日は特に入口で説明しろ」

「最初に現実を置くと、客は暴走しない」

オーナーの顔が明るくなる。

「……なるほど」



― 評価爆上がり ―

オーナーが立ち上がる。

「ここまで具体的に教えてもらえるとは思いませんでした…
正直、トラブル処理だけかと」

「処理は対処、設計は予防だ」

キャスト達も頭を下げる。

「ありがとうございました!」

その時――

キャストの一人が愛華を見て目を輝かせる。

「やっぱ本物のメイドさんって違う…」

「ご主人様のサポート完璧すぎる…」

別の子も頷く。

「さっきの補足、全部分かりやすかったです!」

愛華は表情を変えず答える。

「職務ですので」

和春が小さく笑う。

「こいつはメイドというよりブレーキ役だ」

「相方兼メイドです」

即答だった。

キャスト達がさらに感動する。

「かっこいい…」



店を出る頃には、
オーナーの評価は完全に変わっていた。

「またお願いします!」

深々と頭を下げる。