相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

ドアベルが鳴る。

「いらっしゃいませー!」

明るい声と同時に、店内の視線が一斉に向いた。

その理由は一つ。

愛華のメイド服だった。

一瞬の静止。

客A「……新人?」

客B「いや、レベル高くない?」

キャスト「え、今日追加メンバーいましたっけ?」

愛華は一切動じない。
いつもの表情のまま一礼する。

「本日は視察で伺いました」

一拍遅れて奥からオーナーが出てくる。

「えっ」

視線が愛華→和春→愛華へと往復する。

「……あの、キャスト応募ですか?」

「違います」

即答。

「コンサルタントです」

「えっ」

二度目の“えっ”が出る。

店内の空気がざわつく。

「え、コンサル?メイド服で?」

和春が軽く肩をすくめる。

「通常運転だ。気にするな」

「気にしますよ!?」

オーナーのツッコミが一番大きかった。



― フロア観察 ―

今日は“彼シャツイベント”だった。

キャスト達は長めのシャツ姿。
色の濃い布地が、かえって輪郭を想像させる。

見えそうで見えない距離感。

客の滞在時間が明らかに長い。

カウンターではキャストドリンクが頻繁に入る。

「○○ちゃん乾杯しよー」

「ありがとう、ちょっとだけね?」

笑顔で受け取り、数分会話が続く。

別の席では――

「このあとも来るよ」

「ほんと?嬉しい!」

距離が近い。

だが触れてはいない。

和春が小さく呟く。

「疑似接待になりかけてるな」

愛華が頷く。

「“隣に座らないキャバクラ”状態です」

その時、客の一人が愛華に声をかけた。

「お姉さん誰推し?」

「キャストではありません」

「えっ店員じゃないの!?」

「違います」

「え、めちゃくちゃそれっぽいのに!?」

オーナーが頭を抱える。

「すみません紛らわしくて!!」

愛華は淡々と店内を見回す。

「衣装によって心理的距離が縮まっています」

「はい?」

「“恋人距離”の錯覚を意図的に作るイベントです。
ただしルール設計が追いついていません」

和春が補足する。

「客は“関係が進んだ”と錯覚する。
店は“接触していないからセーフ”と思う。
そのズレがトラブルになる」

オーナーの顔が引き締まる。

店内では――

「今日だけ特別ね?」

「マジ?俺だけ?」

既に危険な会話が始まっていた。

愛華が静かに言う。

「このままだと常連が恋愛関係を誤認します」

和春が頷く。

「そして拒絶された瞬間、店が悪者になる」

オーナーの顔色が変わった。