相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

― 深夜の余韻 ―

カーテンの隙間から、淡い光が揺れていた。

言葉は途中で途切れたまま、
二人の距離だけが残る。

触れた温度が消えないまま、
呼吸の間隔がゆっくり重なっていく。

愛華の指が、和春の服を掴む。

離れないようにではなく、
確かめるように。

小さな吐息。

「……今日だけです」

自分に言い聞かせる声。

和春は答えない。
ただ、背に回した腕をほどかなかった。

やがて、会話は消え、
夜だけが静かに過ぎていく。



― 翌朝 ―

柔らかい光で目が覚めた。

温かい。

一瞬、どこにいるのか分からない。

……違う。

すぐに理解する。

腕の中だった。

背中に回されたままの腕。
規則正しい呼吸が近い。

愛華の思考が止まる。

視線を下げる。

シーツを引き寄せた瞬間、
昨夜の断片が一気に戻る。

触れた距離。
止めなかった理由。
止めなかった自分。

「……っ」

顔が熱くなる。

そっと隣を見る。

和春はまだ眠っている。
無防備な寝顔。

そして――

何も身につけていないことに気づき、
愛華の思考が完全に固まる。

音を立てないように息を止める。

腕の中から抜け出そうとして、
しかし動けない。

掴まれてはいない。
けれど離れ難い距離。

胸の奥がうるさい。

「……」

視線を逸らし、シーツをさらに引き寄せる。

理解する。

逃げ道にした“お酒のせい”が、
もう通用しないことを。

それでも――

起こさないよう、
ほんの少しだけ距離を詰め直した。



◼️寝たふり

カーテンの隙間から、淡い朝の光が差し込んでいる。
静かな部屋。
腕にかかる重みで、昨夜を思い出すのに時間はかからなかった。

視線を落とす。

愛華が眠っている。

規則正しい呼吸。
無防備な表情。
普段の張り詰めた空気はどこにもない、柔らかな寝顔だった。

しばらく動かずに見つめる。

昨夜の断片が静かに蘇る。
触れた体温。
掴んだ指。
柔らかな唇。
離れなかった距離。


――愛華は初めてだった。

それを理解して、和春は小さく息を吐く。

そっと髪に触れる。
指で梳くように撫でる。

愛華の呼吸がわずかに揺れたが、起きない。

逃がさないためじゃない。
離れないために、腕を少しだけ引き寄せる。

額にかかる前髪を避け、
静かに――触れる。

軽いキス。

その瞬間、

「……ごめんなさい」

小さな声。

和春の動きが止まる。

「起きてます」

目は閉じたまま。

「離れるの、嫌で……寝たふりしてました」

沈黙。

和春は腕をほどかない。

「そうか」

それだけ答える。

愛華がゆっくり目を開ける。
視線が合うと、すぐに逸らす。

頬が赤い。

「……怒ってますか」

「怒らねぇよ」

短い返事。

愛華はシーツを胸元まで引き寄せる。
けれど離れない。

少しだけ迷ってから、静かに言う。

「……嬉しかったです」

一拍。

「初めてが、和春で」

言ったあと、自分で驚いたように視線を伏せる。

「今のは、その……お酒のせいじゃなくて」

言葉が途切れる。

和春は何も返さない。
ただ、髪に触れる手を止めない。

愛華が小さく息を吐く。

「忘れてもいいです」

「忘れねぇよ」

間を置かず返る。

愛華がまた黙る。
そのまま少しだけ近づく。

距離が戻る。

言葉は続かない。

朝の光の中、
互いの体温だけが残っていた。