相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

氷がグラスの中で静かに鳴る。

カウンターの端、
和春の腕の中に収まるように愛華が寄り添っている。

離れる理由がないまま、
時間だけが過ぎていた。

愛華の呼吸が首元に触れるたび、
わずかに空気が揺れる。

「……和春」

「ん」

「眠くなります」

「寝るな」

「ここで寝たら運んでくれますか」

「運ばん」

「嘘ですね」

小さく笑う。
その振動が胸に伝わる。

背に回した手が、少しだけ位置を直す。
落ちないように支える角度。

それだけなのに、抱き寄せている形になる。

――隣の客が視線を向けた。

ひそひそ声。

「なぁ、あの二人……」

「付き合ってるだろ、完全に」

「いや距離バグってね?」

和春は聞こえているが反応しない。
愛華も動かない。

むしろ、少しだけ近づく。

「見られてますね」

「放っとけ」

「恥ずかしくないですか」

「別に」

「私は少しだけ」

そう言いながら離れない。

指先が袖を軽くつまむ。
逃げ場をなくす程度の力。

店主が苦笑しながらグラスを拭く。

「お客さん、ラブラブですね」

「違う」

即答。

だが腕はそのまま。

愛華が小さく顔を上げる。

「違うそうです」

「お前も否定しろ」

「しませんよ」

一拍。

「今はこのままでいいです」

視線が合う。
距離が近い。

呼吸がかかる。

「……和春、温かいです」

「酒のせいだ」

「違います」

額を軽く預け直す。

「落ち着きます」

また静かになる。

隣の席から小声。

「見てるこっちが恥ずい……」

「青春かよ……」

愛華が少しだけ笑う。

「言われてますよ」

「聞くな」

「聞こえます」

和春は小さく息を吐き、
愛華の頭に手を乗せる。

軽く撫でる。

「これで満足か」

「はい」

間を置いて、

「もう少し」

腕の中に収まるように寄る。

離れない。

誰も動かない。

BARの時間だけがゆっくり流れていった。