翌日の昼。
駅前のロータリーは休日らしく少し混んでいた。
「ほんと送ってくれてありがとね!」
結衣が車のドアを開けながら笑う。
今日はラフな格好だった。
そして、助手席に座る愛華も――
メイド服ではない。
淡い色のブラウスに、落ち着いたロングスカート。
和春がちらりと視線を向ける。
「気をつけて帰れ」
「うん!」
結衣は顔を出して、二人を交互に見る。
「……二人とも」
少しだけ意味ありげに笑う。
「進展あったら報告してね?」
「ありません」
愛華が即答した。
和春は小さくため息をつく。
「行け」
結衣は笑いながら改札へ向かっていった。
その背中が人混みに消える。
車内に、静かな空気が戻る。
⸻
■ ふたり
エンジンはまだかけていない。
助手席で愛華がシートベルトを整えながら言った。
「……帰りますか?」
いつもの確認。
休日でも、基本は仕事中心。
そのつもりだった。
だが。
ハンドルを握ったまま、和春が言う。
「いや」
短い声。
「出かけないか」
一瞬、愛華の動きが止まった。
「……出かける?」
「休日だろ」
ポーカーフェイス。
何も変わらない顔。
でも、誘ったのは和春だ。
その事実だけで、胸が一瞬強く鳴る。
言葉が、少しだけ軽くなる。
――自分でも気づかないまま。
「……なんですか?」
ほんのわずかに口角が上がる。
「デートのお誘いですか?」
言った瞬間、自分で一瞬驚いた。
(……私、今)
普段なら言わない。
茶化しも、牽制も、こんな言い方はしない。
でも。
ブレーキが、少しだけ緩んでいた。
和春は一拍だけ沈黙した。
視線は前。
表情も変わらない。
「そうだな」
あまりにも自然な声。
「デートでいいんじゃないか?」
愛華の心臓が、ほんの一瞬止まりかける。
和春は続ける。
「休日に男女で出かけたら、デートみたいなもんだろ」
さらりと言う。
何も特別なことではない、という口調。
その平静さが、逆にずるい。
(……この人)
本当にずるい。
否定しない。
冗談にも逃げない。
真顔で受け止める。
そのくせ、温度は一定。
愛華は視線を窓の外へ逃がした。
「……では、どちらへ?」
声が少しだけ柔らかい。
「適当でいい」
エンジンがかかる。
「行きたいとこあるか?」
問いかけ。
選ばせる。
和春らしい。
愛華は少し考える。
仕事ではない時間。
休日。
デート“みたいなもの”。
「……海は、遠いですね」
ぽつりと呟く。
和春が小さく笑った。
「今日は無理だな」
「では」
ほんの少しだけ間。
「カフェで構いません」
「構わない、じゃないだろ」
「……では、カフェがいいです」
言い直す。
和春はハンドルを切った。
車がゆっくり動き出す。
⸻
■ 名前をつけないまま
信号待ち。
赤いランプがフロントガラスに映る。
和春が横目で一瞬だけ見る。
「私服、珍しいな」
愛華の呼吸が一瞬止まる。
「……休日ですので」
「似合ってる」
さらり。
それだけ。
視線は戻る。
愛華の指先が、膝の上でわずかに動く。
言葉にしない。
しない方がいい。
でも。
今日は少しだけ、ブレーキが緩んでいる。
車は街中へ向かって走り出した。
名前のない関係。
でも。
休日という言い訳のもと、
二人は同じ方向へ進んでいた。
駅前のロータリーは休日らしく少し混んでいた。
「ほんと送ってくれてありがとね!」
結衣が車のドアを開けながら笑う。
今日はラフな格好だった。
そして、助手席に座る愛華も――
メイド服ではない。
淡い色のブラウスに、落ち着いたロングスカート。
和春がちらりと視線を向ける。
「気をつけて帰れ」
「うん!」
結衣は顔を出して、二人を交互に見る。
「……二人とも」
少しだけ意味ありげに笑う。
「進展あったら報告してね?」
「ありません」
愛華が即答した。
和春は小さくため息をつく。
「行け」
結衣は笑いながら改札へ向かっていった。
その背中が人混みに消える。
車内に、静かな空気が戻る。
⸻
■ ふたり
エンジンはまだかけていない。
助手席で愛華がシートベルトを整えながら言った。
「……帰りますか?」
いつもの確認。
休日でも、基本は仕事中心。
そのつもりだった。
だが。
ハンドルを握ったまま、和春が言う。
「いや」
短い声。
「出かけないか」
一瞬、愛華の動きが止まった。
「……出かける?」
「休日だろ」
ポーカーフェイス。
何も変わらない顔。
でも、誘ったのは和春だ。
その事実だけで、胸が一瞬強く鳴る。
言葉が、少しだけ軽くなる。
――自分でも気づかないまま。
「……なんですか?」
ほんのわずかに口角が上がる。
「デートのお誘いですか?」
言った瞬間、自分で一瞬驚いた。
(……私、今)
普段なら言わない。
茶化しも、牽制も、こんな言い方はしない。
でも。
ブレーキが、少しだけ緩んでいた。
和春は一拍だけ沈黙した。
視線は前。
表情も変わらない。
「そうだな」
あまりにも自然な声。
「デートでいいんじゃないか?」
愛華の心臓が、ほんの一瞬止まりかける。
和春は続ける。
「休日に男女で出かけたら、デートみたいなもんだろ」
さらりと言う。
何も特別なことではない、という口調。
その平静さが、逆にずるい。
(……この人)
本当にずるい。
否定しない。
冗談にも逃げない。
真顔で受け止める。
そのくせ、温度は一定。
愛華は視線を窓の外へ逃がした。
「……では、どちらへ?」
声が少しだけ柔らかい。
「適当でいい」
エンジンがかかる。
「行きたいとこあるか?」
問いかけ。
選ばせる。
和春らしい。
愛華は少し考える。
仕事ではない時間。
休日。
デート“みたいなもの”。
「……海は、遠いですね」
ぽつりと呟く。
和春が小さく笑った。
「今日は無理だな」
「では」
ほんの少しだけ間。
「カフェで構いません」
「構わない、じゃないだろ」
「……では、カフェがいいです」
言い直す。
和春はハンドルを切った。
車がゆっくり動き出す。
⸻
■ 名前をつけないまま
信号待ち。
赤いランプがフロントガラスに映る。
和春が横目で一瞬だけ見る。
「私服、珍しいな」
愛華の呼吸が一瞬止まる。
「……休日ですので」
「似合ってる」
さらり。
それだけ。
視線は戻る。
愛華の指先が、膝の上でわずかに動く。
言葉にしない。
しない方がいい。
でも。
今日は少しだけ、ブレーキが緩んでいる。
車は街中へ向かって走り出した。
名前のない関係。
でも。
休日という言い訳のもと、
二人は同じ方向へ進んでいた。
