相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

オンライン通話が終わり、書斎に静けさが戻る。

 和春が椅子にもたれ、軽く首を回した。

「……雑談だったな」

「市場の動向確認としては有意義でした」

 愛華がタブレットを閉じる。

 その様子を、結衣は真正面から見ていた。

 腕を組み、じっと二人を観察している。

「……なんだよ」

 和春が気づく。

「いや」

 結衣は目を細める。

「なんかさ」

 間。

「距離、近くない?」

 空気が、ほんの少しだけ止まる。



■ 気づき始める妹

 和春と愛華は、自然な距離で並んでいた。

 肩が触れない程度。

 でも、視線の動きが揃っている。

 会話のテンポも揃っている。

 呼吸の間も、似ている。

 結衣はそれを見逃さなかった。

「さっきからさ」

 指を二人に向ける。

「目線合うタイミング一緒だし」

 愛華の指先が、わずかに止まる。

「なんか空気同じだし」

 和春が小さくため息をつく。

「……気のせいだ」

「気のせいじゃない!」

 結衣は即座に否定する。

「ねぇ」

 そして、核心を突いた。

「二人って、付き合ってないの?」

 静寂。



■ 意識

 愛華の胸が、ひとつ強く跳ねる。

 付き合ってない。

 当然だ。

 そう言えばいい。

 だが言葉が出ない。

 和春が先に口を開く。

「結衣、適当なこと言うな」

「適当じゃないって」

 結衣は本気だった。

「だってさ」

 一歩近づく。

「おにぃと愛華さん、絶対お似合いだよ?」

 その一言が、はっきりと落ちた。



■ “お似合い”という爆弾

 お似合い。

 その言葉が、妙に鮮明に響く。

 愛華は視線を落とした。

(……お似合い)

 否定すればいい。

 でも。

 心のどこかで、拒否できない自分がいる。

 和春は数秒沈黙した。

 そして言う。

「……外から決めるもんじゃない」

 完全否定ではない。

 線を引くようでいて、引き切っていない。

 それが余計に空気を揺らす。



■ 結衣の本音

「私さ」

 結衣は真剣だった。

「愛華さん、めっちゃ好きなんだけど」

 愛華が顔を上げる。

「頭いいし、強いし、優しいし」

 そして、笑う。

「お姉ちゃんになってほしいレベルなんだけど」

 一瞬、空気が凍る。

 和春が咳払いをする。

「……何言ってる」

「本気だよ?」

 結衣は和春を見る。

「おにぃ、愛華さんといるときだけ、ちょっと柔らかい」

 その言葉に、和春の動きが止まる。

 愛華の胸が、また強く跳ねた。

(……柔らかい?)

 自分では気づかなかった。

 でも。

 そう言われると、否定できない何かがある。



■ 初めての自覚

 結衣は続ける。

「ほら今も」

 和春と愛華を見る。

「さっきから視線合いすぎ」

 愛華が思わず視線を逸らす。

 和春もわずかに顔を背けた。

 その仕草が、余計に答えのようだった。

「ほら!」

 結衣が勝ち誇ったように言う。

「絶対お似合いだって!」

 書斎の空気が変わる。

 さっきまで仕事の空気だったのに。

 今は、違う。

 意識が、形になり始めている。



■ 和春の返答

 和春はゆっくり息を吐いた。

「……結衣」

「なに」

「人の関係は、急がせるもんじゃない」

 落ち着いた声。

 だが、拒絶ではない。

 愛華はその言葉を聞いて、わずかに視線を上げた。

 急がせるもんじゃない。

 つまり――

 可能性は、否定していない。



■ 余韻

 結衣は満足そうに頷く。

「ま、私は応援するからね」

 そう言って椅子に座り直す。

 書斎には三人。

 だが。

 和春と愛華の間だけ、空気が違った。

 距離は変わらない。

 でも。

 “お似合い”という言葉が、静かに残っている。

 愛華は、自分の鼓動を意識していた。

(……意識してほしい、って)

 昨日、浮かんだ言葉。

 今はもう、否定できない。

 和春もまた、画面を見つめながら思考が止まっている。

 結衣の言葉は、思ったより深く刺さっていた。