ザァ――。
ザァ――。
波の音が響く。
長い間名前のなかった関係に。
ようやく名前がついた。
相方でもある。
メイドでもある。
同居人でもある。
そして今日から恋人お互いの気持ちはもう隠す必要がない。
愛華はまだ少し目元が赤かった。
泣きすぎた。
まさか和春から告白されて、しかも結婚を前提にこの先も一緒にいてほしい。
そんな言葉を聞けるとは思っていなかった。
嬉しかった。
本当に嬉しかった。
「……」
愛華は和春の隣で小さく笑う。
これから少しずつ変わっていくのだろう。
恋人として今までとは違う関係を――
「……あ」
和春が突然声を出した。
「?」
愛華が見る。
「どうしました?」
「親父さんに挨拶行かねぇとな」
「…………」
愛華の思考が止まった。
「はい?」
「お前の親父さん」
和春は普通の顔をしている。
「一回ちゃんと時間作ってもらわねぇと」
「……」
愛華は数秒。和春を見つめた。
「和春」
「なんだ?」
「今ですか?」
「今?」
「その話です」
「ああ」
「……」
愛華は額に手を当てる。
「早くありません?」
「何が?」
「何が、ではありません」
愛華は和春を見る。
「私たち」
自分で言って。
少しだけ照れる。
「……いま恋人になったばかりですよね?」
「ああ」
「数分ですよ?」
「そうだな」
「まだ5分すら経っていません」
「だから?」
「だから!?」
愛華が珍しく声を上げた。
和春は。
本気で意味が分からない顔をしている。
「結婚前提だろ?」
「……」
「だったらちゃんと親父さんに挨拶して、許可もらわねぇとダメだろ」
「…………」
正論。
確かに和春は最初から言った。
ただ付き合うのではない。
結婚を前提としてこの先も一緒にいてほしい。
愛華もそれを了承した。
だから筋としては何も間違っていない。
間違っていないのだが。
「……早いんですよ」
「そう?」
「早いです」
「そのうち行くなら同じだろ」
「違います」
「何が?」
「心の準備というものがあります」
「俺が挨拶するのに?」
「私にもあります!」
和春は少し考える。
「じゃあ来週くらい?」
「具体的な日程を決め始めないでください!」
愛華は頭を抱えた。
行動が早い。あまりにも早い。
この男。動かない時は本当に動かなかった。
麗華に二人の関係を聞かれた時あれほど見事に話を逸らした。
政治家でももう少し答えるのではないかと思うほど愛華との関係について明確な言葉を避け続けた。
散々。
散々。
散々。
告白を誤魔化してきた男が一度自分で答えを出した瞬間これである。
告白。
交際開始。
その数分後。
――親への結婚挨拶を検討。
「……」
愛華はじっと和春を見る。
「何だよ」
「いえ、散々、私との関係を誤魔化してきた男が‥‥よくもまあ」
愛華の紅い瞳が細くなる。
「付き合った瞬間から結婚まで一直線に走れますね」
「決めたからな」
あっさり和春は言った。
愛華が止まる。
「……」
「決めるまでは色々考えるけど」
和春は海を見る。
「決めたあとに迷う意味ないだろ」
「……」
愛華は何も言えなくなった。
こういう男なのだ。
自分の人生だけなら。
即断即決。
だが愛華の人生まで関わる選択だったから。
ずっと踏み出せなかった。
愛華自身の意思が分からないまま。
勝手に未来を決めることができなかった。
だが今日お互いに自分の意思で選んだ。
ならもう和春に迷う理由はない。
「それに」
「はい?」
和春が愛華を見る。
「結婚前提って言っといて。親に挨拶すら行かねぇなら口だけじゃん」
「……」
「俺、それ嫌いなんだよ」
愛華は目を伏せる。
少しだけ頬が赤くなった。
本当にこの男は
「……分かりました」
「じゃあ行く?」
「行きます」
愛華は答えた。
そしてすぐに付け加える。
「ただし今日連絡するのは禁止です」
「なんで?」
「禁止です」
「予定だけ聞いといた方が――」
「禁止」
「……はい」
愛華は深く息を吐く。
そして少しだけ笑った。
「まったく……」
「なんだよ」
「散々待たせておいて」
「……」
「動き始めたら、今度は私が追いつけません」
和春が笑う。
「じゃあ頑張れ」
「誰のせいですか」
「俺」
「分かっているなら少し速度を落としてください」
「善処する」
「絶対しない人の言い方ですね」
二人は笑った。
ただ愛華はまだ知らない。
神代和春という男は迷っている時こそ驚くほど慎重だが一度進む未来を決めた時恐ろしいほど行動が早い。
そして天城家へ挨拶に行く。
その言葉が意味するものを考え愛華はふと、父。
天城剛玄の顔を思い浮かべた。
「……」
嫌な予感がした。
「和春」
「ん?」
「一応言っておきます父は‥‥」
少し間を置く。
「間違いなく、あなたを試しますよ」
和春は一瞬だけ黙った。
そしていつもの強気な笑みを浮かべる。
「面白そうじゃん」
「……」
愛華は心の底から思った。
(やっぱり言わなければよかったですね)
ザァ――。
波の音が響く。
長い間名前のなかった関係に。
ようやく名前がついた。
相方でもある。
メイドでもある。
同居人でもある。
そして今日から恋人お互いの気持ちはもう隠す必要がない。
愛華はまだ少し目元が赤かった。
泣きすぎた。
まさか和春から告白されて、しかも結婚を前提にこの先も一緒にいてほしい。
そんな言葉を聞けるとは思っていなかった。
嬉しかった。
本当に嬉しかった。
「……」
愛華は和春の隣で小さく笑う。
これから少しずつ変わっていくのだろう。
恋人として今までとは違う関係を――
「……あ」
和春が突然声を出した。
「?」
愛華が見る。
「どうしました?」
「親父さんに挨拶行かねぇとな」
「…………」
愛華の思考が止まった。
「はい?」
「お前の親父さん」
和春は普通の顔をしている。
「一回ちゃんと時間作ってもらわねぇと」
「……」
愛華は数秒。和春を見つめた。
「和春」
「なんだ?」
「今ですか?」
「今?」
「その話です」
「ああ」
「……」
愛華は額に手を当てる。
「早くありません?」
「何が?」
「何が、ではありません」
愛華は和春を見る。
「私たち」
自分で言って。
少しだけ照れる。
「……いま恋人になったばかりですよね?」
「ああ」
「数分ですよ?」
「そうだな」
「まだ5分すら経っていません」
「だから?」
「だから!?」
愛華が珍しく声を上げた。
和春は。
本気で意味が分からない顔をしている。
「結婚前提だろ?」
「……」
「だったらちゃんと親父さんに挨拶して、許可もらわねぇとダメだろ」
「…………」
正論。
確かに和春は最初から言った。
ただ付き合うのではない。
結婚を前提としてこの先も一緒にいてほしい。
愛華もそれを了承した。
だから筋としては何も間違っていない。
間違っていないのだが。
「……早いんですよ」
「そう?」
「早いです」
「そのうち行くなら同じだろ」
「違います」
「何が?」
「心の準備というものがあります」
「俺が挨拶するのに?」
「私にもあります!」
和春は少し考える。
「じゃあ来週くらい?」
「具体的な日程を決め始めないでください!」
愛華は頭を抱えた。
行動が早い。あまりにも早い。
この男。動かない時は本当に動かなかった。
麗華に二人の関係を聞かれた時あれほど見事に話を逸らした。
政治家でももう少し答えるのではないかと思うほど愛華との関係について明確な言葉を避け続けた。
散々。
散々。
散々。
告白を誤魔化してきた男が一度自分で答えを出した瞬間これである。
告白。
交際開始。
その数分後。
――親への結婚挨拶を検討。
「……」
愛華はじっと和春を見る。
「何だよ」
「いえ、散々、私との関係を誤魔化してきた男が‥‥よくもまあ」
愛華の紅い瞳が細くなる。
「付き合った瞬間から結婚まで一直線に走れますね」
「決めたからな」
あっさり和春は言った。
愛華が止まる。
「……」
「決めるまでは色々考えるけど」
和春は海を見る。
「決めたあとに迷う意味ないだろ」
「……」
愛華は何も言えなくなった。
こういう男なのだ。
自分の人生だけなら。
即断即決。
だが愛華の人生まで関わる選択だったから。
ずっと踏み出せなかった。
愛華自身の意思が分からないまま。
勝手に未来を決めることができなかった。
だが今日お互いに自分の意思で選んだ。
ならもう和春に迷う理由はない。
「それに」
「はい?」
和春が愛華を見る。
「結婚前提って言っといて。親に挨拶すら行かねぇなら口だけじゃん」
「……」
「俺、それ嫌いなんだよ」
愛華は目を伏せる。
少しだけ頬が赤くなった。
本当にこの男は
「……分かりました」
「じゃあ行く?」
「行きます」
愛華は答えた。
そしてすぐに付け加える。
「ただし今日連絡するのは禁止です」
「なんで?」
「禁止です」
「予定だけ聞いといた方が――」
「禁止」
「……はい」
愛華は深く息を吐く。
そして少しだけ笑った。
「まったく……」
「なんだよ」
「散々待たせておいて」
「……」
「動き始めたら、今度は私が追いつけません」
和春が笑う。
「じゃあ頑張れ」
「誰のせいですか」
「俺」
「分かっているなら少し速度を落としてください」
「善処する」
「絶対しない人の言い方ですね」
二人は笑った。
ただ愛華はまだ知らない。
神代和春という男は迷っている時こそ驚くほど慎重だが一度進む未来を決めた時恐ろしいほど行動が早い。
そして天城家へ挨拶に行く。
その言葉が意味するものを考え愛華はふと、父。
天城剛玄の顔を思い浮かべた。
「……」
嫌な予感がした。
「和春」
「ん?」
「一応言っておきます父は‥‥」
少し間を置く。
「間違いなく、あなたを試しますよ」
和春は一瞬だけ黙った。
そしていつもの強気な笑みを浮かべる。
「面白そうじゃん」
「……」
愛華は心の底から思った。
(やっぱり言わなければよかったですね)

