ザァ――。
ザァ――。
波の音が続いている。
二人は並んで海を眺めていた。
愛華は先ほどの和歌をまだ頭の中で反芻していた。
過去があるから。
今がある。
今を尊び。
その経験から。
より良い未来を作る。
本当に和春らしい。
「……」
その時だった。
和春が突然立ち上がった。
愛華が顔を上げる。
「?」
何も言わず。
服についた砂を軽く払う。
そして愛華の前へ向き直った。
「……和春?」
愛華は不思議そうに見上げる。
「どうしました?」
和春は何も答えない。
ただ愛華を見る。
「……?」
数秒。
妙な沈黙。
愛華が首を傾げる。
「何ですか?」
和春は。
少しだけ息を吐いた。
ここまで散々考えた。
どう言う?いつ言う?どこで言う?
自然な流れで変に気張らず。
自分らしく。
だが、結局、そんなことを考えても。
意味がなかった。
仕事なら言葉はいくらでも出る。
交渉なら相手の反応を読める。
相談ならいくつもの選択肢を瞬時に作れる。
だがこれは違う。
選択肢を並べる必要なんてない。
ただ自分の気持ちを言えばいい。
「愛華」
「はい」
和春は真っ直ぐ愛華を見る。
「俺、愛華が好きだ」
「…………」
時間が止まった。
愛華の紅い瞳が。
僅かに大きくなる。
「……え?」
和春は続ける。
「付き合ってほしい」
「…………」
「恋人になってほしい」
愛華は動けない。
何を言われているのか理解はしている。
なのに頭が追いつかない。
そして和春はそこで終わらなかった。
「でも、ただ付き合ってくれって、そんな簡単な意味で言ってるんじゃない」
愛華の表情が変わる。
和春は一度も目を逸らさない。
「結婚を前提として俺と‥」
少し間。
「この先も一緒にいてくれないか?」
「…………」
完全な不意打ちだった。
愛華は何も言えなかった。
今日和春が突然休みを作った。
昔出会ったカフェへ行った。
海を見たし過去の話をした。
和歌まで詠んだ。
それでも一度も考えなかった。
まさか今日告白されるなんて‥
まして和春からこんな真っ直ぐな言葉が出るなんて‥
いつもの和春ならもっと回りくどい。
定義だの、選択肢だの、未来だの‥
何かしら理屈を挟む。
麗華に聞かれた時だって政治家の討論のように見事に話を逸らした男だ。
なのに今は何もない。
ただ好きだ。
付き合ってほしい。
恋人になってほしい。
そして結婚を前提にこの先も一緒にいてほしい。
それだけ。
「……」
愛華の視界が。
突然。
ぼやけた。
「……え」
自分でも気付くのが遅れた。
一筋の涙が頬を伝った。
「……」
もう一つ。
そして止まらなくなった。
「……っ!?」
和春が明らかに慌てる。
「おい」
愛華は俯いた。
「……」
「愛華?」
返事がない。
ただ。肩が僅かに震えている。
「……」
和春は仕事では見せないほど困った顔をした。
「いや、泣くと思ってなかったんだけど‥‥」
その言葉で愛華が泣きながら睨んだ。
「……誰のせいだと思っているんですか」
「俺?」
「あなた以外に誰がいるんです!」
「いや、そうだけど」
「本当に……」
愛華は涙を拭う。
だが次から次へと溢れてくる。
「……卑怯ですよ」
「何が?」
「突然すぎます」
「告白って予告するもんなの?」
「そういう意味ではありません!」
いつもの毒。
いつもの返し。
なのに声は震えている。
涙も止まらない。
和春はそんな愛華を見てようやく少しだけ笑った。
「で?」
「……」
「返事」
愛華がまた睨む。
「この状況で聞きます?」
「聞くだろ」
「少しくらい待てないんですか?」
「待てるけど」
和春は少しだけ意地悪く笑う。
「俺、結構緊張してんだぞ」
愛華の目が少し大きくなる。
「……あなたが?」
「ああ」
「……緊張?」
「悪いか」
「いえ」
愛華は涙を拭いながら少しだけ笑った。
「珍しいものを見ました」
「うるせぇ」
それで少しいつもの二人に戻った。
愛華はゆっくり立ち上がる。
目元は赤い。頬にはまだ涙の跡が残っている。
だが笑っていた。
「……和春」
一度息を整える。
今度は愛華も逃げなかった。
「私、ずっとあなたのことが好きでした」
和春の表情が僅かに変わる。
「いつからかは……もう分かりません」
「仕事をして、一緒に暮らして、喧嘩して、呆れて。
、振り回されて‥あなたの思考についていくために必死になって」
涙がまた一つ落ちる。
「気付いたらあなたの隣が私の居場所になっていました」
「……」
愛華は真っ直ぐ和春を見る。
「ですから」
小さく笑う。
「結婚を前提に、神代和春さん」
愛華の声がまた少し震える。
「あなたと、お付き合いします」
和春は数秒何も言わなかった。
そして
「そっか」
それだけ。
だが表情が今まで愛華が見た中でも驚くほど柔らかかった。
愛華はその顔を見てまた涙が出た。
「……」
「また泣くの?」
「うるさいです」
「今日泣きすぎだろ」
「誰のせいですか」
「俺だな」
「そうですよ」
そして和春は自然に腕を伸ばした。
愛華の身体を抱き寄せる。
愛華も抵抗しない。
むしろ和春の胸へ顔を埋めた。
ザァ――。
ザァ――。
波の音。
和春が事故のあとからなぜか好きになった音。
その音の中で長い間名前のなかった二人の関係に。
ようやく名前がついた。
相方兼メイド。
そして恋人。
ただし最初からその先を見据えた恋人。
過去の選択が今を作った。
そして今二人はこれから先の未来へ続く選択を。
初めて一緒に選んだ。
ザァ――。
波の音が続いている。
二人は並んで海を眺めていた。
愛華は先ほどの和歌をまだ頭の中で反芻していた。
過去があるから。
今がある。
今を尊び。
その経験から。
より良い未来を作る。
本当に和春らしい。
「……」
その時だった。
和春が突然立ち上がった。
愛華が顔を上げる。
「?」
何も言わず。
服についた砂を軽く払う。
そして愛華の前へ向き直った。
「……和春?」
愛華は不思議そうに見上げる。
「どうしました?」
和春は何も答えない。
ただ愛華を見る。
「……?」
数秒。
妙な沈黙。
愛華が首を傾げる。
「何ですか?」
和春は。
少しだけ息を吐いた。
ここまで散々考えた。
どう言う?いつ言う?どこで言う?
自然な流れで変に気張らず。
自分らしく。
だが、結局、そんなことを考えても。
意味がなかった。
仕事なら言葉はいくらでも出る。
交渉なら相手の反応を読める。
相談ならいくつもの選択肢を瞬時に作れる。
だがこれは違う。
選択肢を並べる必要なんてない。
ただ自分の気持ちを言えばいい。
「愛華」
「はい」
和春は真っ直ぐ愛華を見る。
「俺、愛華が好きだ」
「…………」
時間が止まった。
愛華の紅い瞳が。
僅かに大きくなる。
「……え?」
和春は続ける。
「付き合ってほしい」
「…………」
「恋人になってほしい」
愛華は動けない。
何を言われているのか理解はしている。
なのに頭が追いつかない。
そして和春はそこで終わらなかった。
「でも、ただ付き合ってくれって、そんな簡単な意味で言ってるんじゃない」
愛華の表情が変わる。
和春は一度も目を逸らさない。
「結婚を前提として俺と‥」
少し間。
「この先も一緒にいてくれないか?」
「…………」
完全な不意打ちだった。
愛華は何も言えなかった。
今日和春が突然休みを作った。
昔出会ったカフェへ行った。
海を見たし過去の話をした。
和歌まで詠んだ。
それでも一度も考えなかった。
まさか今日告白されるなんて‥
まして和春からこんな真っ直ぐな言葉が出るなんて‥
いつもの和春ならもっと回りくどい。
定義だの、選択肢だの、未来だの‥
何かしら理屈を挟む。
麗華に聞かれた時だって政治家の討論のように見事に話を逸らした男だ。
なのに今は何もない。
ただ好きだ。
付き合ってほしい。
恋人になってほしい。
そして結婚を前提にこの先も一緒にいてほしい。
それだけ。
「……」
愛華の視界が。
突然。
ぼやけた。
「……え」
自分でも気付くのが遅れた。
一筋の涙が頬を伝った。
「……」
もう一つ。
そして止まらなくなった。
「……っ!?」
和春が明らかに慌てる。
「おい」
愛華は俯いた。
「……」
「愛華?」
返事がない。
ただ。肩が僅かに震えている。
「……」
和春は仕事では見せないほど困った顔をした。
「いや、泣くと思ってなかったんだけど‥‥」
その言葉で愛華が泣きながら睨んだ。
「……誰のせいだと思っているんですか」
「俺?」
「あなた以外に誰がいるんです!」
「いや、そうだけど」
「本当に……」
愛華は涙を拭う。
だが次から次へと溢れてくる。
「……卑怯ですよ」
「何が?」
「突然すぎます」
「告白って予告するもんなの?」
「そういう意味ではありません!」
いつもの毒。
いつもの返し。
なのに声は震えている。
涙も止まらない。
和春はそんな愛華を見てようやく少しだけ笑った。
「で?」
「……」
「返事」
愛華がまた睨む。
「この状況で聞きます?」
「聞くだろ」
「少しくらい待てないんですか?」
「待てるけど」
和春は少しだけ意地悪く笑う。
「俺、結構緊張してんだぞ」
愛華の目が少し大きくなる。
「……あなたが?」
「ああ」
「……緊張?」
「悪いか」
「いえ」
愛華は涙を拭いながら少しだけ笑った。
「珍しいものを見ました」
「うるせぇ」
それで少しいつもの二人に戻った。
愛華はゆっくり立ち上がる。
目元は赤い。頬にはまだ涙の跡が残っている。
だが笑っていた。
「……和春」
一度息を整える。
今度は愛華も逃げなかった。
「私、ずっとあなたのことが好きでした」
和春の表情が僅かに変わる。
「いつからかは……もう分かりません」
「仕事をして、一緒に暮らして、喧嘩して、呆れて。
、振り回されて‥あなたの思考についていくために必死になって」
涙がまた一つ落ちる。
「気付いたらあなたの隣が私の居場所になっていました」
「……」
愛華は真っ直ぐ和春を見る。
「ですから」
小さく笑う。
「結婚を前提に、神代和春さん」
愛華の声がまた少し震える。
「あなたと、お付き合いします」
和春は数秒何も言わなかった。
そして
「そっか」
それだけ。
だが表情が今まで愛華が見た中でも驚くほど柔らかかった。
愛華はその顔を見てまた涙が出た。
「……」
「また泣くの?」
「うるさいです」
「今日泣きすぎだろ」
「誰のせいですか」
「俺だな」
「そうですよ」
そして和春は自然に腕を伸ばした。
愛華の身体を抱き寄せる。
愛華も抵抗しない。
むしろ和春の胸へ顔を埋めた。
ザァ――。
ザァ――。
波の音。
和春が事故のあとからなぜか好きになった音。
その音の中で長い間名前のなかった二人の関係に。
ようやく名前がついた。
相方兼メイド。
そして恋人。
ただし最初からその先を見据えた恋人。
過去の選択が今を作った。
そして今二人はこれから先の未来へ続く選択を。
初めて一緒に選んだ。

