相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

モデル事務所 社長室 ― 打ち合わせの終わり

張り詰めていた空気が、ゆっくりとほどけていく。

社長は背もたれに体を預け、大きく息を吐いた。

「……いい話ができました」

その表情は、最初に会った時とは明らかに違う。

疑いでも警戒でもない。

納得と期待。

社長は軽く笑う。

「正直ここまで具体的に話が進むとは思っていませんでした」

和春は特に表情を変えない。

「そうか」

短い返答。

だがそれで十分だった。

愛華が静かにタブレットを閉じる。

そして丁寧に一礼した。

「本日の内容をもとに改善提案書を後日お送りします」

社長が頷く。

「助かります」

愛華は続ける。

「具体的な設計、数値設定、運用フローまで落とし込みます。その上で」

一度言葉を区切る。

「細かい変更点や追加のご相談がありましたらいつでもお呼びください」

落ち着いた声だった。

無駄がない。

社長はその言葉を聞きながら、ふと思う。

(普通はここから何度も打ち合わせが入る)

修正。

調整。

再設計。

そうやって何度も呼び出すものだ、と。

だが――

この二人は違う気がした。

根拠はない。

だが、感覚で分かる。

(……たぶん)

(これで完成する)

和春は立ち上がる。

「じゃあ後は資料見て判断しろ」

社長が少し笑う。

「ずいぶんシンプルですね」

和春は肩をすくめる。

「やることは決まってる」

愛華も立ち上がる。

「本日はありがとうございました」

アリシアも一礼する。

社長は二人を見送りながら言った。

「またぜひお願いします」

その声には、すでに信頼が含まれていた。

――――

■その後(社長の視点)

二人が部屋を出たあと。

社長はしばらくその場に座っていた。

机の上の資料を見る。

そして、小さく笑う。

「……なるほどな」

完全に理解した。

あの二人のやり方を。

普通のコンサルとは違う。

何度も呼ぶ必要がない。

一回で終わる。

(完成度が高すぎる)

むしろ。

修正する余地がない。

だから――

「お礼の電話くらいしかすることがない」

社長はそう呟いた。

アリシアが小さく笑う。

「そうなんです。評判もそれでした」

社長は頷く。

「だからか案件が増えるのは」

愛華の言葉を思い出す。

“何かあればまた呼んでください”

だが実際には――

ほとんど呼ばれない。

その代わり。

別の案件が飛んでくる。

紹介。

口コミ。

新規依頼。

信頼が次の仕事を連れてくる。

社長は椅子にもたれた。

「面白い久しぶりに当たりだな」

そして窓の外を見ながら言った。

「……これは伸びる」

すでに確信していた。

この出会いは――

ただのコンサルでは終わらない。

■モデル事務所 社長室 ― 静かな余韻

扉が閉まり、二人の足音が遠ざかっていく。

室内に残ったのは、わずかな静寂と、まだ消えきらない熱だった。

社長は椅子に深く腰掛けたまま、しばらく動かなかった。

テーブルの上には資料。

だが視線はそこではなく、先ほどの会話の残像を追っていた。

「……」

やがて小さく息を吐く。

「普通のコンサル会社なら」

ぽつりと呟く。

「契約だの、顧問だの馬鹿みたいに高い」

アリシアが横で静かに聞いている。

社長は続けた。

「月額契約は数百万‥打ち合わせは何度も修正、修正、また修正」

軽く笑う。

「時間も取られる。人も割かれる‥結果が出るまで長い」

そして、机の上を指でトントンと叩く。

「だが」

少し間。

「このレベルを一回の打ち合わせで出してくる」

視線がドアの方へ向く。

すでに二人の姿はない。

「しかもこの価格……」

首を横に振る。

「正直、企業としては安い」

アリシアが小さく頷く。

「はい。そう思います」

社長は少しだけ目を細めた。

「だが、分かる」

指を組み、少し前に身を乗り出す。

「何度も時間を取られない一発で終わる。だから回転が速い」

そして小さく笑う。

「……利益も膨大か」

アリシアが言う。

「案件数が多い理由ですね」

社長は頷く。

「納得した」

椅子に深くもたれ、天井を見上げる。

「すごいな……」

静かな声だった。

だが確信がこもっている。

「若き天才コンサル」

少し間を置いて。

ゆっくりと名前を口にする。

「神代和春……」

その名前は、もうただの噂ではなかった。

実感として刻まれていた。