相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

■モデル事務所 社長室 ― 追加提案

社長がまだ余韻の残る表情で資料を見ている中。

和春は背もたれに軽く寄りかかりながら、ふと思い出したように言った。

「あと一つ」

社長が顔を上げる。

「まだあるんですか?」

和春は視線をアリシアに向けた。

「アリシア」

突然名前を呼ばれ、アリシアが少し驚く。

「は、はい」

和春はそのまま言った。

「お前のSNS私物もっと上げろ」

アリシアが少し首を傾げる。

「私物……ですか?」

和春は具体的に言う。

「財布でもいい、化粧品でもいい普段使ってるものは全部ネタになる」

社長が少し興味を持つ。

「なるほど……」

和春は続けた。

「で、ブランド立ち上がったら社長から商品もらえ。それを私用で使うんだ」

アリシアが少し戸惑う。

「えっと……それって」

和春は淡々と言う。

「今から伏線張っとけ」

部屋が一瞬静かになる。

社長の目が変わる。

「……伏線」

愛華が静かに補足する。

「はい。非常に重要なポイントです」

アリシアを見る。

「今の段階で“この人は普段から物を紹介する人”という印象を作っておくんです」

アリシアは真剣に聞いている。

愛華は続ける。

「例えば今日はこのコスメを買いました。この財布が使いやすいです。最近これがお気に入りです」

ゆっくり説明する。

「こういった投稿を日常的にしていればフォロワーは自然に“アリシアさんが使っているもの=良いもの”と認識します」

社長が小さく頷く。

「なるほど……」

愛華はさらに言う。

「その状態でブランドの商品を使い始めれば宣伝になります」

少し間。

「しかも露骨ではありません」

和春が言う。

「自然に売れる」

アリシアの目が少し開く。

「……確かに」

愛華が微笑む。

「いきなり宣伝すると違和感が出ます。ですが普段から紹介している人なら受け入れられます」

社長が腕を組む。

「つまり習慣を先に作る」

和春が短く言う。

「そう」

アリシアが小さく呟く。

「……今から準備するんですね」

愛華が頷く。

「はい。ブランドは作る前から始まっています」

社長はゆっくり息を吐いた。

そして笑う。

「なるほど恐ろしいですね」

和春が言う。

「普通だ」

愛華が小さく笑う。

「普通ではありません」

社長はアリシアを見る。

「今日からやれるか?」

アリシアは迷わず頷いた。

「やります」

その目は真剣だった。

この瞬間――

ブランド戦略は、もう動き始めていた。