相方兼メイドが、恋だけは距離バグってる

■神代家 ― 夜

食事が終わると、愛華は静かに立ち上がった。

テーブルの皿を一枚ずつまとめ、キッチンへ運ぶ。

流しに水の音が響く。

和春はソファに座ったまま、その様子をぼんやり見ていた。

さっきまで仕事の話をしていた空気が、少し落ち着いてきている。

愛華が皿を洗い終えると、キッチンから声が聞こえた。

「和春、お風呂入れてあります。先に入ってください」

和春が振り返る。

「一緒に入ればいいだろ」

愛華はすぐ答えた。

「嫌です」

即答だった。

和春が言う。

「なんで?」

愛華は手を拭きながら振り返る。

「狭いので」

一言だった。

その理由に、和春は苦笑する。

「昨日は入ってただろ」

愛華は少しだけ目を細めた。

「昨日は旅館で露天風呂です」

そして付け加える。

「家の浴槽は狭いです」

つまり――

密着しすぎる。

それを言っている。

和春は肩をすくめた。

「はいはい」

立ち上がる。

「じゃあ先入る」

そのまま浴室へ向かった。

――――

しばらくして。

シャワーの音が止まる。

浴室の扉が開く。

和春はタオルで髪を拭きながら出てきた。

愛華はすでに部屋の照明を少し落としている。

和春はそのまま寝室へ向かった。

ベッドに腰を下ろす。

そして枕元に置いてあった本を手に取る。

分厚い専門書だった。

経営理論の洋書。

普通の人なら数ページで眠くなる本だ。

だが和春は普通の顔でページをめくる。

静かな時間が流れる。

数分後。

浴室からシャワーの音が聞こえ始めた。

愛華が入っている。

和春はページをめくりながら、淡々と読み続けていた。

やがてシャワーの音が止まる。

しばらくして――

廊下から足音が近づく。

寝室の扉が静かに開いた。

愛華だった。

髪は少し濡れている。

軽い部屋着。

そして――

当然のように寝室へ入ってくる。

もうそれは、日常だった。

愛華はベッドの横まで来る。

そして和春を見る。

ベッドの上で、和春は相変わらず専門書を読んでいる。

ページをめくる音だけが部屋に響く。

愛華が言う。

「……」

「本ですか」

和春は目を上げない。

「ん」

愛華はベッドの横に腰を下ろした。

「お風呂上がりまで仕事ですか」

和春はページをめくりながら言う。

「仕事じゃない趣味」

愛華は少し呆れたように笑う。

「経営理論の専門書が趣味の人はあまりいません」

和春が言う。

「面白いぞ」

愛華はベッドの上に手をつく。

そして本を覗き込む。

びっしり英語の文字。

愛華が言う。

「普通は寝る前に読む本じゃありません」

和春はページを閉じた。

そしてようやく愛華を見る。

「眠くならない」

愛華が言う。

「普通は逆です」

和春は本を横に置く。

そして何も言わず――

腕を伸ばした。

愛華の手を掴む。

「……」

愛華が小さく息を吐く。

「やっぱりそうなりますよね」

和春は言う。

「寝るだけだ」

愛華は少し笑う。

「信用してません」

それでも。

愛華は抵抗せず。

そのままベッドの上に引き込まれた。

いつものように。