風が唸る。
稲が波のように揺れる。
白いものが、視界の奥で揺れている。
キョウの耳の奥で、鼓動が爆音のように響く。
タツキの手が、まだ腕を掴んでいる。
強い。
必死だ。
その目に浮かぶ揺れが、胸を抉る。
でも。
もう止められない。
止めたら、曖昧が続く。
削れ続ける。
今の苦しみが、終わらない。
キョウは、息を吸う。
肺が痛い。
喉が震える。
それでも、声を出す。
「——タツキ」
一瞬。
世界が止まる。
風が凍る。
白い影の動きが止まる。
タツキの身体が、大きく跳ねる。
喉から、音にならない叫び。
目が見開かれる。
そこに浮かぶのは——
驚愕。
次の瞬間。
空気が圧縮される。
視界が白く弾ける。
キョウは思わず目を閉じる。
音が消える。
重力が消える。
自分が立っているのかもわからない。
ただ一つ、はっきりしているのは。
腕を掴んでいた力が、ふっと消えたこと。
静寂。
風が戻る。
ゆっくりと、目を開ける。
夕陽は沈みかけている。
田んぼは、いつもの田んぼだ。
白い影は、ない。
目の前に、タツキが立っている。
静かに。
呼吸は落ち着いている。
苦しみの痕跡は、ない。
汗も消えている。
まるで、何もなかったかのように。
「……終わった?」
キョウの声が、かすれる。
タツキが瞬きをする。
そして、ゆっくりと笑う。
その笑顔は、柔らかい。
穏やかで、優しい。
「……うん」
短い返事。
迷いがない。
揺れがない。
完全だ。
キョウの胸に、安堵が広がる。
終わった。
固定された。
戻った。
そう思った瞬間。
微かな違和感が、胸の奥に落ちる。
ほんの、ほんの少し。
タツキの視線が、深い。
以前よりも。
重い。
「帰ろ」
自然な声。
手が差し出される。
キョウは、その手を見る。
ためらいは、一瞬。
そして、取る。
温かい。
ちゃんと、温かい。
歩き出す。
田んぼを背に。
風は、もう普通だ。
虫の音も戻っている。
世界は整っている。
安定している。
固定は成功した。
そのはずだ。
でも。
歩きながら、キョウは気づく。
隣の足音が、ぴたりと揃っている。
呼吸の間も、完全に一致している。
以前あった、半歩のずれがない。
完璧だ。
完璧すぎる。
家の灯りが見える。
タツキが、ふとキョウを見る。
その目が、ほんの一瞬だけ——
笑っていない。
すぐに戻る。
気のせいかもしれない。
きっと。
キョウは、何も言わない。
言えない。
選んだのは、自分だ。
世界は固定された。
そして。
本物のタツ?は。
——もう、どこにもいない。
稲が波のように揺れる。
白いものが、視界の奥で揺れている。
キョウの耳の奥で、鼓動が爆音のように響く。
タツキの手が、まだ腕を掴んでいる。
強い。
必死だ。
その目に浮かぶ揺れが、胸を抉る。
でも。
もう止められない。
止めたら、曖昧が続く。
削れ続ける。
今の苦しみが、終わらない。
キョウは、息を吸う。
肺が痛い。
喉が震える。
それでも、声を出す。
「——タツキ」
一瞬。
世界が止まる。
風が凍る。
白い影の動きが止まる。
タツキの身体が、大きく跳ねる。
喉から、音にならない叫び。
目が見開かれる。
そこに浮かぶのは——
驚愕。
次の瞬間。
空気が圧縮される。
視界が白く弾ける。
キョウは思わず目を閉じる。
音が消える。
重力が消える。
自分が立っているのかもわからない。
ただ一つ、はっきりしているのは。
腕を掴んでいた力が、ふっと消えたこと。
静寂。
風が戻る。
ゆっくりと、目を開ける。
夕陽は沈みかけている。
田んぼは、いつもの田んぼだ。
白い影は、ない。
目の前に、タツキが立っている。
静かに。
呼吸は落ち着いている。
苦しみの痕跡は、ない。
汗も消えている。
まるで、何もなかったかのように。
「……終わった?」
キョウの声が、かすれる。
タツキが瞬きをする。
そして、ゆっくりと笑う。
その笑顔は、柔らかい。
穏やかで、優しい。
「……うん」
短い返事。
迷いがない。
揺れがない。
完全だ。
キョウの胸に、安堵が広がる。
終わった。
固定された。
戻った。
そう思った瞬間。
微かな違和感が、胸の奥に落ちる。
ほんの、ほんの少し。
タツキの視線が、深い。
以前よりも。
重い。
「帰ろ」
自然な声。
手が差し出される。
キョウは、その手を見る。
ためらいは、一瞬。
そして、取る。
温かい。
ちゃんと、温かい。
歩き出す。
田んぼを背に。
風は、もう普通だ。
虫の音も戻っている。
世界は整っている。
安定している。
固定は成功した。
そのはずだ。
でも。
歩きながら、キョウは気づく。
隣の足音が、ぴたりと揃っている。
呼吸の間も、完全に一致している。
以前あった、半歩のずれがない。
完璧だ。
完璧すぎる。
家の灯りが見える。
タツキが、ふとキョウを見る。
その目が、ほんの一瞬だけ——
笑っていない。
すぐに戻る。
気のせいかもしれない。
きっと。
キョウは、何も言わない。
言えない。
選んだのは、自分だ。
世界は固定された。
そして。
本物のタツ?は。
——もう、どこにもいない。
