ずっと、いっしょ。

放課後。
教室のざわめきが、いつもより遠く聞こえる。
机を引く音。
椅子の脚が床を擦る音。
笑い声。
全部、少しだけ遅れて届く。
キョウは鞄の中の手帳を指先で確認する。
ある。
重みがある。
それだけで、逃げられなくなる。

「行こっか」

タツキが言う。
自然な声。
いつもの調子。
キョウは頷く。
廊下を並んで歩く。
窓の外の光が、やけに白い。
階段を下りるとき、
タツキの足音がぴたりと揃う。
揃いすぎる。
以前は半歩ずれていた。
キョウが先に下りて、
タツキがそれを追う感じだった。
今は違う。
呼吸の間まで、同じだ。
校門を出る。
風が吹く。
田んぼの方向から。
ざわ、と。
遠いのに、音がはっきりしている。
まだ距離はあるはずなのに。

「寒い?」

タツキが聞く。
首を振る。
寒いのは、外じゃない。
胸の奥だ。
歩きながら、キョウは気づく。
道が、やけに静かだ。
車が少ない。
犬の鳴き声もない。
いつも誰かいるはずの自転車置き場も、空だ。
世界が、整えている。
そんな感覚。
“固定”に向けて。
余分なものを、削っている。
キョウは立ち止まりそうになる。
今ならまだ戻れる。

「やっぱりやめよう」

その一言で、終わる。
でも言わない。
隣を見る。
タツキがこちらを見ている。
笑っている。
優しい顔。
けれど。
その目の奥が、やけに澄んでいる。
揺れがない。
迷いがない。
……本物のタツキなら。
少しは不安になるはずだ。
理由も聞くはずだ。
でも今は。

「田んぼでしょ?」

先に言われる。
キョウの心臓が跳ねる。
言っていない。
目的地は言っていない。

「……なんで」

思わず漏れる。
タツキは一瞬だけ、瞬きをする。
それだけ。

「なんとなく。風、あっちからだし」

自然な言い訳。
成立している。
成立しているのに。
何かが、ずれている。
風がまた強く吹く。
ざわざわと、稲が鳴く。
呼ばれている。
あの日と同じ音。
キョウの脳裏に、最後の夢がよぎる。
——選ぶな。
胸が締めつけられる。
今なら。
今ならまだ。
でも足は動く。
前へ。
タツキが、ほんのわずかに距離を詰める。
触れそうで触れない距離。
守る位置。
あの日と同じ。
違うのは。
今回は、誰が誰を守るのか。
田んぼが見えてくる。
夕陽が、白く揺れている。
キョウは、確信する。
もう引き返せない。
違和感は静かだ。
叫ばない。
止めない。
ただ、そこにある。
それでも進む。
それが一番、怖い