暗い。
ここはもう、夢ですらない。
光の届かない、水の底のような場所。
自分の輪郭が、わからない。
手を伸ばしても、指があるのかも曖昧だ。
声を出そうとしても、音にならない。
でも、まだ、消えていない。
それだけはわかる。
外の気配が、遠くにある。
キョウの声。
笑う声。
廊下の足音。
全部、薄い膜の向こう側。
あいつが、動いている。
俺の身体で。
迷いなく。
俺より上手く。
苦しい、というより、
削れている感覚だ。
少しずつ。
記憶が削られていく。
キョウと初めて話した日のこと。
三人で走った田んぼ道。
兄貴の笑い声。
……兄貴。
その名前を思い出そうとすると、
ひどく痛む。
タツオミ。
兄貴。
俺は、あの日、守られた。
あいつに。
守られて、生き残った。
なのに今は。
俺が、押し出されている。
おかしいだろ。
お前が消えたんだ。
俺じゃない。
言葉にならない怒りが、
暗闇の中で揺れる。
でも怒っても、薄い。
力がない。
世界は安定を選ぶ。
あいつの方が、強い。
理解している。
このままいけば、固定される。
戻るのは“タツキ”。
中身は、兄貴。
それでも。
それでも。
キョウだけは、巻き込みたくない。
あいつは何も知らない。
いや、知り始めている。
だからこそ。
届かなくてもいい。
削れてもいい。
最後に一つだけ。
夢に、行く。
もうほとんど通れない。
隙間は、狭い。
それでも。
今夜。
最後に。
——田んぼへ行くな。
違う。
それでは足りない。
儀式を止めろ?
違う。
止められない。
なら。
選ばせるな。
世界に。
固定させるな。
曖昧なままでいろ。
俺も、兄貴も。
消えるなら、二人とも消えればいい。
その方がまだ、正しい。
暗闇が、ひび割れる。
わずかな光。
夢への裂け目。
そこに、全てを押し込む。
声にならない声。
キョウ。
気づけ。
違和感を、無視するな。
俺は——
まだ、ここにいる。
光が閉じる。
輪郭が、さらに崩れる。
それでも、わずかに。
抵抗は、残った。
ここはもう、夢ですらない。
光の届かない、水の底のような場所。
自分の輪郭が、わからない。
手を伸ばしても、指があるのかも曖昧だ。
声を出そうとしても、音にならない。
でも、まだ、消えていない。
それだけはわかる。
外の気配が、遠くにある。
キョウの声。
笑う声。
廊下の足音。
全部、薄い膜の向こう側。
あいつが、動いている。
俺の身体で。
迷いなく。
俺より上手く。
苦しい、というより、
削れている感覚だ。
少しずつ。
記憶が削られていく。
キョウと初めて話した日のこと。
三人で走った田んぼ道。
兄貴の笑い声。
……兄貴。
その名前を思い出そうとすると、
ひどく痛む。
タツオミ。
兄貴。
俺は、あの日、守られた。
あいつに。
守られて、生き残った。
なのに今は。
俺が、押し出されている。
おかしいだろ。
お前が消えたんだ。
俺じゃない。
言葉にならない怒りが、
暗闇の中で揺れる。
でも怒っても、薄い。
力がない。
世界は安定を選ぶ。
あいつの方が、強い。
理解している。
このままいけば、固定される。
戻るのは“タツキ”。
中身は、兄貴。
それでも。
それでも。
キョウだけは、巻き込みたくない。
あいつは何も知らない。
いや、知り始めている。
だからこそ。
届かなくてもいい。
削れてもいい。
最後に一つだけ。
夢に、行く。
もうほとんど通れない。
隙間は、狭い。
それでも。
今夜。
最後に。
——田んぼへ行くな。
違う。
それでは足りない。
儀式を止めろ?
違う。
止められない。
なら。
選ばせるな。
世界に。
固定させるな。
曖昧なままでいろ。
俺も、兄貴も。
消えるなら、二人とも消えればいい。
その方がまだ、正しい。
暗闇が、ひび割れる。
わずかな光。
夢への裂け目。
そこに、全てを押し込む。
声にならない声。
キョウ。
気づけ。
違和感を、無視するな。
俺は——
まだ、ここにいる。
光が閉じる。
輪郭が、さらに崩れる。
それでも、わずかに。
抵抗は、残った。
