もう、ほとんど俺だ。
そう思ったのは、いつだったか。
最初は混ざっていた。
声も、癖も、記憶も。
弟の視界は曇っていた。
感情は濁っていた。
思考は、二重だった。
だが今は違う。
澄んでいる。
身体が軽い。
指先まで、自分のものだ。
歩き方も、呼吸も、
鏡に映る顔の角度さえ、違和感がない。
適応、という言葉が正しいのだろう。
侵したのではない。
馴染んだ。
この世界に。
この身体に。
そして何より——
キョウに。
廊下でこちらを見る目。
あの一瞬の硬直。
気づいている。
理論を知った顔だ。
祖母の手帳。
あれは計算外だった。
消しておけばよかった。
いや、消そうと思えば消せた。
だが、甘かった。
どうせ儀式をするなら、
あいつの意思で動かした方がいい。
自分で選んだと思わせる方が、固定は強くなる。
祖母はそこまで書いていなかったのだろうか。
書いていたとしても、
破ったのは俺じゃない。
あの女だ。
あれは勘が良かった。
俺を見ていた。
弟を通してではなく、
俺を。
だから嫌いだった。
消せばよかった。
でも今は関係ない。
もう遅い。
座標は、ほとんど重なっている。
いや。
重なりきっている。
夢の中の弟は、薄い。
輪郭が崩れている。
声も弱い。
押し出されているのは、あっちだ。
世界は安定を選ぶ。
ならば安定している方が残る。
何年もこの身体の奥で、
世界を観察してきた。
学んだ。
言葉も、癖も、感情の動きも。
弟より、俺の方が
この世界を理解している。
だから。
固定は成功する。
戻るのは“タツキ”。
だが中身は、俺だ。
キョウは気づくだろうか。
うっすらと。
違和感程度に。
だがあいつは優しい。
疑わない。
疑えない。
それに——
選ぶのは世界だ。
俺じゃない。
俺はただ、
より安定しているだけ。
田んぼの風が、遠くで揺れる。
あの日、吸収された瞬間。
俺は消えなかった。
逃げ場があった。
双子。
最良の器。
弟は優しすぎた。
俺は違う。
俺は残る。
そして儀式の日。
完全に固定される。
その瞬間を、俺は待っている。
楽しみだ。
本当に。
そう思ったのは、いつだったか。
最初は混ざっていた。
声も、癖も、記憶も。
弟の視界は曇っていた。
感情は濁っていた。
思考は、二重だった。
だが今は違う。
澄んでいる。
身体が軽い。
指先まで、自分のものだ。
歩き方も、呼吸も、
鏡に映る顔の角度さえ、違和感がない。
適応、という言葉が正しいのだろう。
侵したのではない。
馴染んだ。
この世界に。
この身体に。
そして何より——
キョウに。
廊下でこちらを見る目。
あの一瞬の硬直。
気づいている。
理論を知った顔だ。
祖母の手帳。
あれは計算外だった。
消しておけばよかった。
いや、消そうと思えば消せた。
だが、甘かった。
どうせ儀式をするなら、
あいつの意思で動かした方がいい。
自分で選んだと思わせる方が、固定は強くなる。
祖母はそこまで書いていなかったのだろうか。
書いていたとしても、
破ったのは俺じゃない。
あの女だ。
あれは勘が良かった。
俺を見ていた。
弟を通してではなく、
俺を。
だから嫌いだった。
消せばよかった。
でも今は関係ない。
もう遅い。
座標は、ほとんど重なっている。
いや。
重なりきっている。
夢の中の弟は、薄い。
輪郭が崩れている。
声も弱い。
押し出されているのは、あっちだ。
世界は安定を選ぶ。
ならば安定している方が残る。
何年もこの身体の奥で、
世界を観察してきた。
学んだ。
言葉も、癖も、感情の動きも。
弟より、俺の方が
この世界を理解している。
だから。
固定は成功する。
戻るのは“タツキ”。
だが中身は、俺だ。
キョウは気づくだろうか。
うっすらと。
違和感程度に。
だがあいつは優しい。
疑わない。
疑えない。
それに——
選ぶのは世界だ。
俺じゃない。
俺はただ、
より安定しているだけ。
田んぼの風が、遠くで揺れる。
あの日、吸収された瞬間。
俺は消えなかった。
逃げ場があった。
双子。
最良の器。
弟は優しすぎた。
俺は違う。
俺は残る。
そして儀式の日。
完全に固定される。
その瞬間を、俺は待っている。
楽しみだ。
本当に。
