昼休み。
廊下の窓から射す光が、床に白く伸びている。
タツキが笑っている。
いつも通り。
いつも通り、なのに。
キョウは少し離れた位置からそれを見ていた。
クラスメイトの話に頷き、
自然なタイミングで相槌を打ち、
ほんの少しだけ首を傾げる。
——完璧だ。
完璧すぎる。
キョウは思い出す。
祖母の手帳。
世界はより安定した形を選ぶ。
安定。
今、目の前にいるタツキは、あまりにも“安定”している。
以前は、もう少し曖昧だった。
笑い方に、間があった。
考えてから喋る癖があった。
沈黙が、あった。
今は違う。
迷いがない。
言葉が滑らかだ。
まるで、長い時間をかけて
この世界に適応してきたかのように。
キョウの背筋が冷える。
適応。
侵食ではない。
順応。
祖母の図を思い出す。
座標が重なり、
より安定した方が残る。
では。
安定とは何だ。
存在の強度?
記憶の量?
この世界に留まっていた時間?
キョウはふと気づく。
夢の中のタツキは、薄れていた。
あれは弱っていたのではない。
“押し出されていた”のではないか。
現実のタツキの輪郭が、日に日に濃くなっていく。
影が濃い。
存在が重い。
廊下を歩く足音が、妙に響く。
その横顔を見た瞬間。
キョウは、はっきりと違和感を覚える。
目。
一瞬だけ。
感情がなかった。
空白。
次の瞬間には、ちゃんと笑っている。
だがキョウは見てしまった。
そこに“迷い”がない。
本物のタツキは、迷う人間だった。
優しくて、躊躇して、
自分より他人を優先して、
いつも一歩遅れていた。
今のタツキは。
決断が早い。
躊躇がない。
そして何より——
キョウを見るときの目が、揺れない。
欲しいものを見る目だ。
祖母の手帳の文字が浮かぶ。
双子は最も強い。
座標近似は、定着しやすい。
定着。
それはもう、終わりかけているのではないか。
キョウの喉が乾く。
もし今、儀式を行えば。
固定されるのは——
どちらだ。
目の前の“完成されたタツキ”か。
それとも、夢の中で消えかけている存在か。
タツキがこちらを見る。
「どうした?」
普通の声。
普通の距離。
キョウは一瞬、答えられなかった。
怖い。
理論が、現実に追いついている。
「……なんでもない」
笑う。
知らないふりをする。
その瞬間。
タツキの口元が、わずかに深く歪む。
それは笑顔のはずなのに。
ほんのわずかに——
勝ち誇ったように見えた。
キョウの胸がざわめく。
もしかして。
もう。
世界は、選び始めているのではないか。
廊下の窓から射す光が、床に白く伸びている。
タツキが笑っている。
いつも通り。
いつも通り、なのに。
キョウは少し離れた位置からそれを見ていた。
クラスメイトの話に頷き、
自然なタイミングで相槌を打ち、
ほんの少しだけ首を傾げる。
——完璧だ。
完璧すぎる。
キョウは思い出す。
祖母の手帳。
世界はより安定した形を選ぶ。
安定。
今、目の前にいるタツキは、あまりにも“安定”している。
以前は、もう少し曖昧だった。
笑い方に、間があった。
考えてから喋る癖があった。
沈黙が、あった。
今は違う。
迷いがない。
言葉が滑らかだ。
まるで、長い時間をかけて
この世界に適応してきたかのように。
キョウの背筋が冷える。
適応。
侵食ではない。
順応。
祖母の図を思い出す。
座標が重なり、
より安定した方が残る。
では。
安定とは何だ。
存在の強度?
記憶の量?
この世界に留まっていた時間?
キョウはふと気づく。
夢の中のタツキは、薄れていた。
あれは弱っていたのではない。
“押し出されていた”のではないか。
現実のタツキの輪郭が、日に日に濃くなっていく。
影が濃い。
存在が重い。
廊下を歩く足音が、妙に響く。
その横顔を見た瞬間。
キョウは、はっきりと違和感を覚える。
目。
一瞬だけ。
感情がなかった。
空白。
次の瞬間には、ちゃんと笑っている。
だがキョウは見てしまった。
そこに“迷い”がない。
本物のタツキは、迷う人間だった。
優しくて、躊躇して、
自分より他人を優先して、
いつも一歩遅れていた。
今のタツキは。
決断が早い。
躊躇がない。
そして何より——
キョウを見るときの目が、揺れない。
欲しいものを見る目だ。
祖母の手帳の文字が浮かぶ。
双子は最も強い。
座標近似は、定着しやすい。
定着。
それはもう、終わりかけているのではないか。
キョウの喉が乾く。
もし今、儀式を行えば。
固定されるのは——
どちらだ。
目の前の“完成されたタツキ”か。
それとも、夢の中で消えかけている存在か。
タツキがこちらを見る。
「どうした?」
普通の声。
普通の距離。
キョウは一瞬、答えられなかった。
怖い。
理論が、現実に追いついている。
「……なんでもない」
笑う。
知らないふりをする。
その瞬間。
タツキの口元が、わずかに深く歪む。
それは笑顔のはずなのに。
ほんのわずかに——
勝ち誇ったように見えた。
キョウの胸がざわめく。
もしかして。
もう。
世界は、選び始めているのではないか。
