ずっと、いっしょ。

雨が降っていた。
窓を打つ音が、一定のリズムで続いている。
キョウは祖母の手帳を、最初の方から読み返していた。
今までは儀式の手順ばかり目に入っていたが、今日は違う。
記録、日付、名前、失敗。
その言葉の横に、小さく書き添えられた注釈に目が止まる。
事例三
双生児
片割れ消失
固定失敗
キョウの指が止まる。
双生児。
ページを戻る。
別の記録。
事例七
兄弟
座標近似
片方のみ残存
さらにめくる。
事例十一
二名、誕生日同一
記録重複
再固定不能
キョウの喉が鳴る。
偶然じゃない。
失敗例の多くが、“二人組”だ。
しかも、
・双子
・年齢が近い兄弟
・同日生まれ
・極端に親しい幼なじみ
座標が近い者同士。
祖母は、最初から知っていた。
クネクネが狙うのは、単体の人間ではない。
“重なれる存在”。
ページの端に、薄い文字がある。
座標が単独の者は削除されやすい。
座標が近接する者は、重なりやすい。
キョウは思い出す。
宮野は、消えた。
だが誰にも重ならなかった。
だから完全に削除された。
一方、タツオミは。
隣に、双子がいた。
だから消えなかった。
消えきれなかった。
ページをめくる。
祖母の筆跡が荒れている箇所。
固定は成功した。
しかし戻ったのは——
そこから先が、黒く塗りつぶされている。
キョウの指先が冷たくなる。
戻ったのは、何だった?
ページの余白に、走り書き。
世界は“より安定した方”を残す。
血縁は強い。
双子は最も強い。
雨音が強くなる。
キョウの頭の中で、ゆっくりと線が繋がる。
もし儀式を行えば。
曖昧な二つの座標は、固定される。
そのとき。
世界が選ぶのは、
“本来の持ち主”か?
それとも、
“今この世界により深く根を張っている存在”か?
夢の中のタツキは、薄かった。
輪郭が崩れかけていた。
だが、現実のタツキは。
はっきりしている。
強い。
安定している。
キョウは、手帳を閉じた。
胸がざわつく。
失敗例は、失敗ではなかったのかもしれない。
儀式は成功していた。
ただ——
“誰が残るか”を誤認していただけ。
窓の外の雨が止む。
静けさの中で、キョウははっきり理解する。
これは奪還ではない。
選別だ。
そして世界は、感情で選ばない。
安定で選ぶ。
キョウは、目を閉じる。
それでも。
それでも自分は、
タツキを選ぶ。
そう思い込まなければ、進めない