放課後の図書室は、ほとんど人がいなかった。
キョウは祖母の手帳を膝に乗せたまま、何度も同じページを読み返している。
双子は存在座標が近い。
その一文だけが、妙に重い。
存在座標。
祖母は理屈で書いている。
迷信ではない。感情でもない。
まるで、物理法則のように。
ページをめくると、図が描かれている。
一本の縦線。
そこに点が三つ。
上から、
「タツオミ」
「タツキ」
「キョウ」
タツオミとタツキの点は、ほとんど重なっている。
キョウだけ、少し離れている。
横に注釈。
人は世界の中に“座標”を持つ。
座標が近いほど、記録は重なりやすい。
キョウは息を止める。
重なる。
あの日。
クネクネに触れられた瞬間、
タツオミの座標は削除された。
だが、完全には消えなかった。
なぜなら――
最も近い座標が、隣にあったから。
双子。
祖母の文字は続く。
削除された存在は、
もっとも近い座標へ“逃げる”。
逃げる。
吸収ではない。
侵食でもない。
“滞留”。
つまり今の状態は――
タツキの中にタツオミがいるのではなく、
タツキとタツオミの座標が、
曖昧に重なっている状態。
キョウの背筋が冷える。
では儀式とは何か。
ページをさらにめくる。
座標が重なった存在は不安定である。
世界は必ず“より安定した形”へ収束する。
安定。
どちらが安定だ?
長くこの世界に残っている方か。
強く記憶されている方か。
あるいは――
より意志が強い方か。
キョウの頭に、夢の中のタツキが浮かぶ。
薄く、弱く、消えかけていた。
一方で。
現実のタツキは、はっきりしている。
笑う。
歩く。
喋る。
その奥にいる存在は、揺らがない。
祖母の文字は、そこで一度途切れている。
次のページ。
紙がわずかに破られている。
だが、破れ残った端に、読める言葉がある。
儀式は座標を“固定”する。
曖昧な重なりを、一つに定める。
キョウの呼吸が浅くなる。
固定。
つまり。
どちらかが残る。
どちらかが、世界の“正規記録”になる。
そしてもう一方は――
消える。
完全に。
キョウは本を閉じる。
理解が進むほど、胸が重くなる。
自分は何をしようとしている?
タツキを取り戻す儀式?
それとも――
選別?
窓の外を見る。
夕暮れの光が、田んぼの方角を赤く染めている。
ふと、思う。
もし世界が“より安定した形”を選ぶなら。
今、より安定しているのは、どちらだ。
本物のタツキか。
それとも――
もう何年も、内側から世界を見続けてきたタツオミか。
キョウは目を伏せる。
理解している。
でも、まだ、認めない。
手帳を抱きしめる。
儀式は救済ではない。
選択でもない。
“固定”だ。
そして固定とは、
世界にとって都合のいい方を残すこと。
静かに、四部は決定的な地点へ近づいている。
キョウは祖母の手帳を膝に乗せたまま、何度も同じページを読み返している。
双子は存在座標が近い。
その一文だけが、妙に重い。
存在座標。
祖母は理屈で書いている。
迷信ではない。感情でもない。
まるで、物理法則のように。
ページをめくると、図が描かれている。
一本の縦線。
そこに点が三つ。
上から、
「タツオミ」
「タツキ」
「キョウ」
タツオミとタツキの点は、ほとんど重なっている。
キョウだけ、少し離れている。
横に注釈。
人は世界の中に“座標”を持つ。
座標が近いほど、記録は重なりやすい。
キョウは息を止める。
重なる。
あの日。
クネクネに触れられた瞬間、
タツオミの座標は削除された。
だが、完全には消えなかった。
なぜなら――
最も近い座標が、隣にあったから。
双子。
祖母の文字は続く。
削除された存在は、
もっとも近い座標へ“逃げる”。
逃げる。
吸収ではない。
侵食でもない。
“滞留”。
つまり今の状態は――
タツキの中にタツオミがいるのではなく、
タツキとタツオミの座標が、
曖昧に重なっている状態。
キョウの背筋が冷える。
では儀式とは何か。
ページをさらにめくる。
座標が重なった存在は不安定である。
世界は必ず“より安定した形”へ収束する。
安定。
どちらが安定だ?
長くこの世界に残っている方か。
強く記憶されている方か。
あるいは――
より意志が強い方か。
キョウの頭に、夢の中のタツキが浮かぶ。
薄く、弱く、消えかけていた。
一方で。
現実のタツキは、はっきりしている。
笑う。
歩く。
喋る。
その奥にいる存在は、揺らがない。
祖母の文字は、そこで一度途切れている。
次のページ。
紙がわずかに破られている。
だが、破れ残った端に、読める言葉がある。
儀式は座標を“固定”する。
曖昧な重なりを、一つに定める。
キョウの呼吸が浅くなる。
固定。
つまり。
どちらかが残る。
どちらかが、世界の“正規記録”になる。
そしてもう一方は――
消える。
完全に。
キョウは本を閉じる。
理解が進むほど、胸が重くなる。
自分は何をしようとしている?
タツキを取り戻す儀式?
それとも――
選別?
窓の外を見る。
夕暮れの光が、田んぼの方角を赤く染めている。
ふと、思う。
もし世界が“より安定した形”を選ぶなら。
今、より安定しているのは、どちらだ。
本物のタツキか。
それとも――
もう何年も、内側から世界を見続けてきたタツオミか。
キョウは目を伏せる。
理解している。
でも、まだ、認めない。
手帳を抱きしめる。
儀式は救済ではない。
選択でもない。
“固定”だ。
そして固定とは、
世界にとって都合のいい方を残すこと。
静かに、四部は決定的な地点へ近づいている。
