ずっと、いっしょ。


机の上に広げた手帳を、キョウはじっと見つめていた。
祖母の筆跡は、几帳面すぎるほど整っている。
だが内容は、整っていない。
断片的。
飛び飛び。
まるで“意図的に順番を崩している”みたいだった。
キョウは気づく。

「……これ、ただの除霊じゃない」

ページの端に、小さくこう書かれている。
世界は“記録”でできている。
意味が分からない。
読み進める。
人は存在するのではない。
記録されているから存在している。
宮野の顔が浮かぶ。
存在が消えた。
写真からも、会話からも、記憶からも。
あれは“消失”じゃない。
“記録の削除”。
キョウの喉がひりつく。
さらに読み進める。
クネクネは、記録の削除者。
直接殺すのではない。
“いなかったこと”にする。
ページの隅に、祖母の書き込み。
対抗するには、記録を書き直すしかない。
キョウの手が止まる。

「書き直す……?」

儀式の本質は、祓いではない。
削除された存在を“再記録”すること。
だが、その下に小さく、消えかけた一文。
ただし、完全復元は不可能。
心臓が一度、強く鳴る。
完全ではない。
戻すことはできても、“同じもの”にはならない。
キョウは息を飲む。
机の上の蛍光灯が、わずかにちらつく。
ページをめくる。
図がある。
円が二つ、重なっている。
双子。
横に注釈。
双子は存在座標が近い。
削除された側は、もう一方に滞留する。
タツオミ、タツキ、田んぼ、あの日。
すべてが一本に繋がる。
タツオミは完全には消えていない。
タツキの“記録”の中に、滞留している。
だから今もいる。
だから影が揺れる。
キョウの喉が渇く。
さらに読み進める。
儀式とは、存在の固定である。
曖昧になった記録を、一つに定める行為。
固定。
一つに。
キョウは、そこで初めて気づく。
分離ではない。
どちらかを“本物”として決める儀式。
胸がざわつく。
強い方が残るのか。
記録が安定している方が残るのか。
その条件は、まだ書かれていない。
あるいは――破られている。
最後のページの一部が、不自然に切り取られていた。
キョウはゆっくり手帳を閉じる。
理解してきている。
でも、全部は分かっていない。
分かりたくない部分がある。
窓の外、夜は静かだ。
どこかで風が鳴る。
タツキは今、何をしているだろう。
“どちら”として。
キョウは目を閉じる。
儀式は、救済ではない。
選択だ。
そしてその選択は、
必ず何かを消す。
静かに、四部は核心へ近づいていく