ずっと、いっしょ。

昼休みの教室はうるさい。
 机をくっつけて弁当を広げるやつ、廊下に出ていくやつ、スマホを囲んで動画を見るやつ。
エアコンの風と、弁当の匂いと、笑い声が混ざって、妙に眠くなる。

「キョウ、それ一口くれ」

 宮野が俺のパンを指差す。

「やだよ」
「ケチ」
「さっきそっちもくれなかっただろ」

 他愛もないやり取りで笑う。
 こういう時間が嫌いじゃない。
 むしろ、落ち着く。

「なあ、放課後どうする?」

 佐伯が言う。

「ゲーセン行く?」
「テスト前だぞ」
「一時間だけ!」

 騒いでいると、誰かが言った。

「あ、タツキ来てる」

 振り向くと、教室の入り口にタツキが立っている。
 今日はやけに来るな、と思う。
 別に珍しくはない。クラスが違っても、行き来するやつは多い。

「キョウ」

 軽く手を振る。

「何?」
「プリント返して」
「ああ」


 鞄を漁っていると、宮野がひそひそ声で言う。

「相変わらず仲いいな」
「幼馴染だし」
「それだけ?」
「それだけ」

 即答すると、宮野は意味深に笑った。
 タツキは俺の机の横まで来て、自然に立つ。
 距離が近い。
 でも、別に触れてはいない。

「これな」

 プリントを渡す。

「サンキュ」

 受け取る指が、ほんの一瞬だけ俺の指に触れた。
 意識しなければ気づかないくらいの接触。

「放課後どうすんの」

 タツキが聞く。

「まだ決めてない」
「ゲーセン行くかもって」

 宮野が勝手に答える。

「へえ」

 タツキは俺を見る。

「行くの?」
「たぶん」
「ふーん」

 それだけ。
 責めるわけでも、止めるわけでもない。
 でも、少しだけ間があった。

「お前も来る?」

 何となく言うと、タツキは肩をすくめた。

「別にいいけど」
「じゃあ来いよ」
「考えとく」

 そう言って、もう用は済んだはずなのに、少しだけその場にいる。
 会話に混ざるでもなく、ただ立っている。

「タツキもパン食う?」

 佐伯が気を利かせて言う。

「いい」

 短く答えて、ようやく一歩下がる。

「じゃあな」

 教室を出ていく背中を、なぜか目で追ってしまった。

「ほんと近いよな、お前ら」

 宮野が笑う。

「そう?」
「なんかさ、空気できてる」
「何それ」

 意味がわからない、と笑う。
 でも、少しだけ胸がざわついた。
 空気。
 俺たちの?
 午後の授業は眠かった。
 数学の板書を写しながら、ふと窓の外を見る。
 校庭の向こうに、緑が広がっている。
 田んぼだ。
 昼の光の中では、ただの風景。
 揺れも、白いものも、何もない。
 三人。
 頭の隅に、まだ残っている。
 でも今は、どうでもいい気がする。
 笑い声が横から聞こえる。
 ノートを小突かれる。

「キョウ、答えろって」
「え、どこ?」

 慌てて立ち上がると、教室が笑いに包まれる。
 顔が熱くなる。
 こういうのも、悪くない。
 普通だ。
 俺は、普通に笑っていて。
 隣には友達がいて。
 別のクラスにはタツキがいて。
 それだけだ。
 それで、足りている。
 たぶん。