ずっと、いっしょ。

キョウは手帳を抱え、畳に座ったままページをめくっていた。
夜の薄明かりが文字の上に影を落とす。
祖母の筆跡は、時折ぎこちなくもあり、時折異様に整然としていた。
それはまるで、手帳自身が生きているかのような錯覚を覚えるほどだ。

――儀式。――

その文字を見るたび、胸の奥がぎゅうっと締め付けられる。
夢の中の田んぼ、クネクネ、そして消えたタツオミ
すべてが手帳のページに点として結びつく。
キョウの頭の中で、過去の断片がぱちぱちと火花のように散っていく。

夢の中の声、タツオミの焦燥、恐怖。田んぼで見た景色。
手帳には、儀式の順序、守るべき者、触れてはいけないもの、失敗の記録が淡々と書かれていた。
しかし、その文字の奥に、祖母の警告が潜んでいる。
 
『見えぬものに触れるな。されど真実を知る者のみ、進むべし』

キョウは手帳を握りしめた。
指先に伝わる紙の感触が、自分を現実に引き戻す。
けれど頭の中では、夢の田んぼの風景がまだ鮮明に揺れていた。
タツオミがタツキに潜伏した瞬間、何もできずに見送った自分。
恐怖と、守れなかった罪悪感。

「……でも、やらなきゃ……」

手帳のページに目を落とすたび、儀式の全貌が少しずつ見えてくる。
場所、道具、順序。
必要なのは決して派手なものではなく、細かな注意と、守る意志。
それがすべてを左右するらしい。

そして、手帳の隅に、小さな文字で書き添えられた名前――タツキ。
キョウはその文字に息を呑む。
自分が守るべき存在、本物のタツキ。
夢の中のタツオミが潜伏した存在。
すべてが線で結ばれる。

「……俺、全部知っちゃったんだ……」

恐怖と好奇心が入り混じる。
儀式は危険だ。
タツオミは、もう手の届かないところで動いている
。けれど、知ってしまったからには、逃げられない。
手帳の文字が、キョウを儀式の世界へと誘っている。

キョウは深く息を吸った。
手帳を抱え、覚悟を決めるように背筋を伸ばす。
夢の断片、祖母の警告、タツオミの影。
すべてを心に刻み、次の一歩を踏み出す準備をする。

暗い夜の中、窓の外で風がそっと揺れる。
その音すら、キョウには夢の余韻のように感じられた。
これから待つ儀式――そして、タツオミとの決着――。
心の中に、恐怖と期待が同居していた。