祖母の残した手帳をめくる途中 、キョウはいつの間にか眠りに落ちた。
目を開けると、足元は湿った土の感触、遠くには黄金色の稲穂が風に揺れる田んぼの真ん中に立っていた。
周囲の景色はどこか懐かしく胸の奥に甘い記憶がこみ上げる――そう、ここは、幼い頃に三人で遊んだ場所だった。
「タツキ、待って!」
「タツオミ、こっちだよ!」
声をかけ合い、三人は泥の感触を楽しみながら走り回る。
空は異様に青く、稲穂の間を吹き抜ける風は優しく、夢の中なのに温かい。
けれど、どこかに違和感がある――空の端が揺らめき、視界の隅で、かすかな黒い影が蠢く。
「……なんだ、あれ……」
くねくね――その名も知らぬ得体の知れない存在が、田んぼの縁にひょろりと立っていた。
形は不定、腕のようなものが絶えず伸び縮みし、目はなく、ただひたすらに空間を歪ませている。
影は生き物のように動き、空気そのものがねじれる感覚に、キョウの胸は凍りついた。
「や……!」
叫び声も届かず、三人の足元に黒い瘴気が這い寄る。
くねくねはあっという間に距離を縮め、手を伸ばした。
タツオミが、何かを決意したように、キョウとタツキを抱き寄せる。
「俺が……」
瞬間、影の触手が二人を追おうとしたその瞬間、タツオミの体が黒に包まれ、吸い込まれていく。
キョウは目を大きく見開き、手を伸ばすが、届かない。タツオミの顔が一瞬だけ微笑み、そして闇に溶けた。
「タ……ツオミ!」
残されたのは、くねくねの不気味な笑いともつかぬ音と、風に揺れる稲穂のざわめきだけ。
だが次の瞬間、タツキ――双子の弟のほうが
どこかぎこちなく、しかし確かにタツオミの意思の残滓を宿しているかのような目で、
キョウを見返す。体の内側に潜む存在を感じ、胸の奥がぎゅうっと締めつけられる。
「……ここにいるんだ……くく」
影が混ざった弟タツキの目は冷たく、しかしどこか守ろうとする温もりもある。
恐怖と安堵、混乱と悲しみ――すべてが同時に押し寄せ、キョウは声を上げられず、ただその場に立ち尽くす。
その瞬間、全身に力が抜け、意識が霧のように薄れていった。
目を開けたとき、キョウとタツキは田んぼの縁に横たわり、日差しを浴びていた。
周囲に人影が集まり、心配そうな声が聞こえる――誰かが見つけてくれたのだ。
しかし、振り返っても、もうタツオミの存在はどこにもなかった。
夢の中で守ってくれたあの人は、この世界から完全に消え去っていた。
田んぼの稲穂は穏やかに揺れ、ただ夏の風だけが残っている。
胸の奥に残る微かな熱と、恐怖の余韻――それだけが、消えたはずの存在を思い出させた。
キョウは手を握りしめ、タツキの肩に触れた。
もう二度と戻らないあの日々と、しかし心の奥に確かに宿る守り手の記憶が、静かに胸に刻まれている。
目を開けると、足元は湿った土の感触、遠くには黄金色の稲穂が風に揺れる田んぼの真ん中に立っていた。
周囲の景色はどこか懐かしく胸の奥に甘い記憶がこみ上げる――そう、ここは、幼い頃に三人で遊んだ場所だった。
「タツキ、待って!」
「タツオミ、こっちだよ!」
声をかけ合い、三人は泥の感触を楽しみながら走り回る。
空は異様に青く、稲穂の間を吹き抜ける風は優しく、夢の中なのに温かい。
けれど、どこかに違和感がある――空の端が揺らめき、視界の隅で、かすかな黒い影が蠢く。
「……なんだ、あれ……」
くねくね――その名も知らぬ得体の知れない存在が、田んぼの縁にひょろりと立っていた。
形は不定、腕のようなものが絶えず伸び縮みし、目はなく、ただひたすらに空間を歪ませている。
影は生き物のように動き、空気そのものがねじれる感覚に、キョウの胸は凍りついた。
「や……!」
叫び声も届かず、三人の足元に黒い瘴気が這い寄る。
くねくねはあっという間に距離を縮め、手を伸ばした。
タツオミが、何かを決意したように、キョウとタツキを抱き寄せる。
「俺が……」
瞬間、影の触手が二人を追おうとしたその瞬間、タツオミの体が黒に包まれ、吸い込まれていく。
キョウは目を大きく見開き、手を伸ばすが、届かない。タツオミの顔が一瞬だけ微笑み、そして闇に溶けた。
「タ……ツオミ!」
残されたのは、くねくねの不気味な笑いともつかぬ音と、風に揺れる稲穂のざわめきだけ。
だが次の瞬間、タツキ――双子の弟のほうが
どこかぎこちなく、しかし確かにタツオミの意思の残滓を宿しているかのような目で、
キョウを見返す。体の内側に潜む存在を感じ、胸の奥がぎゅうっと締めつけられる。
「……ここにいるんだ……くく」
影が混ざった弟タツキの目は冷たく、しかしどこか守ろうとする温もりもある。
恐怖と安堵、混乱と悲しみ――すべてが同時に押し寄せ、キョウは声を上げられず、ただその場に立ち尽くす。
その瞬間、全身に力が抜け、意識が霧のように薄れていった。
目を開けたとき、キョウとタツキは田んぼの縁に横たわり、日差しを浴びていた。
周囲に人影が集まり、心配そうな声が聞こえる――誰かが見つけてくれたのだ。
しかし、振り返っても、もうタツオミの存在はどこにもなかった。
夢の中で守ってくれたあの人は、この世界から完全に消え去っていた。
田んぼの稲穂は穏やかに揺れ、ただ夏の風だけが残っている。
胸の奥に残る微かな熱と、恐怖の余韻――それだけが、消えたはずの存在を思い出させた。
キョウは手を握りしめ、タツキの肩に触れた。
もう二度と戻らないあの日々と、しかし心の奥に確かに宿る守り手の記憶が、静かに胸に刻まれている。
