夕焼けが、低い。
空は焼かれたように赤く、田んぼ道は静かだ。
この時間、人はほとんど通らない。
キョウは足を止める
来てしまった、、、本当に
胸の奥で、夢の声が反響する。
――夕方
――一人で、
――見つかるな。
振り返る
見渡す限り人は誰一人いない、足音もない。
スマホを見る、圏外ではない。
現実だ。
一歩、踏み出す。
稲が揺れる。
風はない。
なのに。
ざわ、と一方向だけ波打つ。
喉が乾く。
「……タツキ」
小さく呟く。
返事はない。
当然だった
ここにいるはずがない。
いないはずだ。
あの場所。
夢で見た、水辺。
用水路の曲がり角。
柵の壊れたところ。
覚えている。
はっきり。
足が自然と向かう。
ゆっくり近づけば近づくほど、空気が重い。
音が減る
ひぐらしは泣き止み
稲のざわめきも、止む。
異常なほど静かすぎる。
水面が見える。
赤い空を反射させて映している。
波紋はない。
そのとき。
背後で、足音。
確実な、砂利を踏む音。
心臓が止まる。
振り向く。
いない。
一本道だ、もちろん隠れる場所はない。
でも、さっきまで自分しかいなかった道に。
足跡が、増えている。
自分のものじゃない。
重なっている。
新しい。
喉が鳴る。
「……来るな」
夢の声が蘇る。
一人で。
見つかるな。
“見つかっってしまった”
背後の空気が、近い。
誰かが、立っている距離。
振り向くな。
振り向いたら。
でも。
ゆっくり、首が動く。
そこに。
タツキが立っている。
息をしていないみたいに、静かに。
夕焼けを背負って。
「何してんの」
声は穏やか。
いつもの調子。
でも。
ここにいる理由がない。
駅のほうへ行くって言った。
なのに。
「偶然」
笑う。
足音は聞こえなかった。
気配もなかった。
いつから。
「一人で来るなって言っただろ」
一歩、近づく。
距離が縮まる。
キョウは後退る。
背中が、柵に当たる。
逃げ場がない。
「なんで」
声が震える。
タツキは首を傾げる。
本当に不思議そうに。
「だって」
夕陽のせいで、目が見えない。
でも。
口元は、笑っている。
「俺が落ちた場所だろ、ここ」
血の気が引く。
言ってない。
誰にも。
夢の中でしか聞いていない。
タツキは、さらに一歩。
影が、重なる。
キョウの影と。
でも。
足元を見る。
影が、三つある。
夕焼けは一方向。
なのに。
三つ。
「思い出した?」
柔らかい声。
耳元。
距離が近すぎる。
息が、冷たい。
「お前、最近よく夢見るだろ」
否定できない。
喉が動かない。
タツキの指が、頬に触れる。
ひやりと冷たい。
「会った?」
その言葉に、空気が凍る。
会った。
夢で。
でも言えない。
言ったら。
何かが決定する。
沈黙。
数秒。
長い。
タツキの目が、ゆっくり細くなる。
「……ふうん」
笑う。
でも。
今度ははっきり見えた。
瞳の奥。
白いものが、揺れている。
人の形。
関節の曖昧な、布みたいな。
それが、内側から覗いている。
「キョウ」
低い声。
重なる。
二つ。
同じ高さ。
同じ音。
でも温度が違う。
背後の水面が、波打つ。
風はない。
なのに。
白い揺れが、水から立ち上がる。
長い。
細い。
手みたいに。
キョウの足首に、触れる。
冷たい。
動けない。
「帰ろう」
タツキが言う。
優しく。
救うみたいに。
「危ないから」
その背後で。
もう一つの影が、ゆっくりと立ち上がる。
完全に。
夕焼けの中で。
キョウは理解する。
先回りされていたんじゃない。
最初から。
ここへ来させた。
足元の白が、締まる。
呼吸が浅い。
遠くで。
夢の声が、かすれる。
「……逃げろ」
聞こえないくらい小さい。
でも。
確かに。
タツキの指が、顎を上げる。
目が合う。
「俺から離れるな」
それは、命令。
選択肢はない。
夕焼けが、沈む。
影が、完全に重なる。
三つ。
空は焼かれたように赤く、田んぼ道は静かだ。
この時間、人はほとんど通らない。
キョウは足を止める
来てしまった、、、本当に
胸の奥で、夢の声が反響する。
――夕方
――一人で、
――見つかるな。
振り返る
見渡す限り人は誰一人いない、足音もない。
スマホを見る、圏外ではない。
現実だ。
一歩、踏み出す。
稲が揺れる。
風はない。
なのに。
ざわ、と一方向だけ波打つ。
喉が乾く。
「……タツキ」
小さく呟く。
返事はない。
当然だった
ここにいるはずがない。
いないはずだ。
あの場所。
夢で見た、水辺。
用水路の曲がり角。
柵の壊れたところ。
覚えている。
はっきり。
足が自然と向かう。
ゆっくり近づけば近づくほど、空気が重い。
音が減る
ひぐらしは泣き止み
稲のざわめきも、止む。
異常なほど静かすぎる。
水面が見える。
赤い空を反射させて映している。
波紋はない。
そのとき。
背後で、足音。
確実な、砂利を踏む音。
心臓が止まる。
振り向く。
いない。
一本道だ、もちろん隠れる場所はない。
でも、さっきまで自分しかいなかった道に。
足跡が、増えている。
自分のものじゃない。
重なっている。
新しい。
喉が鳴る。
「……来るな」
夢の声が蘇る。
一人で。
見つかるな。
“見つかっってしまった”
背後の空気が、近い。
誰かが、立っている距離。
振り向くな。
振り向いたら。
でも。
ゆっくり、首が動く。
そこに。
タツキが立っている。
息をしていないみたいに、静かに。
夕焼けを背負って。
「何してんの」
声は穏やか。
いつもの調子。
でも。
ここにいる理由がない。
駅のほうへ行くって言った。
なのに。
「偶然」
笑う。
足音は聞こえなかった。
気配もなかった。
いつから。
「一人で来るなって言っただろ」
一歩、近づく。
距離が縮まる。
キョウは後退る。
背中が、柵に当たる。
逃げ場がない。
「なんで」
声が震える。
タツキは首を傾げる。
本当に不思議そうに。
「だって」
夕陽のせいで、目が見えない。
でも。
口元は、笑っている。
「俺が落ちた場所だろ、ここ」
血の気が引く。
言ってない。
誰にも。
夢の中でしか聞いていない。
タツキは、さらに一歩。
影が、重なる。
キョウの影と。
でも。
足元を見る。
影が、三つある。
夕焼けは一方向。
なのに。
三つ。
「思い出した?」
柔らかい声。
耳元。
距離が近すぎる。
息が、冷たい。
「お前、最近よく夢見るだろ」
否定できない。
喉が動かない。
タツキの指が、頬に触れる。
ひやりと冷たい。
「会った?」
その言葉に、空気が凍る。
会った。
夢で。
でも言えない。
言ったら。
何かが決定する。
沈黙。
数秒。
長い。
タツキの目が、ゆっくり細くなる。
「……ふうん」
笑う。
でも。
今度ははっきり見えた。
瞳の奥。
白いものが、揺れている。
人の形。
関節の曖昧な、布みたいな。
それが、内側から覗いている。
「キョウ」
低い声。
重なる。
二つ。
同じ高さ。
同じ音。
でも温度が違う。
背後の水面が、波打つ。
風はない。
なのに。
白い揺れが、水から立ち上がる。
長い。
細い。
手みたいに。
キョウの足首に、触れる。
冷たい。
動けない。
「帰ろう」
タツキが言う。
優しく。
救うみたいに。
「危ないから」
その背後で。
もう一つの影が、ゆっくりと立ち上がる。
完全に。
夕焼けの中で。
キョウは理解する。
先回りされていたんじゃない。
最初から。
ここへ来させた。
足元の白が、締まる。
呼吸が浅い。
遠くで。
夢の声が、かすれる。
「……逃げろ」
聞こえないくらい小さい。
でも。
確かに。
タツキの指が、顎を上げる。
目が合う。
「俺から離れるな」
それは、命令。
選択肢はない。
夕焼けが、沈む。
影が、完全に重なる。
三つ。
