ずっと、いっしょ。

水の底
前より暗い
白い揺れが、近い。
圧がある。
息がしづらい。

「……キョウ」

声がする。
弱い。
振り向く。
タツキがいる。
でも。
透けている。
輪郭が崩れている。
肩のあたりが、白く侵食されている。

「……お前」

思わず駆け寄る。
足が重い。
水が絡みつく。

「時間が、ない」

息が荒い。
声がかすれている。
前はもっと、はっきりしていた。

「何が起きてる」
「押さえられてる」

苦笑する。
強がりだ。
でも震えている。
白い揺れが、背後で波打つ。
触れそうな距離。

「聞け」

タツキが、キョウの両肩を掴む。
冷たい。
以前より、ずっと。

「田んぼに行け」

心臓が止まる。

「……は?」
「夕方」
「一人で」

言葉が区切られる。
侵食が進んでいるのがわかる。
肩が崩れる。
指先が白くほどける。

「そこに、境目がある」
「境目?」
「俺が落ちた場所だ」

その瞬間。
視界に、フラッシュ。
夕焼け。
水面。
沈む影。
伸ばされた手。
離れた指。

「思い出せ」

タツキの目が真っ直ぐだ。
必死。

「儀式は、そこから——」

白い揺れが一気に押し寄せる。
タツキの体が半分飲まれる。

「キョウ!」

叫び。
今度は怒りでも焦りでもない。
純粋な恐怖。

「来るな、って言ってるわけじゃない」

苦笑する。
消えかけながら。

「俺を助けろ、って言ってる」

胸が締めつけられる。

「でも」
「一人で来い」

圧が強くなる。
水が口に入る。
白が視界を覆う。

「見つかるな」
「……誰に」

答えはない。
タツキの顔が崩れる。
最後に。

「信じろ」

その声だけが、はっきり残る。

目が覚める。



息が荒い。
手が震えている。

でも。
今度は、覚えている。
田んぼ。
夕方、一人で。はっきりと
布団の外
廊下の向こうで、物音がする
心臓が跳ねる
足音
止まる
自室の前。
ノックは、ない。
ただ。
気配だけが、ある。
数秒。
長い。
やがて、離れていく。
キョウは息を止めたまま、天井を見る。
今、行かなきゃいけない場所がある。
そして。
知られてはいけない。