ずっと、いっしょ。

水の底暗い。
でも前より近い。
距離が縮まっている。

「キョウ」

振り向く。
今度は、はっきり見える。
タツキ。
制服姿。
少し濡れているみたいに輪郭が揺れているけど、顔は間違いない。

「……タツキ」

胸が詰まる。
言いたいことが多すぎるのに、言葉にならない。
タツキは苦く笑う。

「やっと、ちゃんと見えたな」

声はいつも通り。
でも息が浅い。
時間が長くないのがわかる。

「お前、あいつの声、聞いてるだろ」
「あいつ?」

白い揺れが遠くで波打つ。
空間が軋む。
タツキが一歩近づく。

「俺じゃないほう」

その言い方に、心臓が跳ねる。

「……何言ってんだよ」

否定したい。
でも。
夢の外で重なる声。
窓の外の影。
思い出しかける夕暮れ。
三人だった。

「キョウ」

タツキの目が真剣になる。
怖いほどに。

「名前を、思い出せ」
「名前?」
「俺たち、三人だった」

頭の奥で何かが割れる。
田んぼ。
夕焼け。
白い揺れ。
叫び声。
水音。
そして。

「タ——」

口が勝手に動く。
でも、音にならない。
空間が震える。
白いものが一気に近づく。
タツキがキョウの腕を掴む。
冷たい。

「言うな」

焦り。
でも同時に。
言え、という圧もある。
矛盾。

「タツ——」

喉が焼ける。
無理やり引きずり出す。

「タツオミ」

言った瞬間。
世界が止まる。
白い揺れが、ぴたりと静止する。
タツキの表情が、ほんの少し安堵に変わる。

「そうだ」

小さく頷く。

「俺は——」

そこで、空間が裂ける。
白いものがタツキの肩を飲み込む。

「キョウ、思い出せ」

声が遠ざかる。

「儀——」

途切れる。
水が流れ込む。
白。
目が覚める。

朝。
カーテンの隙間から光。
心臓がうるさい。
夢を見た。
確実に。
重要なことを。

「……タツ……」

そこまで出て、止まる。
何だった?
誰の名前?
三人?
頭が重い。
思い出せない。
ただ。
胸の奥に、嫌な感触だけが残っている。
登校。
校門の前でタツキが笑う。

「おはよ」

いつも通り。
穏やか。

でも。
一瞬だけ。
ほんの一瞬。
その目が、こちらを探る。

「変な夢でも見た?」

心臓が跳ねる。

「……なんで」
「顔に出てる」

柔らかい声。
でも、奥が冷たい。
キョウは首を振る。

「覚えてない」

本当に、覚えていない。
名前だけ。
なにか、三文字くらい。
でも、もう掴めない。
タツキは微笑む。

「ならいい」

背後で、影がわずかに揺れる。
風はない。
でも。
ほんの少しだけ。
長く、伸びた。